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おそるおそる手の中を見ると千切れた写真があった。
だが不幸中の幸いか黄色いワンピースの子の部分だけだった。
と言う事は好きな女の子がいると思われる写真は比奈山の手にある。
はーっと息を吐く蒼夜だったが比奈山はその写真をぐしゃっと握り潰す。
それに蒼夜は目を見張り戸惑った声を出した。

「大事な写真じゃないのか?」
「それを今すぐ渡せ」
「…それ?………はぁっ!?」

それとは即ち蒼夜が持っている写真だ。
黄色いワンピースの子しか写っていないのに なぜこっちを欲しがるのだろうか。

「いや、無理!」

蒼夜は速攻拒否する。
何が何でも絶対に比奈山に渡すわけにはいかなかった。
突然、ビリッとした空気を肌で感じ取った蒼夜は獅子の瞳がギラリと光った瞬間を見た。
その直後、本性を曝け出した獣が襲い掛かかってくる。
間一髪かわした蒼夜はドアの方へと駆け出すが服を掴まれベットの上に転がった。
そして身体を起こす前に圧し掛かられ動きを封じられた。

「写真を寄こせ」
「…っ、嫌だ!」

蒼夜の手の中で写真が握り締められる。
しかし無理矢理腕を捩じられて苦痛に顔を歪めた蒼夜はうっかり手を開いてしまった。
そこからグシャグシャになった写真が舞い落ちた。
それを比奈山は感情の読めない目で見つめている。

もしかして…と蒼夜は思った。
だがこれまで予想をした勘は皆外れている。
だからきっとこれも勘違いだ。

「なあ、陽一の好きな子って…その黄色いワンピースの子…?」

何も比奈山は答えなかったがそれは無言の肯定だ。

マジでえぇぇぇぇぇえっ!?

蒼夜は心の中で絶叫した。
何もこんな時に勘が当たらなくてもいいのに…。

「な、なんでよりによって…ってかいつ陽一と会ったんだ?」

小さい声だったが口に出ていた言葉を比奈山は聞き逃さなかった。

「知っているのか。その子を」

蒼夜は口を引き結び何も知らないと首を左右に振る。

「蒼夜。知っているんだろう」
「し、知らねえよ」

鋭い爪で今にも引き裂かれるような空気になるがそれでも蒼夜は首を左右に振った。
比奈山はクッと冷たく笑う。

「なら正直に言うようにするまでだ」
「何すんだっ」

蒼夜の服が脱がされ始める。
頭の上まで捲り上げられ素肌が晒された。
二度に渡る暴行のせいで付けられた青痣や擦り傷が痛々しい。
酷い所にはガーゼが貼られている。
暴力で口を割らせる気なのかと蒼夜は身を強張らせた。
素人の生徒達ならまだしも相手は油断ならない比奈山である。
どうやったら相手を弱らせるかぐらいの事はきっと分かっているはずだろう。
軽傷では済まないかもしれない。

「ま、待て!殴るのか?お前、生徒会の副会長だろ!?白王子だろ!?」

じたばたと比奈山の下でもがきながら必死に訴えた。
冷たく見下ろす比奈山は口角を上げ、蒼夜の胸や腹を指でなぞった。

「殴る?そんな事はしないさ」

では何をするというのか。
ちっとも不安を拭えない蒼夜は嫌な予感だけを感じるまま比奈山から視線を外せない。
しばらく蒼夜の身体を見ていた比奈山の視線がスッと上げられそれと目が合った途端、 ゾワッと総毛立った。
身構える間もなく仰向けだった身体はうつ伏せにさせられ 中途半端に脱がされていた部屋着の袖で腕を後ろ手に結ばれて拘束された。

「おいっ!何す……ちょっ、おおお!?」

ズボンとパンツが下ろされる。
蒼夜の尻が剥き出しにされた。

「ふざけんな!バカヤロー!」

叫ぶ蒼夜を無視して尻をゆっくりと撫で上げる。
そして背に圧し掛かって来た比奈山は耳元に口を近づけた。

「言う気になったか?言えばこれ以上はしない」

これ以上…!?
蒼夜はあまりの驚愕に目を見開いていく。
そういう手段で来るとは想像つかなかった。
そこまでして黄色いワンピースの子の情報が欲しいのか。
蒼夜だって自分に係わりがなかったら教えてあげていたのだが。
やはり無理なものは無理だ。

「さっきから知らねえって言ってんだろ!……うあっ!!」

ズブッと尻の間の奥にある入口に何かが入って来た。
それが比奈山の指だと分かると羞恥心と怒りで蒼夜の顔が真っ赤に染まる。

「止めろ!」
「言えば止めてやる」
「だから知らねえって何回言えば…っ、いってー!!」

指が二本に増やされた。
何の潤いもなく動かされているためビリビリッとした痛みがした。
強い力で押さえ付けられているせいで身体が自由に動かせずさっきから 叫ぶ事くらいしか出来ない。

「汚ねぇとこに指入れてんじゃねえよ!」
「何でもいいからその子の情報を言え」
「知らねえもんは知らねえんだよ!…うっ…!」

指が抜かれ、諦めてくれたのかと身体を動かせるギリギリのところまで捻って比奈山を 見た蒼夜は己の考えが甘い事に気付き呼吸が乱れブルっと身体が震えた。
おかしい、なぜそこまでその子に拘るのか。
好きな子らしいが当時出会っていたら比奈山は4歳くらいの時になる。
普通こんなにも執着するものなのか。
蒼夜にも忘れられない女の子がいるが人を脅してまで知ろうとは思わない。
逢えるなら逢いたいがただ体の弱かったあの子が元気にいてくれたら良いだけだ。

腰がグイッと持ち上げられると指が入っていた所に別のモノが押し当てられ蒼夜の全身から ザッと血の気が引いた。

「や、止めろ…っ!陽一!!」

硬度を持っているそれはまだ十分に解されていない入り口を無理矢理こじ開け押し入って来た。

「ああああああーっ!!」

あまりの痛みに身体が跳ねビッと皮膚が裂ける音が伝わってくる。
蒼夜は自分の中に比奈山のモノが入って行く事に恐怖を感じた。
今の時点でこんなに苦痛なのに蒼夜を犯すその大きさは半端なく全部入るなんて 想像がつかない。
太ももに血が伝わり流れて行く。
このままでは二宮が言った通り殺されるかもしれない。

「お、おかし…い…おま、え、おか、しい」

歯を食いしばり切れ切れに声を出した。
比奈山は容赦なく腰を前に進めていく。
蒼夜のうめき声を聞きながら比奈山は静かに呟いた。

「俺は狂っているんだろう。随分昔に光を失い闇が再び己を覆い尽くそうとしている。 あの子は俺の光だ。愛おしい光だ」
「ぐあああああああーっ!!」

腰を強く打ちつけ蒼夜の中へと突き進んだ。
遠のく意識の中で途切れ途切れに比奈山の声が聞こえてくる。

「幼い頃俺は心臓が悪く手術しても成功するのは難しいと言われていた。 別に生きたいと思う事はなかったからどうでも良かった…だがあの子が空から 落ちてきた。春の木漏れ日の中に降り立ったあの子が光をくれた」

比奈山は蒼夜を揺さぶりながらその子の名前を切ない声で囁いた。

「そうちゃん」

蒼夜はまさか…と思いながら闇に意識が引きずり込まれていった。




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