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「竜司っ、マジでどけ!そしてあそこから逃げろ、今すぐ!」

蒼夜は急いで窓を指差した。

「…あ?」

藤堂は不機嫌そうに蒼夜を睨みつける。
しかしそんな事蒼夜は構っていられない。
藤堂に分かるように素早く伝える。

「いいか良く聞けよ。今、外には葵だけじゃなくて生徒会の副会長までいるんだよ。そんなヤツに竜司が ここにいるって知られたら生徒会に連れて行かれて 色々聞かれる事になるんだぞ!澪姫と取り巻き達の目も覆いたくなる惨状について どう説明するんだよ!」
「知るか」
「ーーー!!このバカ竜司!お前がそう思っててもあいつらは騎士団を使って竜司を捕まえにくる からな!追いかけ回されてもいいって言うならここにいろよっ」

数秒考えていた竜司は身を起こした。
追いかけてきた騎士団は返り討ちにしてもいいが常にうろつかれるのはめんどくさい。
百獣の王様は自分のテリトリーに入ってこられる事を嫌うのだ。
チッと舌打ちした藤堂は蒼夜から離れ軽々と窓枠に乗り外へ飛び降りた。
それと同時にバタバタと中へ入ってくる足音が聞こえてきた。

「蒼夜っ蒼夜〜!」

霧島が蒼夜に向かって一直線に駆け寄って来る。
慌てて大事な所を隠した蒼夜は霧島の大きな目から涙がこぼれ落ちていくのを見た。

「あ、葵?」
「蒼夜…大、丈…夫?」

大丈夫?という言葉を詰まらせるくらい蒼夜は満身創痍だった。
頭から流れる血は顔を赤く染めていて身体は擦り傷や痣をいくつも付けていて痛々しい。
それに服を殆ど纏っていない時点で蒼夜が何をされたか一目瞭然だ。
躊躇いながらそっと触れようとしてくる霧島の手を蒼夜はギュッと握ってニコッと笑い大丈夫と 頷いた。
蒼夜の素顔の笑顔に見惚れつつ霧島もつられてニコリと笑った。

「竜司が間一髪で助けてくれたんだよ」

確かに助けてくれたがその後、藤堂にされた事は思い出したくもないのでそれは言わなかった。

「竜司が蒼夜を…」

霧島は数回瞬きした後、ホウッと息を吐き心の中で藤堂に感謝した。
だが、その藤堂が見当たらない。

「竜司は…」

どこにいるの?と聞こうとした霧島の言葉を蒼夜はシッと遮った。
比奈山が此方へと歩いてくる。
蒼夜は裸眼である事に気付いて慌てて下を向いた。

「蒼夜」

目の前で比奈山が片膝を付き、着ていたブレザーをそっと蒼夜の肩に掛ける。
その途端、蒼夜は大好きなあの匂いに包み込まれた。
気が張っていた身体は余計な力が抜けてふらりと前方へ傾ぐ。
倒れそうになる蒼夜を比奈山は受け止め自分の胸へと引き寄せた。

「霧島君、騎士団長に連絡を。蒼夜を保健室に連れて行く」
「はいっ」

貧血が再発したのだろうか。
それとも陽だまりの匂いのせいなのかクラクラ、ふわふわして力が全く入らず比奈山に 身体を預けるしかなかった。
胸に埋めるようにして顔をくっつけていたが真っ白なシャツが赤く染まっているのが見え 思わず離れようとする。
しかし比奈山はそれを許さなかった。
あーバカ、シャツが汚れるのに…と段々眠くなってきた蒼夜はそのままクタリと意識を失った。









霧島は携帯を取り出して二宮に掛ける。

『霧島、どうした。塚森は見つかったのか』
「はい。見つかって僕と比奈山君と一緒にいます」
『どんな状態だ』

先程の蒼夜の姿を思い出して自然と涙がジワリと出てくる。
それを手の甲で拭った。

「頭から血が出ていて身体も打撲と擦り傷がひどいです」
『犯られたのか?』

単刀直入の言葉に一瞬、霧島の身体が強張った。
蒼夜は竜司が助けてくれたと言っていた。
それも間一髪で。
きっと竜司が助けに向かわなければ最悪の事態になっていたかも知れないと思うと喉の奥が震えて 痛み出す。
何とか声を絞り出し二宮に否、と伝えた。

「今から蒼夜を保健室に運びます」
『分かった。塚森が見つかった場所にやつらはいるのか』
「はい。6人程生徒が気を失っている状態で倒れていますがその中には主犯の澪姫もいます」
『すぐ西原達をそこへ向かわせる。場所は』
「実習棟裏の林の中にある大きい物置小屋です」

霧島は蒼夜を横抱きにして保健室へと向かう比奈山の後を小走りで付いて行きながら 今は使わなくなっていた物置小屋を振り返った。
実習棟裏など一般生徒は寄り付かないのでほとんどの生徒が林の奥まった所にある物置小屋の 存在を知らないだろう。
なぜ霧島がこの物置小屋に辿り着いたかというと生徒会メンバーは広大な学校の敷地 にあるあらゆる建物を把握している。
各棟はもちろん大小様々な講堂も今回の物置小屋も全てだ。
そして藤堂が授業をサボるときに行く場所の一つとしてよく実習棟裏を使っている事を知っていた 霧島は竜司、大きい物置小屋、窓から木が見えるという蒼夜が携帯で伝えて来た言葉から ピンポイントに実習棟裏の林の中にある大きい物置小屋が導き出された。
慌てて実習棟への渡り廊下を走っていると比奈山に会い共にそこへと急いだ のだった。




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