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固いものにぶつかった衝撃で蒼夜の意識が覚醒した。
頭がズキズキと痛み縛られているのか手足が動かない。
頬に木の板のようなざらざらする感触がする。
ほこり臭い空気が漂っていて倉庫なのか物置なのかそんな雰囲気を感じさせる中にいた。
状況を確認しようと目を開けたつもりだったが真っ暗で何も見えなかった。
一瞬、目が見えなくなったのかと焦るがどうやら目を布で覆い隠しているようだ。
ホッと安堵した後、人の話し声が聞こえてきて直ぐに耳を傾けた。

「これ生きてるんだよね」
「はい、もちろん。殺してはいません」
「血が出てるんだもの。ビックリしただろ」
「すみません。澪姫の事を考えたらつい力が入ってしまって…」
「ふふっ。もういいよ。あれだけ忠告してあげたのに言う事聞かない愚かなコイツが悪いんだ」

人の気配と会話から推測して6人くらいか。
その内の尊大な態度で話しているのが澪姫だろう。

「ところでコイツまだ起きないの?」

自然と目が覚めるのが待てない澪姫は飽きた様子だ。
取り巻きはそんな澪姫の機嫌を損ねないように行動を移した。
蒼夜の腹に蹴りあげた足が食い込む。
衝撃でヒュッと息が詰まった。
ぜってぇーこいつら半殺しにしてやると心に決めながら咳込む。

「ねぇ起きたの?」
「そのようです」
「塚森蒼夜。僕は優しいから最後に一回だけ忠告してあげるよ。今後一切比奈山くんに近づかないって 約束したら許してあげる」
「…何で」

テメーにそんな事言われなきゃならねえんだ、と残念ながらまた咳が出て最後まで言えなかった。

「君は転入生なんだってね。だから知らなかったのかもしれないけれど比奈山くんには親衛隊が 存在していて僕はその隊長なんだ。一般生徒が比奈山くんに話し掛けたりするのは僕の許可が 必要だし告白なんてもってのほか。いずれ比奈山くんと僕は恋人になるって事を忘れないでね」

蒼夜は呆れ返ってしまった。
何ていう自己中。
比奈山はこれっぽっちも澪姫の事を好きでもないのにどうしたらそんな話しになるのだろうか。
これでは比奈山と友達になりたい生徒やなによりも比奈山自身がかわいそうになってきて 同情してしまった。

「理解できた?難しい事なんて言ってないでしょ?」
「無理だね。俺は頭悪いからアンタの言う事は理解不能だわ。アンタは勘違いをしてるみたいだから 言っておくけど俺が陽一に近づいてるんじゃなくて陽一が俺に近づいてんだよ」

目隠しをされているから澪姫の姿は見えていないがボソッと呟いた声が耳に聞こえてきた。
次に癇癪を起こしたように澪姫が叫んだ。

「お前ごときが比奈山くんの名前を勝手に呼ぶなんてっ!」
「いや…勝手じゃねーし」

そこかよと蒼夜は思ったが澪姫にとっては重要な事だった。
以前、偶然に2人っきりになった時、甘い声を出しながら比奈山を陽一くんと呼んだ事があった。
その時、近しい間柄でもないのに勝手に名を呼ぶなと丁寧にかつほほ笑んで言われているのに 背筋がゾッとして身体が訳も分からずガタガタと震えたのだ。

「こんなヤツに比奈山くんは名前で呼ばせているのか」

ああっと顔を両手で覆い、よろけるように後退した澪姫は肩を取り巻きに支えられた。
取り巻き達の澪姫様っと言う声があちらこちらから聞こえてくる。

「何てことだ僕の比奈山くんが…っ!!」

絶望的な声を出している澪姫に蒼夜はなんとなく聞いてみた。
田中もそうだがそこまでして比奈山のどこがいいのか。

「澪姫さ、陽一のどこが良いわけ?」
「…比奈山くんは僕の理想そのものだ。白王子という名にふさわしく穢れの無い光を纏い常に 満ち溢れる自信と共にキラキラと輝いている。そして聡明で美しく男らしい。 家柄も申し分なく僕と十分につり合える。そんな彼に惹かれないわけがないだろう」

最後の方なんかそんなことぐらい聞かなくても分かるだろうという感じだった。
だが、万が一澪姫が比奈山とくっついたとしたら澪姫の未来は決まっている。
表面しか見ていない澪姫は比奈山が抱えている闇を見たとき一生分の後悔をするに違いない。
気付いた時には比奈山の闇に呑まれ骨の髄まで食われているだろう。
それでも比奈山を愛せていたら立派なものだ。
いずれにせよ結局末路は決まっているので蒼夜は親切心で言ってあげた。

「陽一は澪姫に合わないから止めた方が良いって」

その直後、床を軋ませながら蒼夜の元へ人の気配が近づいて来た。
そして思いっきり腹を踏み付けられる。

「いっ…!!」
「この僕が比奈山くんにふさわしくないとでも言うのか!」

激怒した澪姫は二度三度と同じ場所を踏み続けた。
そして息を切らしながら取り巻きに命令をする。

「やれ」

手足が動かない今、ガードする事も出来ないわけで軽傷だけで済むのか微妙なところだ。
この場所へ拉致された事に比奈山達が何とか気付いてくれるのを願うしかない。
それまで持つかなぁーと蒼夜は他人事のように考えていた。

身体を押さえつけられいよいよ攻撃が始まると思い衝撃に備えて身体に力を入れるが その時は来なかった。
あれ?と思っていると数本の手が身体を這い回り始めた。
その行為に一気にゾワーっと鳥肌が立つ。
シャツが捲り上げられ直接肌に触れてきた時、たまらず叫んでしまった。

「だわーーーーっ!!ちょ、ちょっとストップゥ!ねえねえねえねえっ!聞きたいんだけどさ、 まさかやれって殺れじゃなくてもしかして犯れ!?」

パニックになっている蒼夜がおもしろいのか澪姫はバカにしたように笑った。

「あたりまえだろう」
「ぎょえぇぇぇぇえ〜っ!!」

男に犯られるなんて冗談じゃないと身を捩るがそんなもの抵抗にもならなかった。
シャツが首元まで上げられ自分でも触らない胸の突起を弄られた。
何回も抓られ押され揉まれる。
そんな事をされても嫌悪感しか生まれない。
蒼夜は罵倒しながら抵抗するがどんどん身ぐるみを剥がされていった。
カチャリとベルトの外す音がして反射的に足を上げたが縛られていたために取り押さえられてしまった。
そしてズボンが脱がされる。
膝辺りまで下げられそれがますます足の自由を奪う。

「へぇー。それなりに筋肉がついてるんだね。鍛えてるの?」

こんな状況で会話なんてしてる余裕があるかってんだと心のなかで罵りながらそれに 答えないでいると機嫌を損ねた澪姫が冷たく目を細める。

「身体が丈夫そうで安心したよ。これならこの人数でも耐えられるね」
「なっ!テメーふざけん……ぐぅっ!」
「澪姫に何ていう言い方だっ」

怒った取り巻きが蒼夜の頬を殴った。
その衝撃で頭の傷に響きぐらりと目が回る。
貧血を起こしたようで平衡感覚がおかしくなり吐き気にも襲われる。
必死に意識を繋ぎとめていると下半身にも手が及びまさぐって来た。




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