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「あのー竜司さん、ここ俺の部屋ですけど」

寮室に帰り自分の部屋に行くと藤堂が我が物のように蒼夜のベットの上で寝ている。
野性的な美貌の百獣の王は覚醒しておらず一般人を震えさせる目は閉じられている。
ツンツンと頬を突っついてみるが反応はない。
次にスッと通った高い鼻をキュッと指で掴んでみる。
反応はない。
だが次の瞬間パチッと目が開いた。

「わっ!」

驚いた蒼夜は指を離す。
同じタイミングでバタバタと駆け込んでくる音がしてきた。
藤堂は起き上がり蒼夜ではなく部屋の入口に立っている霧島を見た。
霧島は藤堂ではなく蒼夜を見て良かったと声を漏らした。

「僕、蒼夜に接触してきたって聞いて心配で。無事で良かったよ」
「それで来てくれたの?」
「…うん」

蒼夜は目の前の愛らしい友人に胸が温かくなった。
葛城も霧島も自分の事を考えてくれていると思うと情に厚い蒼夜にとって目頭が熱くなってくる。

「お、お前ら…。大好きだぜー!」

叫びギュウッと霧島に抱きついた。

「大丈夫、俺はちょっとやそこらでやられる男じゃねえし!」
「蒼夜が協力させられる前にもっと僕が何とかすればみんなを止められていたかもしれないと思うと…」
「過ぎた事はしょうがないって。後はさっさと終わらせればいいんだし、なっ?」

蒼夜が霧島にニカッと笑った所で後ろに引っ張られベットの上に放られた。
スプリングにバウンドしながら藤堂を睨み付ける。

「何すんだよ、俺は今感動の抱擁最中だったのに…。ていうか何で俺がお前に睨みつけられなきゃ」

ならんのだと言おうとしたところで蒼夜のセンサーが働いた。
まさか、そうなのか?と藤堂と霧島を交互に見る。
そうだと蒼夜は頷いた。

「ごめん、竜司。気付かなくて」

謝られた藤堂は怪訝な顔をする。
霧島はなぜか嫌な予感がした。

「ねぇ、蒼夜…。今思っていること言ってみて」
「えっ!?」

蒼夜は少し恥ずかしそうに後頭部を掻く。

「だからさ、その、竜司と葵は…だろ?」
「聞こえないよ」
「こ、恋人同士なんだろ?」

霧島は固まった。
どこをどのようにしたら藤堂と恋人同士に見えるのか。
家の事情で秘密にしているが藤堂と霧島は血の繋がった兄弟である。
チラリと横を見ると藤堂は無表情で蒼夜を見ている。
何を考えているのかはこの時は霧島にも分からなかった。
生徒会室での出来事といい蒼夜はそっち方面に関しては鈍いという事が判明した。
そして思い出す。
二宮が指摘した比奈山の嫉妬という言葉。
霧島はまさかと己の考えを否定したが心配は完全に払拭できない。
比奈山の方は様子を見る事にした。
とりあえず蒼夜の誤解を解かねばならない。

「あのさ、ここにきて男同士で恋愛とかあって驚いたけどさ、二人が付き合ってても今は偏見とか そんなの無いっていうか、むしろ応援するし…うん」
「蒼夜、一言いい?」
「ん?」
「僕と竜司が恋人同士って全く違うから」
「えっ!?だって、ええ!?」

また勘違いだと分かった蒼夜は頭に手を当て大きく目を見開いた。

「俺、また…。でもさ白姫と黒王子ってなんかお似合いじゃん?」

蒼夜は軽く言ったつもりだった。
だが。

「あ…」

のっそりと蒼夜に近づく百獣の王。
霧島は咄嗟に止めよう手を伸ばすが間に合わなかった。
藤堂の下でギャアギャア喚く蒼夜を見てまあ、良いかと頷き霧島は退出した。

「ちょっと、葵!助けてよ!」
「黙れうるせえ」
「竜司、俺の上からどけっつーの!」
「葵が言っていた接触とは何だ」
「はぁ?」

この時蒼夜は言っていいのか迷った。
これは生徒会の秘密だ。
口を噤むことを選んだ。

「し、知らん…」

蒼夜は横を向いた。
藤堂は蒼夜の顎を掴み無理矢理正面に向かせる。

「いてぇーよっ!知らねえって言ってんじゃん!そんなに知りたきゃ葵に聞けよ!」
「…生徒会絡みか」

カチーンっと体が硬直する。
お、俺は何も言ってねぇと呪文のように繰り返す。

「まぁお前に太刀打ち出来る相手なんてそうそういないとは思うが」
「え?それって俺の事強いって認めてるって事?」

聞いた瞬間メガネが奪われる。

そして藤堂の顔が蒼夜の顔に近づいた。
蒼夜は自分の口を手で押さえた。

「なぜ隠す」
「前科があるじゃねえかよ!噛んだだろ!」
「噛まねえよ」

そうか、ならいいかと手を外し…。
いやいや良くねえよ、と我に返った。
噛まないなら何をされるのか。
息がかかるほど顔が近付き蒼夜と藤堂の目線が合う。
藤堂はベロリと蒼夜の口を覆っている手を舐めた。
ギョッと蒼夜の身体が揺れる。
微かに浮いたその手を掴み素早く蒼夜の顔の横に強い力で縫いとめた。
そして間髪を容れず蒼夜の唇を塞ぐ。

「ん、ふうっ…!?」

蒼夜は目を丸くしながら顔を左右に振って逃れようとするが藤堂の大きい手で顔を掴まれている 為、動かせなかった。
口を一文字に結んでいると割れ目を舌で舐められる。
どうやら開けろと言う事らしいが開けたら最後どうなる事は想像出来たので蒼夜は口を 結ぶ力をグッと強め拳で藤堂の肩を叩く。
百獣の王様はそれがお気に召さなかったようでカパッと口を開くと何と蒼夜の鼻を噛んだ。
蒼夜はギクリと身体が強張った。
しかし噛んだと言っても噛みちぎろうとしたわけではなく鼻を塞ぐことが目的らしい。
蒼夜は空気が吸えずフルフルと震えて来た。
こんちくしょー!と心の中で叫ぶ。
とうとう限界を超えてブハッと口を開けて大きく空気を吸い込む。
そして空気と共に藤堂の舌が入ってきた。
音を立てて絡み合う。
コイツうまいと蒼夜は眉間に皺を寄せた。
気を抜いたら持っていかれると負けず嫌いが発揮されて負けねえとばかりに藤堂に挑む。
部屋に卑猥な音が鳴り響く。

「慣れてるな」
「…はぁ?」

ようやく口が解放されたと思ったら機嫌が良くない藤堂が蒼夜を見下ろす。

「慣れてるのはお前だろ?高校生でそんなテク持ちやがって。遊んでやがるな」
「相手は誰だ」
「何でそんな事お前に言わなきゃいけねえんだよ」
「………」
「分かーった!言うよ、言うから口を開けるな!!」

今度はどこを噛まれるか分からない蒼夜は観念して溜息を吐いて話し出した。

「姐さん達だよ。母親が水やっててさ俺小さいころから店に出入りしてたから酔った姐さん達が 面白がって俺にちょっかい出してくんだよ」

もちろん蒼夜は逃げるが酔った姐さん達はある意味最強だ。
追い詰められて好きなようにされてしまう。
もちろんキス以上の事はしてこないが。
しかしレイ子にそれがばれた日にはレイ子直々の制裁が姐さん達に下されていた。

「…うわっ!!」

蒼夜が声を上げた。
藤堂が蒼夜のモノを掴んだからだ。

「こっちも教えてもらったのか」
「バッ…!!そんなわけあるか!離せ…っ!」

やわやわと揉まれて蒼夜は暴れた。

「テメッ!男の触ってんじゃねえよ!」
「フン、こっちの経験はまだないみたいだな」
「…なっ!!」

蒼夜は口を大きく開け絶句した。
まさに図星である。
彼女がいた事はあったがどうも姐さん達によるトラウマなのかそっちには最後まで及ばなかった。
その上蒼夜はそれ程性欲が強い方ではないことを自覚している。

「だーっ!!ってぇー!!」

藤堂が思いっきり蒼夜のモノを握った。
あまりの痛さに悶絶する。
藤堂は鼻で笑うと蒼夜の部屋から出て行った。
残された蒼夜はベットの上で涙目でうずくまった。

「あんのくそバカ野郎っ!結局何しに来たんだ!!」

痛みの解放は当分されそうにない。




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