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仕切り直してようやく本題に入る事が出来た。
その前の出来事で疲れてしまった蒼夜だったが自分がここに呼ばれた理由をまだ聞いていなかった。

「今さらですけど俺何で呼ばれたんですか?かなり場違いなように感じられますけど…」

もとの位置に座った蒼夜が尋ねると比奈山がプリントをローテーブルの上に置いた。
それは最新号の新聞だった。
また葛城絡みで何かあるのかと比奈山を見ればフッと笑った。

「塚森君には革命を起こしてもらおうと思っている」
「は?革命?」
「そう、転入生が起こすと言われている革命をね」
「いえ、俺はそんな恐れ多いことなんて出来ません」

蒼夜はきっぱり断った。
革命なんて平穏と真逆の位置にいるワードに興味もない。
さっさと立ち去りたかったがガッチリ生徒会メンバーらに周りを固められているため帰りたくても 帰られない状態だ。

「まぁ、話しだけでも聞いていかないか?」
「いや、いいです」
「なぜだい?」
「俺のカンが聞いてはならないと言っています」

比奈山は面白そうに目を細め三島は興味深そうに蒼夜を見ている。
蒼夜のカンは根拠はないが高確率で当たるのだ。
くるくると指で髪をいじっていた二宮がふざけていた時とは違い感情の読めない視線を向けた。

「へーカンねぇ。正解だよ、塚森蒼夜。俺たちは澪姫を追放するためにお前を使おうとしているんだから」
「は?」
「最近、澪姫のいたずらが目に余ってきていて最初はかわいいものだったんだが度を超えると 見過ごすわけにはいかないだろ?そのために俺たちはいるんだからさ」
「はぁ」

まだ話しが見えてこない。
隣からツンツンと制服を引っ張る葵を見れば必死に目線で何かを訴える。
だが何を伝えたいのか分からず二宮がまた話しかけて来たので視線を二宮に戻した。

「つまり澪姫の地位の剥奪、この計画にお前を使うよ」
「はっ!?」

目を丸くした蒼夜に三島が二宮の後に続いて話す。

「だが、地位の剥奪は建前でね、本当は澪姫の自主退学を狙っているんだ」
「た、退学?」
「そう。姫という地位を剥奪されたとなれば彼のプライドが許さないだろ?なんて言ったって秀聖学園の 歴史上、姫の称号を剥奪された人物なんていないんだからね」

姫の称号を剥奪で自主退学…。
蒼夜には到底理解出来なかった。

「な、何というか、頑張ってください」

では俺はこの辺で。と腰を上げた時、二宮がパチンと指を鳴らす。
すると隣にいる西原が蒼夜の肩を押してソファーに力任せに座らせた。

「お前はもう逃げられないよ」

二宮がクツクツと絡みつくような笑みを浮かべている。
蒼夜は顔をヒクリと引きつらせた。

「だから俺は嫌ですっていいましたけどっ」

蒼夜はふざけてねーで帰らせろと心の中で悪態をついた。
残念だけどと比奈山が口を開く。

「塚森君はもう生徒会の重要な計画を聞いてしまったから無関係ではなくなったよ」
「なっ!」

何だと―!?
勝手にお前らがしゃべったんじゃないかー!!
と叫ぶ。
もちろん胸中だが。
葵は顔に手を当てあぁと悲観そうに蒼夜を見つめた。
蒼夜は葵に顔を近づけてコソッと助けを求める。

「葵っ何とかして!何なんだこの横暴っぷりは」
「もう無理だよ。僕もまさかこんな話しをするために蒼夜を呼んだなんて知らなくて。計画を聞く前だったら何とかなったけど…。だから聞いちゃダメだってサイン送ったのに」
「そんなの分からないって!」

うーと頭を抱えたくなった。
比奈山に名前を呼ばれて蒼夜は顔を上げた。

「どうしても嫌かい?」
「そうですネ」
「もしも協力が得られない場合は君に監視が付く事になる」
「か、監視!?」
「そう。塚森君が外部にこの計画を漏らしてしまったら澪姫の追放が出来なくなる上に俺達の立場も 危うくなる」
「俺、本当に誰にも言いませんから!」
「それでは止むを得ない。監視を付けよう。いつこの計画が終わるか分からないが」
「止めて下さい。監視なんて」
「じゃあ、協力してくれるね?君が協力してくれれば早く終わるだろう。協力といっても簡単な事だよ」

どっちにしても嫌なものは嫌だ。
蒼夜は究極の選択を強いられている。
だが早く終わるならと胡散臭い比奈山の笑顔を見ながら泣く泣く協力する方を呑んだ。


平穏な学園生活は未だ程遠い。













「…で、なぜ比奈山君がここにいるのでしょうか」

昼の時間いつものテラスでランチを食べている蒼夜と霧島と葛城、そして比奈山の姿があった。
蒼夜の前に座っている比奈山はニッコリと見惚れる笑みを蒼夜に向けた。
その笑みにうっとりとする筈もなくむしろうんざりしている蒼夜はとろとろふんわりオムライスの 中央にザクッとスプーンを入れた。

「約束したじゃないか。それと陽一だろ?蒼夜」

一口入れたオムライスがグッと喉に詰まる。
そう、比奈山が言った簡単な協力というのは比奈山が蒼夜と一緒に出来るだけいる事、敬語はなし、 そしてお互い名前で呼び合うというものだった。
一見簡単に見えるがその結果がもたらすものを考えると蒼夜にとってめんどくさい協力になる。
つまりは澪姫に目を付けられなければならないのだ。
葛城の持っていたフォークがカランとテーブルに落ちた。

「お、おい蒼夜…。これは一体どういう事だ?」

この中で事情を知らない葛城は驚き隣にいる蒼夜におそるおそる聞いた。

「ああ、気にしないでくれ葛城君。俺が蒼夜に片思い中なんだ」

ゴボッと飲んでいた水を蒼夜は吹き出した。
片思い!?そんな事は聞いてないぞ!と比奈山を見れば王子スマイル…否、悪魔スマイル を蒼夜に向ける。

「なかなか振り向いてくれなくてね」

葛城は口を開けたまま比奈山から蒼夜に視線を変え比奈山に聞こえないようにコソッと耳打ちする。

「蒼夜っ、すっごいおいしいネタだけどさ!俺言ったよな?王子達に近づくなって!」
「…うん。俺だって望んだわけじゃないけど」

さっきから蒼夜の死角から好意的じゃない視線をいくつも感じる。
はーっと溜息を吐きスプーンにオムライスをすくうとジッと蒼夜を見てくる比奈山と目が合った。

「な、何?」
「おいしそうだね」
「…あっ!!」

比奈山は蒼夜のスプーンを持っている手を掴み引っ張るとパクッと口の中に入れてしまった。
その行動には葛城だけでなく霧島も驚く。
蒼夜はというと。

「お、俺のオムライスが〜ぁ」

恨めしそうに比奈山を見た。
クククッと蒼夜の言う普通の笑い方をした比奈山は蒼夜の皿の上に自分の皿からカニクリーム コロッケを置いた。
その瞬間、蒼夜の顔が輝いた。

「え!?いいの?」
「いいよ。オムライス貰ったし」
「マジで!?でも、俺の方が得した気がするんだけど」
「構わないよ」

やったーとばかりに食い付いた。

「何かお前、飢えてる子見たいだぞ」

葛城が突っ込んでくる。

「家じゃこんなの出てこないし。コロッケって言ったらジャガイモだろ普通」

幸せそうに頬を膨らませてモグモグ食べている蒼夜を見てその場が和やかな雰囲気に包まれた。

しかし。

少し離れた所で澪姫の取り巻き達に動きが出る。
それを横目に見た比奈山は目を細めた。

「あの…」
「なんだい?葛城君」

躊躇いがちに葛城が比奈山に話しかけてきた。

「比奈山副会長は自分がどういう立場か分かってます?」
「というと?」
「副会長が蒼夜の傍にくっ付いてたら色々と面倒な事が起きるのは分かってますよね?」
「親衛隊の事か?」
「分かってるならこうやって人の多い場所で蒼夜の傍に、ましてやさっきみたいな行動を起こしたら 蒼夜が危険な目に遭うのは頭の良い副会長なら理解出来るはずです」

比奈山は意外そうに葛城を見た。
てっきりネタを得たとばかりにこの事を新聞の記事にすると思っていたからだ。
それを澪姫の行動を促すものの一つに使うつもりだった。
だから葛城の前で蒼夜に絡んだのだ。
だが葛城は比奈山を非難してきた。
友人思いな葛城に比奈山は詫びる。

「すまない。配慮が足りなかった。少々浮かれていたようだ」
「…えっ。いや、まぁ何というかこっそりしてもらえば良いというか」

比奈山に謝られた葛城は戸惑う。
一方、蒼夜は感動していた。
まさか葛城が比奈山に非難するとは思わなかったのだ。

「友よ!!」

蒼夜はガバッと葛城に抱きついた。
しかし勢いのままに二人は椅子から消え音を立てて下に落ちた。
比奈山と霧島は痛いっ!と叫ぶ葛城にごめん!と謝る蒼夜の声を聞きながらお互い顔を見合せて 困ったようにほほ笑んだ。




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