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霧島の寮は第一等寮なので第三等寮よりもさらに奥に歩いて行く。
霧島はふふふっと笑みを堪え切れなかった。
最初蒼夜に会った時から面白い子だと思った。
人を寄せ付けない藤堂に触れ触れられた蒼夜。
それでも過去には美しい者達が傍に寄る事を気まぐれで許された 事もあるがどんなにその者たちが望んでも藤堂は執着する事はなかった。
しかしさっきの反応はと再びふふふふふと笑いが止まらない。
藤堂が顔を顰める笑いも生徒たちには天使の笑みに見えるの
だろう。
あちらこちらから視線が向けられ感嘆の溜息が零れている。
そんな事は気にしない霧島は蒼夜の素顔を思い出す。
確かに蒼夜は目つきが悪かったが怯える事はなかった。
なぜなら幼いころから藤堂と言う猛獣が傍にいるからだ。
それに霧島の環境もある。
だがきっと本気で蒼夜に睨まれたら怯んでしまうだろう。
それは仕方がない事だと思う。
しかし…と霧島は歩調を止めた。
あの蒼夜の笑顔は不覚にもドキッとさせられた。
あの一見、人を寄せ付けない目つきが笑ったとたん人懐っこく
豹変するのだ。
そのギャップの差にきっと竜司もやられたんだろうなと笑った。
見るなと言わんばかりに蒼夜の顔を覆った藤堂の手。
長い間一緒にいた中で初めて見せる独占欲。
蒼夜には悪いがあのタイミングで自分が来てしまったのが悔やま
れる。

「白姫」

声を掛けられ横を向くと片膝を付いて礼を取る生徒がいた。
胸には百合と剣が描かれているエンブレムを付けている。
騎士団員だ。

「沖津先輩」
「寮までお送りしますよ」
「ありがとうございます」

霧島が礼を言うと甘い顔でにっこりと沖津は笑った。
霧島は身長が165しかないので横に立った180近くある沖津を
見上げる。

「いつもすいません」
「何を言いますか。私の務めですよ」

沖津は白姫のつまりは霧島の専属騎士なのだ。
先輩なのに立場が姫と騎士なので敬語を使ってくる。
騎士団の選考基準に容姿も入っているんじゃないかと思うほど騎士
団員の面々は美男子だ。
沖津も例外ではない。

「何かいい事がありましたか?」
「あ、分かりますか?」
「ええ、顔に出ていますよ」

霧島は顔に手を当てるとにっこり笑って秘密ですと答えた。












「いってー。しみる〜っ!」
「大丈夫?蒼夜」

学園生活二日目。
優雅なランチタイムの時間。
学園の中にある食堂から続くテラスで蒼夜、霧島、葛城は一緒に
ご飯を食べていた。
ランチは毎日メニューが変わるバイキング形式になっている。
春のやわらかい日の光がさし心地良いそよ風が吹き綺麗なクラシック音楽が 奏でている中、蒼夜はその場に似合わない唸り声を上げて身悶えていた。

「カレーはやめといた方が良かったね」
「ううっ、うかつだった…」
「ほら水」

自分の事のように痛そうに眉を顰める霧島の横に座っていた葛城
から水を渡される。
礼を言って一気飲みする。
しかし痛みは簡単にひいてはくれない。

「まったくお前も壁に顔ぶつけて口の中切るなんてバカだなー」

パスタをフォークでぐるぐる巻いてる葛城にあはははと作り笑いを
した。
バカなのは竜司だと内心毒づく。
みんなには藤堂に噛まれた事は隠して壁にぶつけた事にしてある。
昨日霧島が出て行った後、人前では外すなと床に転がっていた
メガネを藤堂が蒼夜に渡した。
そんな事は言われなくても重々承知なんだよっと言い返すと藤堂は
自分の前では付ける必要はないといって部屋に戻って行ったのだった。
まあ見られてるしなぁと思いつつも次の朝メガネをつけてウロウロ
していると後ろからサッとメガネを取られた。
誰もいないんだから付けるなと言われ、それからメガネの攻防戦で
大騒ぎした。

「さっそくだけど…インタビューターイム!」
「インタビュー?」

葛城がフォークをマイク代わりに俺の前に差し出す。

「そうそう。転入生の塚森蒼夜君はどうしてウチの学園に来たわけ?」
「えーあー…校風と学力の高さに惹かれたから…かな」

本当の事は言えず面接の時と同じありきたりな返答をしてみた。
葛城はふむふむとポケットから取り出したメモ紙に書いていく。

「俺のインタビューなんておもしろくもないんだけど」
「何を言う。革命児の転入生よっ」
「か、革命児?」
「そう選考基準も全く分かっていないが時々入ってくる転入生は必ず
学園に良し悪しも革命を 起こすんだよ」
「な、なんだそりゃ」
「前の転入生は今年卒業した先輩なんだけど、三年の時期に入って
きたんだ。あの時は 凄かったね」
「何が凄かったんだ?」
「その美しさにさ。男たちはもうメロメロだね。一瞬で虜にした先輩は
次の日から姫の名を 貰ったよ」

メロメロって男が男にだよな…と蒼夜は遠い目をした。

「確かに先輩は綺麗だったね」

霧島はデザートの苺のムースを食べながら頷いていた。

「まあ過去にも色んな転入生の武勇伝があるんだよ」
「だから俺も何かするって事?残念だけど期待には答えられないよ」

むしろ答えたくない。
平穏な学園生活を望んでいるんだー!!と心の中で叫んだ。

「ところがどっこい」

怪しく目をキラーンと光らせてニヤリと葛城が笑う。
俺何かしたっけ?と冷汗が流れる。

「な、何?」
「白王子と黒王子とどういう関係なんだよ」

白…黒…。
比奈山と竜司かー!とカッと目を見開いた。

「お前と一緒にいたところを多数の生徒たちが目撃している情報は
掴んでるぜ」
「いや、別に比奈山君は先生の代わりに案内してくれただけだし、
りゅ…藤堂君は部屋が同じ だけだし」
「え?黒王子と一緒の部屋なの!?」

葛城がズイッと蒼夜の方へ身を乗り出して来た。
霧島は黙々とデザートを食べている。

「そうだけど…」
「ほーそりゃー。へー」

葛城は驚いた様子で蒼夜を見ている。

「何…?」
「うまくやってるのか?」
「それなりに」
「ふ〜ん、俺は蒼夜とはうまくいかない気がしたんだが…」
「え?何か言ったか?」
「んにゃ、別に」

小声で聞き取れなかった蒼夜は首を傾げた。
そして3回ルームメイトが変わった事を霧島から聞いていたのを
思い出した。
まあ多分竜司が気に入らないとかで追い払ったんだろうと内心思い
つつ二人に理由を聞いてみた。




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