驚いているようなジルは俺をジッとみつめた後、表情が途端に柔らかくなる。
目を細め、直ぐにぎゅーっと強く抱き締めて来た。
俺も背に腕を回し、ジルに負けないくらいの強さで抱き締める。

「ジル、ジル」
「聖司」

ジルの名前をたくさん呼べばその分、俺の名前を呼び返して来る。
ああ、ここにジルがいるんだって実感できて嬉しくて嬉しくてたまらない。
もう、離れたくない。
ジルとこうしていたい。
ずっと……。
はぁ、と息を吐いて綺麗に咲いている花々を見ていたら、その先に誰かが……いる?
あれ?

「……あ」

ぎょえああああああああああーーーーーーーっ!!!
ラヴィアさんとノエル隊長がいたんだったぁ!!
未だに跪いてうっとりとした顔をこっちに向けているラヴィアさんと目が合った気がして直ぐにジルを手で押しやった。
見られ……っ!?
見られてた!!
絶対に、一部始終見られてた!!
パニックになっている俺はわたわたとジルから離れようとしたけど、ものすごい力で引き寄せられて ジルに密着する。

「ジ、ジルっ!」
「離れるな」
「だだだだ、だって!!」

ジルが睨み付けるように見て来る。
腕はがっちりと俺の腰に回っていホールドされている。
うろたえる俺を余所にジルは音を立てながら顔中にキスをして来た。

「ちょっ、ちょっと!ジル!止めろ!わわわ……っ!止めろって!――んんっ!」

顔を背けてたら顎を掴まれて口を塞がれた。
深い深いキスを仕掛けて来て身体が震えて来る。

「む、んっ、んんっ!」

ラヴィアさんに見られている事を何とか分からせようとジルの腕をバシバシ叩いたり服を引っ張ったりした。

「ジ、ルっ」
「聖司、聖司」
「あ、ふっ、ん」
「聖司、好き」

ジルは唇をくっつけたまま好きと囁いてからキスをする。
それを何回も繰り返して来る。
力が抜け切ってぐったりとしている俺をジルが見つめて来る。
目を細め、口角を少し上げた。
美形が笑う視覚の破壊力はすごいなと再確認した直後。

「大好き」
「……!!」

ジルハ ダイスキヲ オボエタ!
ジルハ ダイスキヲ トナエタ!

俺は目を見開いたまま硬直する。
まさか言われると思わなかった。
しかも一回だけじゃない。
俺を抱きしめながらたくさん言って来る。
好きと言われるのだって恥ずかしいというか、そんなに慣れていないというか……。
そ、それなのに大好きだなんて!
もちろん嬉しいんだけどさっ!
心臓がオーバーヒートしそうなくらいバクバク鳴っている。
こ、ここここれ以上言わせてはダメだ!
俺の命が危うい!

「ジル!ダメ!大好きはダメ!」
「なぜ」
「だって、だって……」

お前に言われるとめちゃくちゃ死にそうになるんだよ!
ああ、心臓が悲鳴を上げている……。
ジルを納得させる理由を直ちに考えなければならず、ぐるんぐるん思考を働かせて、ようやく出た言葉が……。

「大好きは俺が使っていいの!俺が先に言ったんだからな!ジルは使っちゃだめ!」

訳の分からない理不尽なセリフを言っている自覚はあったけど必死だったんだ。
俺の心臓の為に!

「……」

ジルは当たり前だけどめちゃくちゃ不満気な顔をしている。
そして……。

「大好き」
「――っ!」

ジルノ コウゲキ!

「大好き、聖司」
「――っ!!」

ジルノ カイシンノ イチゲキ!

「ジ、ジルの、バカ……バカ……」

ヒットポイントがゼロになった俺はジルの腕の中で俯き、顔を赤くしながらブツブツと呟く。
だって俺を見るジルの顔が嬉しそうというか幸せそうというか蕩けるような顔というか……。
こっちが恥ずかしくなってくるような表情をしているからまともに見れない。
大好きだなんて教えなきゃ良かったかも……と、さっそく後悔中の俺は再びラヴィアさんの事を思い出して反射的にジルから離れようとした。
だが、ここでもジルの方が上で腕の中から俺を出そうとしない。

「ちょ、ジルっ!ラヴィアさんに見られてるから!」
「……」

必死に訴えるとようやくジルの視線が俺からラヴィアさんの方へと動く。
ただし、俺を抱きしめる力を強くして。
溜息を落とした俺はジルから離れる事を諦めた。
それよりもノエル隊長の手当てを早くしてあげないと。

「ラヴィアさん!ノエル隊長を医者のところへ連れて行ってあげて!」

まだ意識が戻っていないから心配だ。
俺が叫んだ後、ジルはラヴィアさんに向かって、去れと一言。
ラヴィアさんは深く頭を下げて御意と答えた。
次の瞬間にはノエル隊長を連れてラヴィアさんがこの場から転移した。

「ジル、俺、ノエル隊長の様子を見に行きたいんだけど……」
「離れるな」
「え、ちょっと」

さっきから抱き締められているままだ。
またどこかに行ってしまうと思われているのかな。
急にいなくなって心配させてしまったのは事実だ。
きっとラヴィアさんもさっきとは違って冷静になっているはずだから、ノエル隊長は俺が付いて行かなくても大丈夫だろうと思う事にした。
ジルから離れずこのまま傍にいようと、背に手を回してポンポンと優しく叩く。

「ジル、俺の事、たくさん探してくれたの?」
「探した」
「俺もさ、ジルに会う事をたくさん考えてたよ。こんなに近くにいるのに会えないんだもんなぁ」
「なぜ、呼ばなかった」
「またそれかよ。俺は呼んだよ!でもっ……あー、この話しは、なしなし!」

呼んだの呼ばなかっただの口喧嘩になりそうだったから強制的に話しを止めた。
……今、この空中庭園に俺とジルの二人だけだ。
その名の通り、空にあるような幻想的な庭園でジルと一緒にいるだなんて昨日の俺には想像すら出来なかった。
本当に何が起きるか分からないんもんだなあ。

「何を考えている」
「え?ジルに会えて良かったって思ってたんだよ。変な事は考えてないぞ。 ジルは?何を考えてんの?」

軽い気持ちで質問してみたら……。
さっきまで色々表情を出していた顔は無表情に戻っていて静かに俺を見下ろしている。
な、何だろ?




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