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俺は順を追って話していった。
偶然、ジルの屋敷からバルバティアス城に転移鏡で転移してしまい、警備隊の受験者として間違えられたんだけど、実は俺に反総統の一味の仲間の容疑が掛かっていた事。
そのせいで死にそうな目に遭って、さらに拷問に掛けられそうになった事。
牢屋に入れられて、近衛隊長が出してくれた後、一緒にジルを探してくれた事。
やっとの思いでジルに会えたら強制的に屋敷に連れてかれて、そしたら……。

「ジハイルに監禁されたと」
「えっ!?監禁まではいかないけど、何で知ってんの?」

それは楽しそうな顔で言って来たエドの言葉に驚くと、ユーディが、かわいそう聖くんっと俺の方へ手を伸ばしたが、ニケルにまだ首根っこを掴まれているので届かなかった。

「お前への執着を考えればすぐ分かるだろ。そして城のヤツらはジハイルに殺されたと」
「殺されてない!……ない……ないはず……」
「あ?」
「だって、何も教えてくれないんだよ。あの後みんながどうなったか。心配なのに」

俺はエドに頼んだ。
状況を教えてほしいと。
だけどエドは難色を示す。

「ジハイルのところの城内だろ?めんどくせぇなぁ」
「えぇ〜!」

エドはそっぽを向いている。
俺が一生懸命お願いをしていると視線だけ向けて来た。

「そうだな……ジハイルに関するネタがあれば調べて来てもいいぜ」
「はあ?ネタ?」

そんなものなんてないよ。
外にも出られず、ずっと部屋の中にいたのに。
唸りながら何かなかったか、ブツブツ呟いていたら、エドが真顔で声を出した。

「今、何て言った?」
「え?何って……」

きょとんっとした顔で見返す俺に、もう一度言えとエドに肩を引き寄せられる。
さっき言ってたのは……セバスさんが俺のせいで辞めさせられて新しい執事が入って来た事だ。

「ジハイルの執事が辞めただと?」
「……うん」
「それはいつだ」
「数日前だよ。エド?」

エドは真面目な顔で考え込んでいる。
周りを見れば、ウェルナンも同じように考えていて、一体どうしたのか。
ユーディは俺と同じように分からないのか首を傾げている。
ニケルと目が合ったので聞いてみた。

「えっと、セバスさんが辞めた事はニケル達も驚くの?」
「ええ、そうですね。セルファード公の執事の能力の高さは有名ですから」

セバスさんは他家でも有名なんだな。
それなのに、手放す事になってしまっただなんて……。
ハッ!

「セバスさんの執事能力を狙っているレヴァの一族が動き出すかも」

セバスさんが他の家の執事になってしまうなんて……そんなの嫌だ!
ああ、それだと無職のままだよな。
ジルの屋敷に戻ってきてくれたら一番いいんだけど。
でも、これは俺の我がままになるし。
ぐるぐる考えているとエドが他家の執事になる事はないと断言してきた。

「え?何で?」
「昔、うちの執事にならねぇかって勧誘した事があったんだが、はっきりと断られた」
「え!?」
「あの執事はセルファード家にしか仕えねぇよ」
「それは、ジルのヴァルタだったからじゃないの?」
「いや、それだけじゃない。あれはセルファード家に執着しているように見える」
「執着って……でも辞めちゃったんだよ」

エドはまた黙って考え込んでしまった。
そして小さな声でポツリと呟いた後、いきなり立ち上がった。
瞬きしていると腕を掴まれて引き上げられる。

「エド?」
「お前がジハイルの屋敷からまた消えている事がバレたら、楽しくなるな。次は監禁決定じゃないか?」

いい笑顔をエドは俺に見せた。

「だ、だから俺、今日はそんなに長居出来ないんだよ」
「ま、そうだろうな。お前の僕は消える事になりそうだし。それはそれで面白そうだな」
「面白いって何だよ!勝手にキオを辞めさせるなよ。キオは俺のヴァルタなんだからジルに辞めさせる権利はないんだからな」
「お前、それマジで言ってんのか?」

エドが馬鹿を見るような目で見て来る。

「すごい馬鹿にしているだろ」
「おお、偉い偉い。それは分かるんだな」
「完全に馬鹿にしてる……」
「そりゃ、お前、ジハイルの執着を全く理解してないからだ。辞めさせるだなんて甘い事するわけないだろ。 一瞬で殺すだろうな。アイツの性格を忘れたのか?ジハイルが気にいらなければ権利とかルールなんてないもんだぞ」
「え、だって……え……?」

俺は過去にキオが殺され掛けた事を思い出した。
あれは、俺がキオに吸血した時だ。
理不尽といえば理不尽なんだが……エドの言う通りジルには関係ない事なんだろう。

「やばいくらいに不安になってきた」

俺が監禁されるだけで済むならいいけど……ちょ、ちょっと、いや、かなりキオの命が心配だ。
俺一人でジルを止めるのは無理そうだし。
一旦帰ろう、そうしよう。
また後悔なんて絶対したくない。

「ごめん、俺、帰るよ。また来るから」
「え〜、帰っちゃうのぉ?あんなヴァルタの事なんか別にいいじゃん。ボクと遊ぼうよ」
「ユーディ、離せって」

ユーディが腰に抱きついて来る。

「じゃあ、ボクを吸血してくれたら離すよ。ボクだって聖くんに感じさせて欲しいもん。マスターだけずるい」

ウェルナンに修業をしてもらって、レヴァの力を使ってしまったから精気が足りていない状態だ。
だからといってユーディから精気をもらったら後々面倒くさい事になりそうだな。
いつものようにエドからもらおう。
するとユーディーが察して騒ぎ出し、それを無視して抱きつかれている腕を外そうとしている俺にエドが話しかけてきた。

「セイジ、お前ちょっと付き合え」
「え?付き合えってどこに?」
「前に四大将軍の一人に話したい事があるって言ってただろ?なかなかタイミングが合わなくて会えなかったが、今ならいると思うから直接お前が話した方がいいだろ。会わせてやるよ」
「ドリード将軍と会えるの?あ、でも、せっかくだけど……俺、ジルの屋敷に帰るよ」

まさかドリード将軍に会えるなんて思ってもみなかった。
会いたい気持ちはあるけど、キオの事が心配だから断った。
だが、エドは俺の言葉を聞いているのか聞いていないのかユーディとニケルにジルの城に行って俺が知りたがっている情報を探って来いと命令した。

「え〜!ボク聖くんといたいのにぃ〜」
「文句言ってないでさっさと行って来い。お礼にセイジがキスしてくれるってよ」
「やったーーー!」

ギョッとして慌てて否定しようとしたら、やる気満々のユーディは俺を潤んだ瞳で見つめて、気合いの入った声を出すと部屋を出て行った。
ニケルはエドに何か言いたそうな顔してたが、ユーディの後を追って行ってしまった。

「キスぐらいいいじゃねぇか」
「じゃあ、エドがしてやればいいじゃないか!」
「俺の唇は安くないんだよ。俺達も行くぞ」

エドに腕を掴まれる。
慌てて俺はエドに帰る旨を伝えた。

「今は帰るよ。また改めて来る時にドリード将軍に会えそうなら会いに行くからさ。警備隊の安否の事もその時に教えて。……というか何で急に調べてくれる事になったの?ジルの城にいる警備隊の事もさっきはめんどくさいって言ってたよね?」
「そうだったか?」

手が腰に回って来て、エドがニヤリと笑った瞬間、空間がぶれる。
浮遊感に襲われて別の部屋へと転移した。

「この部屋覚えてるか?」
「え?」

ぐるりと見渡しても、高そうな絵画や、装飾品がある貴族部屋だ。
ジルの屋敷と比べると内装は派手な気もするけど、俺の目だとどの部屋も同じに見えてしまう。

「分からないよ。ここはどこ?」
「ここはセイジが人間界からレヴァ・ド・エナールに来た時にラフィータ城の地下水路から転移してきた部屋だ」

ラフィータ城の地下水路って……反総統一味のマダールとパルチェに襲われた所だ。
万事休すって時にジルが助けに来てくれて、事なきを得た後、転移して来たこの場所は確か……。

「ルベーラ城!?え、ここって魔王……じゃなくて総統の城!?」
「そうだ」
「ちょっと!俺。帰るって言ったじゃん!キオが殺されるとかエドが言ったのに、何で総統の城に転移するんだよ!戻って、今すぐエドの屋敷に戻って!」
「うるせえなぁ。バレないと思っていればバレないって」
「すごく適当に言っただろ!」
「先に将軍の方から会わせるから、ここで大人しく待ってろ」
「エ、エドっ!」

エドが部屋を出て行き、俺は一人取り残された。
ドリード将軍に会えるのはいいけど、屋敷に帰りたいのに。
そういえば、エド……先に将軍の方から会わせるって言ってなかったっけ?
他にも会わせる人がいるのか?
首を傾げていると、カチャリとドアの開く音がした。
エドかと思ったのだが、部屋に入って来たのは、12歳くらいの少年だった。
黒のズボンにフリルの着いた真っ白なシャツ、首元には緑のリボンが付いている。
エレが好みそうな格好をした少年は俺を見ながら近づいて来る。
するとその子の黒髪の前髪から覗く瞳が紅い色だと気付く。

「君、レヴァ?」

俺の問いに何も答えず、少年は口角を上げた。




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