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な、何かすごく嫌な予感がするんだけどさ。
まさかだよな?
だって……そんな話しなんて出てなかったじゃないか。
違うに決まっている。

「セバスさん……。あの、あのっ」
「ご心配なさらないで下さい。聖司様の生活に支障は全くありませんから」
「そうじゃなくてっ!」

俺が声を上げた時、部屋にノックの音が響いた。
入って来たのはレイグだった。

「時間だ」

懐から懐中時計を取り出して時間を確認したセバスさんは黒服を掴んでいる俺の手を優しく外させた。

「待って、セバスさん!どこに行くの!?」

セバスさんは何も言わずドアに向かって歩いて行く。
俺は駆け出して後を追った。

「待って!」

もう少しで手がセバスさんの背に届きそうだった時、邪魔が入った。
レイグが俺の前に立ち塞がったのだ。
その間にセバスさんは部屋から出て行ってしまった。

「レイグ!どけよ!」
「……」
「セバスさんが行っちゃうだろ!」
「貴様はこの部屋から出る事を禁じられている」
「――っ!」

でも、でも今は……っ!
セバスさんと話しをしないと!
なぜあんな事を言ったのか。
それはどういう意味なのか、ちゃんと聞かないと。

「レイグどいてくれ!ちゃんとここへ戻って来るからっ!」

レイグを無理矢理避けて通ろうとした時、急に眠気に襲われて、足から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
絨毯の上に倒れる前に舌打ちがして誰かに抱えられた。
何で今、眠くなるんだ……。
セバスさんの元へ行かなきゃいけないって強く思ってるのに抗えない程の睡魔が襲ってくる。

「ダメだ……寝ちゃ、ダメだ……」

だけど、視界が狭まってきて、完全に瞼が閉じてしまった。








無意識に身じろぎをした時、動く事が出来なかった。
その違和感が意識を浮上させ、目を開けると、ジルが俺を抱き枕にして寝ていた。
いつの間にベッドの中に入ったんだろう……とぼんやり考えていると重大な事を思い出して、ジルを起こすと分かっていても腕を強引に引き剥がした。
案の定、ジルの閉じていた目が開く。
薄暗い中で、深紅の瞳が俺をジッと見て来る。

「ジル!セバスさんは!?俺、会って話しをしないと!あれからどれくらい経ったんだ?」
「寝ろ」
「寝ていられないんだって!あ、そうだ。ジル」

セバスさんの主はジルなんだから何か知っているはずだ。

「なぁ、セバスさんが変な事っていうか気になる事を言ってたんだけどさ」

ジルにセバスさんと一緒にお茶をしていた時の会話の内容を説明した。
俺が赤面してしまう言葉で褒めてくれるのは良くある。
でも、別れを感じさせるあんな不安になるような言葉は初めて聞いた。
それに俺が危険な目に遭った事を謝って……あっ。

「も、もしかして……それが、原因なのか?俺がジルの城に行っしまって、怪我をした責任をセバスさんが取ったのか?」
「……」
「ジルが、取らせたのか?」
「……」
「黙ってないで言えよ!」

上半身を勢いよく起こしてジルに迫った。
ジルの手が俺を捕えようとしたので払いのけた。

「セバスさんはどこにいるんだ!――触んなって!」

再び伸びて来た手を叩き落とすと、ジルがムッとした表情になる。

「いない」
「え?」
「この屋敷にはいない。探しに行っても無駄だ」
「何言ってんだよ」

あのセバスさんだぞ。
この屋敷の管理を任されているんだぞ。
どんな時だって、ここを離れる事はなかったんだぞ。
それなのに……。

「いないって……出て行ったって事?」
「……」
「セバスさんを辞めさせたのか?ジル、答えろよっ!」
「そうだ」

反射的にベッドを飛び下りてジルの寝室を出た。
まだ夜明け前のようで部屋全体が間接照明のランプでぼんやりと照らされている。
そのまま、部屋を突っ切って廊下に出ようとドアノブに手を掛けた時、突然背後に現れたジルに抱きしめられてしまった。

「離せっ!」
「どこへ行く」
「離せよ!」
「聖司」
「……っ!」

耳元で名前を囁かれてビクンっと身体が跳ねた。
ドアノブを握る手から一瞬、力が抜ける。
その隙にドアから引き離されて、ジルと向い合せになった。
俺は腕を大きく振り、ジルを見上げて大声を出した。

「セバスさんはっ!この屋敷に必要な執事だって分かってんのか!?」
「……」
「それだけじゃない、ずっと仕えてくれたお前のヴァルタなんだぞ!」
「……」
「どれだけジルの幸せを、セバスさんが願っていたと思うんだ!」

キオだってセバスさんは特別で大事な先生なんだぞ。
俺だって大切な事をたくさん教えてもらった。
いや、きっとこの屋敷に関わるみんながセバスさんの影響を受けているはずだ。
それなのに……。

「……ど、どうしよう」

どうしよう、俺のせいだ。

「聖司、泣くな」
「ひっ、俺がっ……セバスさんをっ」

涙が溢れて来て、それをジルに見せたくなくて腕で目元を隠した。
ジルの手が俺の髪を梳く。

「泣くな」
「……っ、うっ、俺は」

ぐいっと涙を袖で拭って、ジルを見据えた。

「俺はな、ジル。今回の件でお前を不安にさせて、その上心配をさせてしまったから、部屋に閉じ込められてもしょうがないって思った。それでジルが安心できるなら、部屋に出る事が出来るまで大人しくしていようって決めたんだ。だけどっ」

高ぶる感情がまた涙を溢れさせ、いく筋も頬を伝っていく。
涙の雫が次々に絨毯の上に落下していった。

「だけどっ!セバスさんを辞めさせるのは、違うだろ!?それは違うだろ!!呼び戻せよ!!」

無言のまま俺を見下ろしているジルの胸を拳で強く叩いた。

「今すぐ呼び戻せっ!!」




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