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「ご主人様、そろそろ休憩にしませんか?」
「ん〜、あと、もう少しっ!」

ジルの部屋に閉じ込められたって、出来る事はある。
それは、ウェルナンから言われていた素振り一日千回だ。
俺が屋敷に戻って来て、数日が経った。
みんなの目を盗んでは素振りの回数をこなしてたんだけど、やっぱりセバスさんにはバレてしまった。
開き直って木刀の代わりになるものを頼んだんだけど、やっぱり却下されてしまった。
きっとそれを振り回して部屋を出て行こうとするのでは、と思われているのかもな。
そんな事しないのにさ。

「あと十回したら休憩する」

何も持たず素振りをする事、四百九十回。
あと十回で五百回だ。
ようやく半分のノルマを達成して、ソファーに座りこむと、キオがお茶の準備を始めた。

「今日はキオが紅茶を入れてくれるの?」
「いいえ、先生です」
「セバスさん?」
「はい、今お菓子をご用意しています」

いつもなら、セバスさんがお菓子を持って来る時は、キオが紅茶を入れてくれる時が多いんだけど……。
何だか今日のキオは、あまりシッポが動いていないような気がするな。
それに耳も真っ直ぐに立っていないような……。
俺に関わる仕事をしている時って、本当に嬉しそうにしているから分かりやすいんだよな。
セバスさんに何か怒られるような事をしたとか?
うーん。

「キオ、ちょっと」
「はい」

手招きしてキオを近くに呼び、手を伸ばして頭を撫でた。
瞬きした後、キオは笑う。
何があったかのか分からないけど、がんばれ。
元気が出るように撫でていると、ノックの音がして、キオは俺から離れた。
セバスさんがお菓子を乗せてあるカートを押して中に入って来た。
ローテーブルの上に、たくさんのケーキや焼き菓子が並べられていく。
あ、俺の大好きなタルトもある!
今日はいつもより豪華な気がするなぁ。

「セバスさん、今日は何かあるんですか?」
「ホッホッホ。なぜそう思われましたか?」
「だって、ローテーブルに置ききれないくらい、たくさんの種類のお菓子があるから」
「料理長が作り過ぎてしまったようですよ」

ブレーズさんが?
セバスさんは俺にほほ笑んでお茶を入れ始めた。
今日、何かあったっけかな?
お祝い事?
来客とか?
でも、それなら先に言ってくれているはずだし。
たまたま作り過ぎちゃったのかな、と思っていると、目の前にセバスさん特性の紅茶が置かれた。

「ありがとう、セバスさん」

一口飲んで、一息吐く。
はぁ、おいしいなぁ。
セバスさんの紅茶は優しい香りが口の中にふんわりと広がっていくんだよな。

「すごくおいしい」
「ありがとうございます。どれをお取りしましょうか?」
「えっと……」

俺が選んでいくお菓子をセバスさんがお皿に取ってくれる。
タルトと、クッキーと、マカロンと……。
あれ?これは何だろう?
パイのようだけど、見た事のないケーキがある。
表面がきつね色にこんがりと焼かれたパイ生地に美しい模様が描かれていた。

「これ何ですか?初めて見た」
「ああ、これは……」

セバスさんは目を細め、笑う。

「ガレット・デ・ロワです」
「ガレット・デ・ロワ?」
「ええ、タルトや他のケーキに比べてシンプルに見えますが、とてもおいしいですよ」
「じゃあ、それも!」
「ホッホッホ。かしこまりました」

セバスさんは切り分けながら、新魔祭の時に食べるお菓子だと教えてくれた。
初めて聞く新魔祭とは年明けの一週間の事で、こっちにも正月があるんだな、なんて感心していると、 俺の選んだお菓子が乗っているお皿が目の前に来た。

「おいしそうっ!いただきまーすっ!」

大好きなフルーツのタルトから頬張る。

んーーー!!
ジューシーなフルーツが口の中で弾ける。
程良い甘さのクリームと、サクサクタルト生地が顔をにやけさせる。
いつ食べてもおいしい!
一気に食べ終えて、次はガレット・デ・ロワだ!
ぱくりと一口入れて……口角が上がった。
うおおお、何だこれ!

「セバスさん!すっごくおいしいっ!まわりはパリパリしてて中はしっとりふわって感じ!」

興奮しながら一切れ食べてしまった。
もっと早く出会いたかったなぁと思ったけど、そうだった、ガレット・デ・ロワは新魔祭限定のお菓子だ。
あれ?
じゃあ、何で今あるんだろう?

「聖司様、まだお召し上がりになりますか?」
「うん!」

頷いたけど、俺一人でこのローテーブルにあるお菓子はさすがに食べ切れないぞ。
いつもはヴィーナやジュリーも来て食べているからそんなに余らないんだけど。
バルバティアス城から屋敷に戻って来てジュリーとまだ会っていないし、二人を誘って一緒にお茶をしようとしたら、どうやら今は修業中らしい。

「明日はジュリーとお茶出来るかな?」
「聖司様がご希望なら、ジュリーの予定を調節いたします」
「本当!?」
「ええ。ですが」
「ジルの部屋で、でしょ?いいよ」

それは、しょうがないって分かってるから。
さて、ヴィーナとジュリーが今、来れないとなるとこのお菓子の量どうすればいいんだろう。

「セバスさん、これ余るとどうなるの?」
「処分致しますが」
「処分?捨てちゃうの?」
「はい」

うわ、もったいない!
食べ切れない分は屋敷のみんなに配ってとお願いした。
きっとメイドさんなら、お菓子好きそうだから食べてくれるはずだ。
セバスさんは少し考えた後、頷いてくれた。

「分かりました。しかし、このお菓子は聖司様のものです。存分にお召し上がりになって下さい」
「うん。もちろん食べれるだけ食べるよ」

ニコニコと笑ってお菓子を食べている俺にセバスさんが紅茶を入れ直してくれた。
そうだ、どうせならセバスさんとキオも一緒にお茶してくれないかな。
キオはセバスさんの許可が下りれば大丈夫だ。
問題はセバスさんなんだよな。
今まで誘っても全部断られているし。

「セバスさん、俺とお茶してくれませんか?えっと、後でこのお菓子を食べるなら今、一緒にお茶しませんか?一人で食べてもつまらないし……」

大抵こう言うと、キオを俺のお茶の相手にさせてしまうんだけど。
俺はセバスさんの目を見る。
セバスさんとお茶がしたい!
訴えるように、じーーっと見る。
セバスさんはガレット・デ・ロワを切り分けている手を止め、頷いた。

「僭越ながら、ご一緒にお茶をさせて頂きます」
「――っ」

やったぁーーー!!




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