10 まず、おかしいと思ったのは、ジルの部屋で目が覚めた後、俺の中で知りたい事が何一つ教えてもらえなかったイライラを抱えながら寝室から出ようとした時だ。 「あれ?まただ」 ドアを開けようとしても開かない。 引っ張っても押してもダメだった。 壊れて内側からだと開かなくなったとか? いや、それだったら昨日セバスさんがここに入って来て出る時、開けてたもんな。 ドアの前で唸っているとノックの音がした。 「ご主人様」 「キオか?」 キオが着替えを持って俺の前に現れた。 着替えさせてもらっている間に、ドアの事を指摘した。 「なぁ、キオ。ここのドアさ、開かないんだよな。壊れてないか?」 「……っ!い、いえっ壊れてはないですっ」 「キオ?」 キオの顔が強張り、耳が大きく動き、シッポが脚の間にしゅぽっと入った。 ……これ、明らかに俺に内緒にしている何かがあるよな? 俺はジーッとキオを見つめる。 「キオ?」 「な、何ですか!?」 「キーオ?」 「ご、ご主人様ぁ……」 ニッコリ笑ってキオに迫ると少し泣きそうな顔になった。 俺に隠している事があるだろ!?と核心を突くとヒッと声を上げて逃げようとする。 逃がしてなるものかっ!! 腕を取り、キオを引きよせてぎゅっと抱きしめる。 「キオ、言うんだ!」 「ご主人様〜!」 「言わないヤツは……。こうだー!」 「あ、あはははは!いや、やめっ、あははははっ!」 思いっきり脇をくすぐってやった。 笑いながら身を捩っているキオが俺の手から逃れる為に、下に沈んで行く。 逃がさないように俺はその上から床に押さえ付けてくすぐり続けた。 「止めて下さい〜、ご主人様ぁっ!」 「言う気になったか!」 「――っ」 息を乱し、潤んだ目で俺を見上げる。 すぐに言おうとしないのでニヤリと笑い、キオの目の前で手をワキワキと動かした。 「ひっ!」 「キオがご主人様って言っているのは誰だっけ?俺の味方じゃなかったっけ?」 「でも、でもっ、言ったらご主人様はっ」 「俺は?」 「……きっと怒ります」 「キオに?」 「いえ、僕じゃなくて……」 俺は首を傾げ、またくすぐり始めた。 「言ってくれないと分からないぞ〜」 「もう、もう無理です!死んじゃいます!」 「大丈夫、今まで死んだやつは見た事ないから」 「そんなぁ〜!」 ジタバタ暴れるキオを封じていると――すぐ隣に気配を感じた。 それもただならぬ冷気を伴っている。 俺とキオは動きをピタリ止めた。 「キオ、腹減ったな。ご飯にしようぜ」 キオの上から身体を起こし、明るく笑って手を差し伸べた。 絶対に隣にいるヤツを見ないようにしていたら、機嫌がめちゃくちゃ悪い声でしゃべりやがった。 「何をしていた」 「……何をって」 「言えないのか」 よく分からないけど、すごくジルが怒っている。 寝室で暴れてたくらいで怒るなよ。 だから、寝室で暴れてごめんって素直に謝った――が。 その直後、血の気が引く程の殺気を感じて俺は咄嗟にキオを突き飛ばした。 キオは開けていたドア付近に立っていたので隣の部屋に倒れるように転んだ。 そして俺は急いでドアを閉め、ジルの視界からキオを見えなくした。 「おまっ、今、キオに何をしようとしたんだよ!」 冷や汗を掻きながらジルに詰め寄る。 ジルの服を握った俺の手が掴まれた。 そのまま、引っ張られて、奥へと連れて行かれる。 「ちょっと、ジル!うわっ!」 勢いよく放られて、さっきまで寝ていたベッドの上でバウンドした。 「何をしていた」 「だから、謝っただろ!?」 まったく、ちょっと暴れてたくらいで何だよ! ブツブツ文句を呟いていたら、ジルがベッドに上がって来た。 あれ? これって、いつものやつ? 俺はジルから距離を取る為、後方へ逃げた。 「聖司」 「だ、だからっ!何でそんなに怒る必要があるんだよ」 「なぜ、抱き合い絡み合っていた」 「は?」 俺は目が点になった。 ジルは何を言ってるんだ? 「えっと誰と誰が抱き合って絡み合ってたって?」 「お前とその僕だ」 俺はちっがーーーうっ!と叫んだ。 どうしたらあの状況がそう見えるんだ。 これは詳しく説明をしないとジルは納得しないだろう。 それにこのメラメラ燃えている深紅の瞳を鎮めないとキオの命が危ない。 そしてある意味俺の命も。 ジルの二本の腕が伸びて来て、さらに後退しようとする俺の身体に回し引き寄せる。 「分かった、説明するから。ちょっと、この腕を外して……おい、絡んで来るなって!」 「……」 あっという間にジルの腕の中にすっぽり収まった。 いつならこの後も暴れて脱出しようとしたけど……。 なんだか今はそんな気にならなくて、いざくっついたら、自らもジルの背に腕を回してしまう。 これにはジルも意外に思ったのか、俺の様子を見て来る。 「……何だろ、俺にもよく分からないんだけど」 もっとジルに密着して、回している腕に力を入れた。 ジルの肩に頬を乗せる。 でもこれだけじゃ満足できなくて、もぞもぞとジルの腕の中で色々動いてみる。 なかなかしっくりこない。 ふと、ジルの腕に力が入った。 ……あ、これだ。 「ジル、もっと力を入れて」 俺の言う通りに抱き締める腕に力を入れてくれた。 すると、やっと落ち着けて息を吐いた。 「これ、いいなぁ」 離れていた間、ジルに会いたいって気持ちが強かったせいか、こうしてるとすごく安心する。 このまましばらく……って思ったけど、さっきの説明をしなきゃいけなかったので肩に埋めてた顔を上げた。 「さっきのは、ただくすぐってただけだよ。キオが何か隠してたからそれを聞き出そうとしてたわけ。 逃げようとするキオを押さえてただけだからな。別に抱き合っても絡み合ってもいないぞ」 「くすぐるとは」 「え?くすぐるって知らないのか?」 考えてみれば、誰がこのジルにくすぐるんだろうな? そんな事をしあう友達……は、いなさそうだ。 一瞬、エドを思い出したけど、絶対ないな。 「例えば、脇腹とか脇の下とか触られるとくすぐったいだろ?ほら、俺がジルに脇腹を触られた時とか身体がビックリする感じになったりしてたじゃん」 その時の事を思い出そうとしているのか、ジッと俺を見て来るジル。 俺もジルを見返していたら、ドアが開かない件を思い出した。 「なぁ、ジル。ドアの……ひっ!」 突然、左の脇腹を掴まれて身体が跳ねた。 そしてジルはもう一度掴んで来る。 「ひあっ!や、止めろって!」 俺の反応がおもしろかったのかジルは口角を上げた。 それにムッとして俺も仕返しをする事にした。 ジルの両脇をくすぐってやるぜ! がしっと掴み、絶妙な触り方でくすぐってやった……が、ジルは笑う事も身を捩る事もない。 あれ? さらにくすぐってみるが無反応だ。 あれ?? 「なぁ、くすぐったくないか?」 「……」 「マジかよ!これも?これなら?これでもか!!」 ジルが大笑いして泣きながら俺に止めてくれと懇願する姿を見てみたい! 服を上げ、シャツの中に手を突っ込んで肌に触れた。 すると筋肉の付き具合とか割れている感触とか手から伝わってきて、なかなかそういう身体にならない俺はくっそーと思いながら、絶対に笑わせてやると断然、燃えた。 しかし……。 「なぁ、少しもくすぐったくないか?」 「……」 むぅと唇を尖らせて、何にも感じないのかよ……と呟いたら、ジルが否定した。 「おお!少しは感じたか!?」 「少しではない」 少しじゃないって事は、たくさんって事か? にしては笑ってないじゃないか。 「お前に触れられるだけでこの身は熱くなる」 「――!?」 ジルは俺の顎を掬い上げてキスをした。 思わず、脇腹を触っている手をパッと離す。 「んっ、はぁっ」 俺の頬をジルの両手が包む。 唇に噛みつくようなキスをされる。 舌が絡み合い、ジルの精気を感じてそれを飲み込む。 こくりと喉をならすと唇が離れていった。 そしてジルの手が頬から肩に滑り落ち、俺を後ろに倒しながら、さらに腕へと移動して、そこから脇腹へ……。 「わぁっ!」 俺の脇腹を掴まれた途端、色気も何もない声が出た。 するりと撫でられるように下がった手にまた刺激させられて、ビクンっと身体が大きく跳ねる。 「ちょっ、ジル!」 仰向けに倒れている俺は脇腹を護るようにしてジルを睨み付けた。 すると、いつの間にかの俺の脚の上に乗っているジルが何かを思いついちゃったのか口角を上げた。 あ、ものすごく嫌な予感……。 main next |