「正直に包み隠さず言え」
「……」
「何回やってきた」
「!?」

何回って……そんなの覚えてない。
って、何を言わす気だ!
エドが目の前まで来てくいっと指で俺の顎を持ち上げた。

「満ち足りた顔しやがって。あいつからたんまりと精気をもらったんだろ。 ジハイルも変わったな。ちょっと前だったら考えられねぇわ」
「……うわっ!!」

エドの手が腰に回ってきて尻を触って来る。
避けようと動かすと腰が……っ!
くそぅっ!

「尻を触んなよ!」
「いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇし」
「マスターが触ったら減っちゃうよ!」

ユーディが助けに入ってくれる……と思ったら一緒になって触って来た。

「あぁんっ、聖くんのお尻!」
「バカ!触んな!」

なんなんだこいつら!
キオにも来てもらった方が良かったかもと後悔が生まれてくる。
エドが真面目な顔でレヴァになれるようになったか?と聞いて来た。
尻を触りながらな。
……緊張感もなにもないな。
はぁと溜息を落とす。

「なれるようになったから、もう尻を触るな!」

ベシッベシッと二人の手を叩いて離れさせる。

「ああ、ボクのお尻〜」
「俺の尻だ!」

名残惜しそうな目を尻に向けているユーディに俺が突っ込みを入れていると エドが距離を取りレヴァになってみろと指を鳴らした。
よし。
俺はエドに向き直ってふぅと息を吐く。
それから目を閉じ集中力を高めた。
誰かを護りたいという気持ちを強くする。
みんなを、ジルを俺が護る!
するとぼんやりしていた紅い光がはっきりと見えるようになってきて、それは どんどん大きくなりぐるぐると回転しながら俺の身体の隅々まで行き渡っていく。
そっと目を開けるとニヤリと笑っているエドが。

「これでようやく出来るな」
「あ、よろしくお願いします」

ぺこっと頭を下げると エドがソファーに座って俺に掛かって来なと言い、 ユーディにはお茶を入れろと命令した。

「はーい。あ、聖くん!聖くんには愛情たっぷりスペシャルティー入れるから待っててね!」

いや、普通のでいいからという俺のセリフはさっさと部屋を出て行ったユーディには 聞こえなかったようだ。
気を取り直して俺はレヴァの力に集中する。
しかし、ただ掛かって来いって言われても……困るな。

「エド、どんな攻撃でもいいの?部屋の中とか大丈夫?」
「部屋なら結界を張っている。好きに攻撃して来い。まずお前の実力が分からなければ 修業もなにもないだろ」
「うん、分かった。……あのさ、エド」

これから攻撃を受けるというのにエドはソファーから立ち上がる気配を見せず座ったままなのだ。
この状態で本当に攻撃してもいいのか躊躇ってしまう。
心配そうな顔を向けていたらエドに呆れた顔をされた。
なんだよ、その顔……。

「お前な、何が心配だか知らないが、この俺がお前の攻撃でどうなるわけないだろ」

だ、だって、ほらっ。
万が一って事もあるじゃんかっ。
何があっても知らないからな!
俺は攻撃体勢をとり、いくつもの紅い球体を頭に思い描いた。
ジルがやるよりも数は少ないけどそれでも結構、出せたと思う。
自分の周囲に浮かぶそれらを鋭い刃に変化させる。
ピタリとターゲットのエドに切っ先を向け、 掛け声とともにレヴァの力を放出した。
だけど、エドは冷静な目を俺に向けたままで避ける気がないのか動かずにいる。
このままじゃ攻撃がまともに当たってしまうじゃないかっ。
焦っていたらエドが大きな溜息を吐いて手を軽く振った。
すると俺が放ったたくさんの紅い刃はエドに当たることなく防御壁に防がれて 消えてしまった。
俺は膝に手を当てぜーぜーと息を吐きながら、エドの眉間に皺が寄るのを見ていた。

「セイジ」
「何?」
「次の攻撃はどうした」
「え?」

次の攻撃って言ったって……。
俺にはもうレヴァの力は残されていない。
それに今のが俺の中で一番の攻撃だ。
これ以上のものは持ち合わせていないし。
ふるふると頭を振るとエドのこめかみがピクッと動く。
無言のままエドは立ち上がり俺の目の前までスタスタと歩いて来る。
そして額を指で強く押された。
すでに力が全くない俺は後方によろけて行く。
足がソファーにあたり倒れるように座りこんでしまった。

「お前はバカか?」
「なっ」
「実力以上の攻撃をしてどうすんだ!」
「実力以上って……」

エドのこめかみがまたピクッと動く。

「まさかセイジ、この攻撃のレベルが分からないでやったのか?」
「レベルって……」
「今の術はジハイルのを真似たんだろ?」

俺はうん、と素直に頷く。
今までのピンチをこの攻撃で切り抜けて来た事も話した。
なのにエドはこれは使うなと禁止令を出してくる。

「なんで!?――ふがっ」

エドに鼻をつままれて引っ張られた。

「お前の全ての力が10だとしてさっきの術は20だと思え。自分の実力以上の 力を出している事を理解しろよ」
「ふが?」
「今の術を発動した後、いつもどうなってた?」
「ふが……」

どうなってたって……今みたいに力がなくなって動けなくなってたけど、と思いながらチラリとエドを見上げる。
えっと、それは俺のレベルよりも高い術を使っていたからだったのか。
俺が理解したと判断したエドが鼻から指を離す。

「お前の課題だ。まず、1の力を出せるようにしろ。分かるか?セイジの力が10だとすると 10回術を発動できるようにしろ」
「それってどんな術?」
「あ?どんなってどんなのでもいいさ。お前自身の力を10等分にするんだからよ。 自分で自分の術を考えろ」
「それってオリジナルって事?」
「ああ。大抵、術っていうのはそうだからな。光球一つにしたって皆それぞれ違うんだぞ」

エドの返答にそうなの?と聞き返してしまった。
基本的な術は一緒なのかと思ってたよ。

「力の性質も強さも個々によって異なるんだ。自分の術を考えた方が良いに決まっている。 まぁ、代々家に伝わる術なんかはあるけどな」
「そうなんだ。じゃあ、俺が今まで使っていたやつはジルが考えたオリジナルの術だったのか」
「ジハイルが考えたって事はアイツのレベルに合わせている術だって事だ」

なるほど。
そう言われてレベルの高い術を使ってたんだと改めて納得した。

「エドは良い術だなーと思ったら真似しないの?」
「まぁ、面白そうな術だったら試しにやってみるが……それを自分のものにしようと思った事は ねぇな」
「そうなんだ」
「俺は最強の術を自分で考えるのが好きだからな」
「へー」
「ま、セイジは力の消耗が少ない簡単な術をまず出せるようにしな」
「うん、分かった!」

よし、頑張らなきゃな!と気合いを入れているとふいに影が俺の上に落ちる。
見上げると口角を上げているエドが顔を近づけてきた。

「何?」
「セイジ。今、精気ゼロだろ」

確かにさっきので力を使い果たしてしまったから一欠けらも精気が残っていない。
素直に頷くとエドが自分の首筋を指でトントンと叩いた。

「吸っていいぞ」
「え!?」

吸っていいって……エドの血をだよな?
今までジルとキオの血しか吸った事がないからちょっと戸惑う。
そんな俺を見て勘違いしたエドが俺に伴侶はいないから毒にはならねぇよと 言って来た。
いや、そういう問題ではなくて……。

「?どうした?俺が吸っていいだなんて貴重だぞ」
「なんで貴重な事を俺に?」

エドはピシッと俺の鼻を指ではじいた。
いてぇっ!!

「このまま帰ってみろよ。ジハイルとやりまくって精気満タンなお前が少しの間に 精気ゼロの状態になってんだぜ。何があったか勘ぐられるだろ」

た、確かに……。
エドの言う通りだ。
それでなくても前回倒れてから俺の健康状態のチェックが厳しくなっている今、 セバスさんやヴィーナに会ったらすぐバレそうだ。

「ジハイルにこの事が知られるのはおもしろくねぇからな」

なるほど、エドはジルに内緒でやっている修業やその他諸々が楽しくてしょうがないみたいだ。
何を想像しているのかニヤニヤと笑っている。




main next