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「ほらよ、早く吸え」
「う、うん」

躊躇っている俺を見てエドが怪訝な顔をする。
なんで吸血をしようとしないのか聞いてきたから 今までジルとキオしか吸った事がなくて、吸血した事がないエドの血を吸うのはちょっと抵抗が あるというかなんというか……と、もごもご話すと驚いた顔をされた。

「マジでジハイルとセイジの僕以外で吸血した者はいないのか?」
「うん」
「せめてジハイルの僕の血は吸った事があると思ってたんだがな」
「それはないなぁ」

エドは顎を掻きながら考えている。
そして一言、世も末だ……と呟いた。

「ジハイルのヤツ、相当独占欲強いんだな。まさかここまでだとは思わなかったぜ」
「独占欲?」
「セイジをなにもかも一人占めしたいんだろ」
「え?」
「普通なら自分の僕くらいは吸血させるだろ」
「そうなの?」
「あー……でもセイジの僕からはしてんだよな」
「キオ?うん」

それに関しては平気なのかと不思議がっていたからキオから吸血している事をジルは知らないと 教えた。
すると突然、ぶはっと噴いてゲラゲラ笑い出した。
涙が出るくらいエドの中でおもしろかったらしい。
指で目じりを拭っている。

「はぁーーっ……マジ、笑った。腹いてぇー」

エドが試しにキオから吸血しているって事をジルに言えって言うから、何で?と聞くと……。

「お前の僕、瞬殺されっから」
「は!?」
「いやー楽しくなってきたな!くくくっ、これで俺から吸血しただなんて知ったら アイツ、どんな顔をするかねぇ」

なんだかよく分からないけど……と、取り合えずキオから吸血した事があるっていうのは黙っておこう。

「ほら、早くしろよ。この後、俺も用事があるからよ」
「あ、ごめん」

そうだよ、エドだってこんなんでも一応当主だもんな。
仕事だってあるはずだ。

「おい、セイジ。今お前、なんか失礼な事考えなかったか?」
「え、ううんっ。忙しいのに悪いなって!」
「……ならいいけどよ」

危ない危ないっ。
じゃあ、さっさとエドの血をもらって今日は帰ろう。
俺の隣にエドが座ってきて腕を引っ張られた。
エドの脚の上に乗り上げてしまうような格好になる。
ちょっとこれは……と思って離れようとするが、腰に回った腕に固定されて動けない。

「エド、こんな格好じゃなくてもいいだろ?」
「あ?早く吸えばいい事だろ?」

そこでエドが急に、悪だくみを思いついたような顔をした。
ものすごく嫌な予感がする。

「そうだ、別に吸血じゃなくてもいいよな」
「え?」

ニヤ〜と笑うエドは下から吸ってもいいんだぜと腰を揺らす。
何が言いたいのか気付いてしまった俺は顔を引き攣らせた。
じょ、冗談じゃない。

「そんなまずいもの飲めるかっ!!」

思わず叫んだらエドが機嫌を損ねた。

「まずいだと?どんなヤツでも俺の精液を味わったら血と同様、やみつきになるぜ」
「なるかぁっ!あんな、あんなもの……」

自分のヤツを舐めた時のまずさを思い出して、おぇ……とえずいてしまった。
するとエドが何を勘違いしたのか突拍子もない事を言って来た。

「ジハイルの精液はまずいのか」
「はぁ!?」
「ということは……血もまずいんだな」

お前……かわいそうに……と、なぜか同情の目でみられる。
なぜそんな目で見られるんだろう。
ジルの血はめちゃくちゃおいしいぞ。
俺がまずい事を否定したら、エドは面白くなさそうな顔をした。

「セイジがえずくからジハイルの精液がまずいのかと思ったぜ。せっかく話しのネタが……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「ん?」

何か俺がジルのアレを口にしたような言い方をされているけど……。
俺は、その……。

「ジルのは口に入れてないからな!」
「は?ジハイルの精液を飲んだ事がないって言ってんのか?」

俺は恥ずかしながらもコクリと頷いた。
エドは不思議そうに何で?と首を傾げる。
何でって……。

「変なヤツだな。散々今までセックスして来たんだろ?それなのに飲んだ事がないのか?」

え?
何だろう、アレを飲まない俺が変みたいなこの空気。
エドがじゃあ、誰のなら飲んだ事があるんだ?と質問して来たから、 驚いて変な声が出てしまった。

「誰のって、誰のも飲んだ事がないって!」
「何言ってんだよ。さっきジハイルのは口にしてないって言っただろ。 ジハイルのは……って事は誰のは口に入れたんだ?」

あ……ぅ……。
エドの深紅の瞳が面白そうに細められる。

「ほら、早く言えよ。俺は用事があるって言ってんだろ?」
「……れ、の」
「聞こえねーよ」
「お、俺のだよっ」

エドはセイジの?自分のを飲んだのか?といちいち確認してくる。
の、飲んではないっ。
ちょっと舐めただけだ。

「セイジ、やっぱりお前はバカなんだな」
「やっぱりってなんだよ!もともとバカだって思ってたのか!?」
「自分のなんかまずいに決まってんだろ」

当たり前のように言われて呆気に取られる。
そうなの?

「自分の血だってうまくないだろ?」

うん、鉄臭い味しかしないな。
エドが言うには自分のものに対してはうまいと感じないらしい。
なぜなら、おいしいかったら自分の血を自分で吸ってしまうという事が起きてしまうからだ。
それは自分自身を食べると同じ事。
そうならないように上手い事できてんだよとエドは俺の鼻をつまんで引っ張った。

「ふがっ!」
「ま、全員、血や体液がうまいとは限らないけどな。まずいやつはまずいし。 セイジの血は匂いでうまいって分かるぜ」
「ふが?」

そうなの?
まぁ、まずそうと言われるよりはいいけど。
エドは今回も飲みてぇーと俺の首筋に顔を近づける。
俺、伴侶持ちで良かった!
毒になるからエドは飲めないしな!
だけど次のエドの言葉を聞いて慌てる事になる。

「そうだ。血と精液のうまさは同じで……」
「エ、エド?」
「伴侶がいたとしても血以外の体液には毒はない……」
「……っ!」
「血がダメなら精液から……」
「ちょっ……!?」
「マスター」

窘めるような声が俺の近くから聞こえて来たからものすごく驚いた。
振り返ると……。

「ニケル!!」
「聖司様、またマスターがご迷惑を」
「良かった、ニケルが来てくれて!」

いつものように目のやり場に困る服を着ていてちょっと視線が身体に向けられなかった。
エドが不満そうな声を上げる。

「なんだよ。せっかくいいところだったのによ」
「何がいいところですか。聖司様はセルファード公の伴侶なのですから そのような格好はおやめ下さい」

いいぞ!もっと言ってニケル!

「精気をやろうとしているだけだろ?何が悪いんだ」
「そうですか、ではどうぞ」
「なんだ、向こう行ってろよ」
「なぜですか?私がここにいたらまずい事でも?」

あるんですか?と強く聞かれてエドは舌打ちをする。
次にニケルは腰に手を当てソファーの前にあるローテーブルに向かって出て来なさいと声を上げた。
……?
出て来なさいって……なんかいるのか?

「えへへーっばれちゃった!」

ローテーブルの下から声が聞こえてきたと思ったら、にょきっとお茶を入れに行っていた ユーディが顔を出した。

「ユ、ユーディ!?」
「聖く〜ん!」
「うわぁっ!?」

エドの脚の上に跨って座っている俺の後ろは無防備だ。
ユーディがそこに抱きついて来る。

「ちょ、お茶はどうしたっ、ユーディ!なんでローテーブルの下にいたんだよ!」
「もう少ししたらボクも参戦しようとしたんだけどその前にニケルに バレちゃった!」

エヘッとかわいらしさを前面に出してユーディが笑う。
一体何の参戦だ。
ああ、ニケルが来てくれて本当に良かった!

「ユーディ、聖司様から離れなさい」
「やだー!」
「マスターも聖司様を離して」
「やだね」

二人とも拒否をするとニケルが疲れたように溜息を落とす。
そしてベリッとユーディを背中から引き離してくれた。

「エドもニケルの言う事を聞けよ!」
「はぁ、しょうがねぇな。ほら、早く吸血しろ」

腰に回っていた腕がようやく外される。
俺はエドの脚の上から下りて目の前に立った。

「吸い方がうまくないと思うけど……」

エドの肩に手を置いてそっと首筋に顔を近づけた。
するとエドが小さな声で次は精液を飲ましてやるよと囁いて来る。
変態セクハラ発言禁止!!
ガブッと強く噛みついてやった。




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