「……ん」

意識が浮上して目を開けると目の前に寝ているジルがいた。
身体を動かそうにも腕がしっかりと俺に絡んでいて身動きが取れないのは いつもの事。
身体が俺もジルもべたついていないので寝ている間に洗われたらしい。
これもまたいつもの事なのだが。
ふぅっと心の中で大きな溜息を吐く。
最初はジルに止めてくれって、自分で洗うから起こせって訴えてたんだけど…… 聞き入れてくれなくて、そのうち、またか……だなんて諦めモードになっていった。
慣れって怖い。
チラリと至近距離にある美麗な顔を見る。
そういえば……ジルと出会った時、この綺麗な顔に驚いたよなぁ。
今では見慣れた紅い瞳もカラコンだと思ったし。
あの時の俺達と比べると抱き合って寝ているこの状況が本当に信じられない。
俺を殺そうとしていたジルが俺に好きだと言って、あんなに嫌いだったジルを俺はいつの間にか 好きになっていた。
ジッとジルを見つめてたらすごく心に込み上げてきたものがあって手で胸を押さえる。

……好き。
ジル、好き。

心の中で繰り返し言ってたら何だか恥ずかしくなって顔をジルの胸に埋めた。
俺の安心できる場所。
ほぅっと息を吐く。
こうしているとうっかり忘れそうになるがレヴァ・ド・エナールは平和ってわけじゃない。
なぜならウルドバントンがレヴァの総統を殺そうとしていて時期総統候補のジルも狙っているからだ。
それに、イースさんの事もある。
俺はニナさんとキットさんを殺したイースさんを捕まえなければならない。
そして必ず罪を償わせる。
だからその為に今よりもずっと強くならないといけないんだ。
それに自分に力がないという理由でまた悲しい思いをしたくない。

ジルが……三の影に傷つけられた時は本当に怖かった。
まさかジルが怪我をするだなんて思ってもみなかったから。
もしもジルに何かあったらと想像したらすごく怖くなった。
護られているだけじゃダメだ。
俺だって護りたいんだ。
ジルをみんなを護りたい。
心の中で強くそう願ったら……ん?
あれ?
今、確かに……。
俺の中で紅い光が強く光った気がしたんだけど。
なんで急に?
胸に手を当てもう一度護りたいと、願う。
すると今までぼんやりとしていた紅い光がはっきりと見えた。
あ、これなら。
その光を捕まえるように集中するとそれは勢いを増しながらぐるぐると回ってだんだん大きくなっていく。
そして身体中のすみずみまで広がっていく感覚に包まれた瞬間――。

「あ。多分、レヴァになれた」

レヴァの力が使える状態になっている感じがする。
よし、やったぁ!!
まさかこんなタイミングでコツを掴めたのはラッキーだった。
レヴァになる感覚を確かなものにするためにいつもの俺に戻り、 もう一度レヴァになろうと思って……思って……。
………。
も、もしかして俺ってレヴァから普通の状態に意識して戻った事が……ない!?
そうだよ!
いつもレヴァの力を使い果たして強制的に普通の状態に戻ってたんじゃん!
あぁ……また問題発生だ、これ。

「どうしよう」

戻り方がどうしても分からない。
困った……困ったぞっ!
ジルが起きる前に早く元に戻らないと。
レヴァになっているって事は目が紅いって事だ。
これを見られたら色々と問われそうだなと思いつつ、 ちらっとジルを見たら……目が合った。

「!!?」

何で起きてんだよ!
っていうかいつから起きてたんだよ!?
視線から逃れるためにジルの胸に顔をくっ付けた。
本当はベッドから出て自分の部屋に戻れたらよかったんだけどジルの腕が外れないからこの方法を取るしかなかった。

「聖司」
「……ぐぅぐぅ」

俺は寝ている。
寝ているんだ。
だから返事は出来ないんだ。
するとジルの指が背骨を通り尾てい骨までいやらしくなぞっていく。
さらにその下に行く気配がしたので思わず手を掴んでしまった。
……あ、しまった。

「聖司」
「……ぅ」

もう寝た振りが出来ない。
そろそろと顔を上げてジルを見た。
ジルの深紅の瞳が俺を映している。
実感はないけど……俺も今、この色の目をしているんだよな。
でもジル程、綺麗な紅ではなさそうだけど。
あっ、今なら鏡で見れるチャンスじゃん!
まだ目が紅くなっている自分を見た事がなかったから どんな感じなのか実際に見てみたいと思ったんだけど、そうだった。
ジルの腕に拘束されていたんだ。

「ジル、ちょっとこの腕を外して」
「……」
「無言で拒否るなよ。……わっ」

ジルの顔が近づいて来てそれぞれ左右の瞼にキスを落とされる。

「なぁ、ジル。部屋から出て行かないからさ、腕を外してよ」
「……」

また無言の拒否かよ。
はぁ……ま、いいや。
レヴァになるコツは掴めたんだし。
後で見ればいっか。

「聖司」
「何?」

ジルは、なぜと言って俺の目をジッと見る。
ま、まさか。
なんでレヴァになったのかってやつ?
ぅぉお……やっぱり理由を聞かれてしまった。

「えっと、俺がレヴァになった夢を見てさ」
「……」
「な、なーんかレヴァになれそうな気がしたんだよな」
「……」
「そしたらなれてさ!」
「……」
「だから……その……」
「……」

無言でジッと見つめるのは止めて!
何か言って!
嘘を見抜かれているようで怖い。

「元に戻ろうにもどうしたらいいのか分からなくて……」

元に戻る方法なんてジルに聞いてもどうしようもないのは分かってるんだけどさ。

「今までの経験上、きっと力を使い切ったら元に戻ると思うんだよな……」

そこでふと気付いた。
ジルに紅い目を見られてしまったんだから 別に無理して元に戻ろうとしなくてもいいじゃんって。
そうだよ、自然に戻るのを待とう。
その後にまたレヴァになればいい事だし。
結論を出した途端、大きな腹の音が鳴る。
う〜、腹減ったなぁ。
……そういえば今、何時だ?
あれからどんだけ経ったんだろう。

「ジル。今、何時?」

ジルとくっついている状態だから時計が見れない。
もう一度聞くとジルが8時と答える。
ん?
8時?
ジルとまたやったのが昼前だし、部屋は明かりが灯されていて室内に 陽の光が入って来てないところを見ると……今、夜か!
お腹が空くわけだよ。




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