24 「明日の第二次試験ってどんな内容?」 「明日は闘技場で魔物と戦う試験だ」 「今日とあまり変わらないんじゃ?」 「いや、団体で戦う方式だ」 第二次試験は何人かのグループに分けて魔物と戦わせる。 そこで何を見るかというと力の強さはもちろん判断力や協調性などらしい。 そこで合格基準を満たした者が警備隊員になれるという。 というか俺、精気がゼロに近いんだけど。 精気を回復しないとこのままじゃ不合格だよ。 「どうしよう……」 「団体戦は苦手なのか?」 「そうじゃなくて、今精気がないからさ。明日までには全回復の見込みはないんだよな」 全回復どころか半回復さえ怪しい。 困っているとグレンがアブイブから獲れた精玉を調合してもらえば?と言ってきた。 調合? 「調合師に頼めばやってもらえるぞ。きっと他のみんなも今日獲った精玉を調合して明日に備えているだろうし」 「調合師ってどこにいるの?」 「その前に、まず身体を洗ってからだな」 俺は自分の身体を見る。 確かに埃や魔物の体液で服が汚れてしまっている。 こんな格好で人に会いに行くのは……止めた方がいいな。 「あ、俺、服の替えがないんだけど」 「ああ、それなら第一次試験を通過した者は仮の隊服を支給してくれるから 取りに行こうぜ」 寄宿舎の入り口で隊服を受け取り、シャワールームへと向かった。 一度に20人程入れる広さだ。 そこは一つのシャワーにつき、胸のあたりから膝までの仕切りがある。 さっそく裸になり、頭からお湯を被る。 髪と身体を洗おうと思ってシャンプーや石鹸を探したがそのようなものは見当たらなかった。 脱衣所にはタオルがあっただけだしな。 シャンプー類は自分で用意しないといけないのか。 そんな事を考えていると隣でシャワーを浴びているグレンがほらっと仕切りから腕を伸ばして石鹸を渡してくれた。 「貸してくれるの?」 「その汚れはお湯だけじゃ取れねえだろ」 「グレンって良いやつだな。知り合ったのがグレンで良かったよ」 笑って言うと瞬きしたグレンが視線を逸らす。 そして少し大きな声を出した。 「俺はカミーユ隊長にお前の事を頼まれたからだよ!」 「そっか」 「そうだよ。ほら石鹸よこせ」 石鹸を俺から取り、泡立てるとグレンが俺の髪をぐしゃぐしゃと洗い始めた。 「わわっ!自分で出来るって!」 「いいから大人しくしてろ!」 「いてっ!」 グレンの手から逃れるために離れようするとベシッと頭を叩かれる。 結局、髪を洗ってもらってしまった。 身体はさすがに自分で洗い、 シャワーで泡を流し、手で顔を拭って目を開けると視線を感じた。 グレンが俺を見ている。 「何?グレン」 「あ、いや……セイジって肌、綺麗だな。色も白いし。どこかのいいところの出身か?」 「はぁ!?」 自分の肌をマジマジと観察する。 綺麗だって?しかも白い? ……そういえばずっと屋敷にいたから外に出てなかったもんな。 男としてこれはダメだ! これからは日光に当たらないと。 「グレン、俺は脱もやし宣言をする!それと俺はふつーのサラリーマン家庭の出身だからな!」 「……もやし?サラリー……?」 決意を固めた俺は首を傾げるグレンをシャワールームから引っ張り出し脱衣所へと向かう。 真新しい隊服に着替えるとなんだかワクワクとした気分になった。 隊服はズボンが薄いベージュ、シャツが白で上着が濃紺だ。 本来なら上着の右腕と左胸の所に隊章があるらしいが今は仮なので何も付いていない。 正式に入隊すると入隊先によって隊章が異なるらしくその配属先の隊章を付ける事になるという。 グレンはもちろんカミーユ隊長が率いる第二警備隊を希望している。 調合師の所へ行くまでそんな事を話しながら歩いて行った。 「第二警備隊は戦術に長けている者が入れるからさ、明日の試験で良いところを見せないと。 セイジはどこを希望して……あ、わりぃ。今は記憶ないんだよな」 「え?ああ」 謝られるとなんか良心が痛むな。 本当は記憶喪失じゃないし。 「あ、ここだ。調合師がいるところ」 グレンが立ち止まり、薬の小瓶のような絵が描かれている立て看板を指差した。 そこは寄宿舎から隣接している場所にあった。 近くてよかった。 遠かったら絶対迷子になってる。 ドアを開けて中に入ると独特の薬品のような匂いが漂っていた。 カウンターにメガネを掛けた女の人がいて束になっている紙を捲りながらペンで何かを書き込んでいた。 俺達に気付いて顔を上げ、にっこりと笑う。 「こんにちは。どうしたの?」 「回復剤を作って欲しくて」 グレンが俺からアブイブの精玉を受け取ってカウンターの上に置く。 それを手に取ってじっくり見た調合師が頷いた。 「これはアブイブの精玉ね。この質なら精力剤が3つ作れるわよ。500ルガだけど」 「聖司どうする?500ルガだってさ。作ってもらうか?……聖司?」 ……500ルガって、お金の事だよな? し、しまった! 俺、お金を持ってないっ! 回復剤が手に入らないじゃん。 あああ……。 「グ、グレン。せっかく連れて来てもらったのに、ごめん。お金がなかった」 「金がないって、もしかしてアブイブと戦っている時に落としたのか?あー、記憶がないんだったな」 グレンは少し考えた後、ポケットから紐が巻いてある袋を取り出し、そこからコインを一枚出した。 それを俺の手に乗せる。 「ほらよ」 「このコインって……。えっと、もしかしてお金?」 「おい、どう見てもそれは500ルガだろ……もしかしてこれも記憶がないのか?」 「……」 俺って、世間知らずもいいとこじゃないか? お金の種類や単位が分からないんだなんてさ。 今までこっちに来てからお金なんて使わなかったもんな。 欲しいものはセバスさん達が用意してくれていたし。 「ダメだ……。本当にダメだ!これではダメだ!どこの御曹司だよっ!」 このままじゃダメ人間まっしぐらだ。 これからは心を入れかえてこんな事がないようにしないと。 main next |