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冷静に冷静に、と自分に言い聞かせながら反撃のチャンスを待つ。
しばらくすると攻撃パターンが読めて来て そこから攻撃するチャンスも見つけた。
俺を仕留められない事にイライラし始めてきた魔物が尾を振り落して来る。
ニヤリと俺は笑った。

「尾が振り落とされた時がチャンス!」

ほんのわずかな時間だが魔物の動きが止まる。
そこを突く!
接近して顔目掛けて光球を投げた。
発光と爆発が起き、魔物の顔全体が煙に包まれる。

「どうだ!」

しかし煙の中から長い舌が素早く出て来て俺の身体に巻き付いた。
しまった!
ぬるぬるとした舌に捕らわれて身体が宙に浮く。
きき気持ち悪ぅっ!
舌の感触に鳥肌が一気に立つ。
そしてガバッと大きく開けた口にびっしりと生えた鋭い歯が見えて血の気が下がった。

「こ、こんなところで……死んでたまるかっ」

俺にはまだまだやる事が残っているんだ!
魔物を睨みつけ手のひらに力を集める。

「お前にはこれをくれてやる!!」

光球を魔物の口の中に連続で投げ入れた。
……6発目、7発目、そして最後の一発を投げ入れたところで精気切れで力が無くなり俺の腕がだらりと下がる。
俺に巻き付いている舌は依然絡みついていて離れない。
ダメージは与えられたのか?
様子を見守っていると魔物の目がぎょろりと動いた。

「あ……ダメ、か?」

殺されるかもしれないという恐怖が押し寄せて来た時、ぐらりと魔物の身体が傾いて 水の中に倒れた。
その反動で俺は千切れた長い舌が身体に絡んでいる状態のまま、路に投げ出される。
上半身を起こし水路を見ると白目を剥いている魔物が水に浮いていた。
どうやら俺の攻撃で口から舌が取れたらしい。
もしかしてこれが弱点だったとか?
気持ち悪い舌を身体から外して路に座り込んだ。
安堵して息を付いていたら舌の根元から直系10センチくらいの緑色の玉が転がって出て来た。

「これって……」

水路の水で洗って観察する。
そういえばニケルが野生のキドロからこんな玉を取っていたな。
確か。

「ほう、それは立派な精玉だな」

そうそう、精玉……って。
いきなり後方から声が聞こえて俺は驚いて振り返った。
するとそこに、隊の制服のようなものをきっちりと着ている長身の男の人がいた。
歳は見た目ヴィーナと同じくらいか。
茶色の髪に碧の瞳だ。
誰だこの人。
まさか、ウルドバントンの仲間……?
警戒心を強め身を固くする。

「よく、一人でアブイブを倒したな。えらいえらい」

男の人は水路に浮かんでいる魔物を見てから俺に視線を移し手を伸ばして来た。
咄嗟にその手を避けようとするが身体が力を使い果たしていて思うように動いてくれない。
結局その手は俺の頭に置かれて……ぐりぐりと撫でられた。
ど、どうして撫でられてるんだ?
キョトンっとした顔で見上げると、ニッコリと笑う男の人。

「その分だと力を使い切って動けないんだろ」

そう言ってひょいと俺を脇に抱えるように抱き上げた。
え?何で?

「エリア9はお前だけだな。ほらアブイブの精玉忘れるなよ」

精玉を渡されて思わず受け取ってしまう。
俺が話しかけようとした時、男の人は腰に括りつけてあるカバンから札を出す。
それを手から離すと路に落ちる前に素早く抜いた長剣で札の中心に突き立てる。
すると魔方陣がそこから広がった。

「あ、それは……転移符っ」

俺は赤い光に包まれてギュッと目を瞑った。







再び目を開けると石で造られている広いホールのような所にいた。
見上げる程高い天井を支えているのは何本もある巨大な石の柱。
柱は禍々しい魔物が彫刻されている。
そして俺の目の先にとても一人では開ける事が出来ない大きな両扉がある。
そんな所にたくさんの人達が集まっていた。
ざっと見ると剣や弓、斧、杖などをそれぞれ武器として装備し、防具も様々だ。
戦う事に慣れてるような感じがして俺より遥かにみんな強そうだった。

「これで全員だな」

男の人は俺を下ろすとそのまま離れて両扉がある所まで歩いて行く。
すでにその付近には男の人と同じ制服を着ている男女がずらりと並んでいた。
一人、中心に立っていた黒髪の女の人が一歩前に出る。

「今を持って警護隊の試験を終了する!入隊条件に満たせなかったものはこの時点で失格となる。 精玉を持っている者は前に出て各々提出しろ。以上だ!」

俺は一体何の事なのか良く分からずポカーンと呆けてしまう。
その間に周りにいる者達は手に精玉を持ち、制服を着ている人達の所へぞろぞろと進み出る。
精玉を見せ、両手を上げて喜ぶ者、項垂れて立ち去る者。
その様子をしばらく見ていたら肩を叩かれた。

「よお。どうした?」
「え?」

横を向くと俺と歳も身長も同じくらいの少年がいた。
赤茶色の短髪での青色の瞳だ。

「精玉持ってんだろ?試験結果見せに行かないのか?」
「あ、あのさ……」
「ああ、分かった、動けないんだろ」
「それもあるけど」
「しょうがねぇなぁ」

そいつは笑って俺の腕を掴み肩に回して歩いて行く。
どうやら支えて連れて行ってくれるらしい。

「お前さ……あ、俺、グレンっていうんだ。お前は?」
「俺は聖司」
「まだ試験は続くけど同じ配属先になるかもしれないからさ、その時はよろしくな、セイジ」

俺の頭の中で試験、配属先という言葉の意味を理解しようした。
今分かるのはここにいる人達は試験を受けるために集まり、持っている精玉で合否が決まるって事だ。
で、一番重要なのは、俺がここにいる必要はないって事だよ。
取り合えずここがどこなのか把握しないと。
ジルの屋敷からどれだけ離れた所にあるんだ?

「セイジ、ぼけーっとしてないで試験官に見せろよ」
「え?あ?試験官?」

いつの間にか制服を着ている人の所まで来ていたらしい。
見上げると俺をここに転移符で連れて来た人だった。
促されて持っていた精玉を渡す。

「合格だ」
「やったな!セイジ!」
「いや、あの……」

合格と言われても……。
状況を把握しないと!

「あのっ、質問していいですか?」
「ん?何だ?」

おそるおそる聞いてみた。
ここはどこで皆さんは何をしているですか?と。
するとグレンがぎょっとした顔になる。

「おい、何言ってんだ?ここはバルバティアス城の地下だろ?お前も警備隊に入隊するために 試験を受けてたんだろうよ」

……バルバティアス城?
ど、どこなんだろう。
初めて聞く名前だ。
制服の男の人が怪訝な顔をした。

「もしかしてさっきのアブイブのせいか?」

グレンがアブイブ!?と叫ぶ。

「セイジ、アブイブと戦ったのか?すっげーな。もしかしたら忘却の息をくらったのかもな」
「心配ない。忘却の息は時間が経てば回復する」

ほ、本当の事を言うべきか俺は悩んだ。
いや、まだ様子を見たほうがいいかもな。
ここが俺にとって敵地だったら困るし。
制服の男の人にグレンが名前を聞かれている。
するとビシッと姿勢を正した。

「はい、俺はグレン・モルターナです!」
「では、グレン、記憶が戻るまで面倒を見てあげろ。同期になるかもしれないしな」
「はい!」

俺とグレンがその場から離れると興奮したような息遣いが聞こえる。
もちろん、高揚しているグレンだ。

「やべー!カミーユ隊長に名前聞かれた!」
「カミーユ隊長ってさっきの人だよな?」
「そうだよ、それも記憶にないんだな。第2警備隊隊長カミーユ・ブランシェ。俺の憧れの隊長だ!」
「そうなんだ」
「カミーユ隊長はな、警備隊の中でも……いや、この話しをする前にまずカミーユ隊長の武勇伝を話さないとな……って聞いてるか!?」
「え?ああ。聞いてるよ」

カミーユ隊長を崇拝する言葉が止まらないグレンに俺はただ相槌をするしかなかった。




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