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「うわっ」

放り出されるようにその場に倒れた。
硬い石のような感触がする地面に身体を打ち付けて痛みが走る。
同時に大きな爆発音のようなものも聞こえる。
俺の所にバラバラと何かの破片が振りかかって来た。

「いてて……。どこだ?ここは……」

手を付き上半身を起こして見渡せば、また真っ暗だ。
なので再び手のひらに光球を出した。
そこに照らされたのは……。

「……転移鏡」

石の壁に飾られている鏡は俺がさっきとは違う場所にいる事を考えると転移鏡だと判断せざるを得ない。
やっぱりあの時、ジルの屋敷の隠し通路で触っていたのは……転移鏡だったんだな。
しかしなんであんな所にあったんだろうか。
首を傾げて考えても何も思いつかなかったので頭を掻いて溜息を吐く。
そして何気なく振り向いた先に丸い穴が石の壁に開いていた。
綺麗にくり抜かれたわけではなく破壊して開けたような穴だ。
その証拠に大小の石の欠片がたくさん落ちている。

「穴……。まさか……もしかして」

さっきの爆発音を思い返しながら俺は手のひらに浮かんでいる光球をちらりと見た。
一発目の光球が自然に消えたとは思えない。
という事はここに転移してしまった時に光球を手から放ってしまったと考えるのが妥当だ。

「弁償だよな、これ」

……謝らないとな。
というかそもそもここはどこなんだ?
自分のいる場所を確認して分かったのは転移鏡しかない石の空間という事だけだ。
そして俺が開けた穴以外に出入りする所はなかった。
なので穴からひょこっと顔を出してみる。
右見て左見て正面向いて……。

「うん、ここなんか見た事あるな」

目の前には5メートルの幅を流れている水。
その両脇に人が歩ける2メートルくらいの幅の路が続いている。
石の壁に等間隔で付けられている少し薄暗い明り。

「これって地下水路だよな?」

こっちの世界に来た時にキオやヴィーナ、ニケルと闇市から地下水路がある……なんとか城 に転移鏡で来た事を思い出した。

「あの城の名前なんだっけ?まさかここ、その城じゃないよな?」

もし、同じ城だったら……。
そう考えて不安になる。
なぜなら、ウルドバントンに賛同しているレヴァの一族と一戦を交えたからだ。
あの時はジルが来てくれたからみんな無事だった。
だけど、もし今、同じ状況になったら……。

「いや、だめだ!弱気になってどうする!」

あの時よりもちょっとは強くなっているはずだ!
でも……俺がまだ下位のレヴァというのは変わりない。
相手が俺よりも強いのは決定してるよな。

「素直に今、戻った方がいいかも」

これは弱気になっているわけじゃない。
身の程を弁えた賢明な判断なのだ。
なんでも突っ込んで行くだけが能じゃないって事だ!
口角を上げ、腰に手を当て自分の出した結論に頷き、よし、帰ろうと踵を返そうとした ところで、壁の穴の向こうから視線を感じた。

「え?」

思わず穴を覗いてみると……水の中から何かがこちらを見ている。
な、なんだ?
俺が数回瞬きした次の瞬間、地下水路と俺がいる場所を隔てていた石の壁が見事に粉砕された。
俺は軽く後方に飛ばされる。
ついでに光球もどっかに飛んで行ってしまい、直後にミギュアッ!という鳴き声みたいなものが聞こえて来た。
顔を上げ、前方を見ると水から深緑色の滑っている大型の両生類のような生き物が這い出て来た。

「げ、でかい……。あれって魔物か?」

頭部だけで俺の身長と同じくらいだ。
一部焦げたような跡があってなぜだか魔物は怒ったように興奮している。
もしかして、二発目の光球が偶然に当たっちゃったのかな……。

「うわっ!!」

魔物が長い尾を振り上げて攻撃して来た。
頭を両腕で庇って伏せると上方を尾が通過して奥の石の壁を破壊した。
急いで立ち上がりそこから離れる。
地下水路の方へ飛び出し、俺が今までいた所を見て愕然とした。
なぜなら尾が転移鏡を破壊していたからだ。
無残にも鏡は割れて瓦礫の中に散らばっている。

「マジかよ!――うおっ!!」

今度は長い舌が俺を捕えようと伸びてきて間一髪逃れる。
とにかく今はこの魔物をなんとかしないと!
……そう、なんとかしたいんだけど。

「でかすぎなんだよ!」

俺なんて余裕で丸のみされてしまうくらいの大きさだ。
どう戦えばいいんだよ。
俺の攻撃はあと8発の光球だけだ。

「こういうのは絶対弱点があるはず!……た、多分な」

落ち着いて考えろ……って、うわ、アブねっ!
水かきが付いている手から爪を出し俺を引き裂こうとしてくる。
連続で俺がいる所を目掛けて叩きつぶすように尾を振り落とす。
だーーーっ!!
避けるのに必死で攻撃するチャンスがないっ!
厄介なのは尾の攻撃だ。
リーチが長くて破壊力もある。
急いで体勢を整えるがそれもすぐに崩される。
これじゃ、いつになっても倒せないぞ。

「いや、焦るな。焦ってはだめだ。倒せない相手だとは、まだ決まっていないっ」




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