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「じゃあ、始めるわよ〜!5分後に探しに行くから。範囲はこの屋敷内よ!外はダメ! 制限時間は一時間!」

スタート!とヴィーナに強制的に始められてしまい慌てて俺たちは部屋から出る。
どこに隠れたらいいんだ?
取り合えず廊下を移動しているものの良い場所が思いつかない。

「隠れる場所、決まったか?」
「いいえ、まだ決めてません」
「ジュリーはきまったよ!」

上手に隠れるんだぞ!と言うと、はーいと返事をしてジュリーは、てってってーと走り出した。
その後ろ姿を見ていたらキオが僕も決まりましたと耳をピンっと立てる。
がんばれよ!と声援を送ると気合いを入れた顔をしてキオもその場からいなくなった。
残るは俺だけか……。
どこか良い隠れ場所はないかなー?
たくさんある客室の一室に隠れるっていう手もあるな。
でもそういう所って案外見つけやすかったりして。
うーん、そうだっ調理場!
……でもブレイズさんたちの邪魔になるか。
――あっ!
書庫!
あそこなら隠れられそうな感じがする!

「よし、急げ!時間がない!」

絶対に負けられない俺は駆け足で屋敷の一階にある書庫まで急いだ。
扉を開けて中に入ると……まさかの人物が。
条件反射で、げぇっ!という声がもれてしまった。
もちろん、そんな俺を相手は好意的でない目で見てくる。
そもそも最初からこいつは俺を嫌っているからな。

「レ、レイグ……いたんだ」
「……」

話すのも嫌なのか黙ったままだ。
何か本当に感じが悪い。
レイグは敬慕するジルの伴侶の相手が人間の俺だという事が許せないらしい。
ふと、じゃあ、誰だったら許せるんだ?と思ってつい聞いてしまった。
すると恐ろしく冷たい視線を俺に向けて来る。
うぐっ!

「くだらない事を聞くな」
「……っ」
「出て行け」

言われた通りにさっさと書庫を出て行こうとして足を止めた。
かくれんぼが始まってすでに5分は過ぎているだろう。
ヴィーナが俺達を探そうと動き始めているはずだ。
今からここを出て行くのは危険だ。
キオもジュリーもうまく隠れている事を信じているが探すのはヴィーナだしなぁ。
なんとか俺だけでも見つからないようにしないと。
もし全員見つかってしまったら……ジルをベッドに誘わなきゃいけなくなる。
そんな事を想像したくなくて思いっきり頭を振っている俺にレイグが再びさっさと出て行けと言う。
俺は振り返って出ていかないっと叫んだ。
レイグのこめかみがピクリと動く。

「ヴィーナに見つかる訳にはいかないんだ!」
「何を言っている」
「今、かくれんぼしててさ、制限時間内に見つかったら大変な事になるんだよ!俺がっ!」

レイグはだからどうしたと本当に興味がなさそうな声を出す。
くそっ。
代価の事は言いたくなかったが……しょうがない。

「レイグだって俺がジルをベッドに誘うの嫌だろ!?嫌だよな!?ヴィーナがここに来たら俺はいないって言ってくれよな!」

レイグの反応を見るのが怖くてそのまま俺は書庫の奥の方へと走り込んだ。
書庫は結構広く、一番奥まで来た事がなかった俺はキョロキョロと見回しながら隠れる事が出来る 場所を探す。
だが本棚があるだけで身を隠すような場所はない。
隅の方に行って足を抱え込むようにしてしゃがんだ。

「これ、俺が一番最初に見つかりそうだよな」

はぁっと溜息を吐いて壁に寄り掛かった時、ギギッと音がした。
……何だ?
振り返って確認しようとしたらそのまま壁が動いて俺はコロリと転がるように壁の中へと入り込んでしまった。
そこからは何がなんだか分からず、ただひたすら真っ暗な空間を転がり落ちて行く。
いでででででーーーっ!!
少ししてガツンッと身体に大きな衝撃を受けてようやく止まった。

「いってぇ〜!何なんだよ、一体っ」

目が回ってる感覚をやり過ごしてから手探りで状況を確かめる。
手に当たる壁の感触から横幅は狭くて、でも縦幅は長く続いてると分かった。
なんだここは?
状況を把握したくても暗くて何も分からない。
困った。

「明りだなんて持ってない……あ!」

そうだっ。
光球を出せばいいんじゃん。
俺って頭良い!
さっそく目を閉じて集中し、レヴァになる。
そして今度は手のひらに光りを集めた。
修業の成果もあって力の加減がちょうどいい光球を出す事に成功する。
全体が明るくなった訳じゃないが俺の周囲は目に見えるようになった。
俺が転がり落ちて来た所を見ると、階段になっている。

「もしかしてここって隠し通路かなんかなのか?」

少し通路の先を移動してみる。
すると微かに話し声が聞こえたような気がした。
壁に耳を当てて様子を窺う。

「……では、ないですか……」

やっぱり話し声だ。
しかもこの声はセバスさんじゃないか?
さらに耳をグッと強く押し当ててみる。

「大丈夫ですよ、……。ジハイル様は今不在なのですから」

???
誰かと話しているみたいだけど……。
誰がいるんだろ?

「……動き出した……私たちの……」

はっきりと聞こえないなぁ。
耳を壁に押し当て少しでも聞き取れやすいところを探りながら動いていたら足に何かが当たった。
何だ?
どうやらそこは通路のつきあたりのようで光球で照らしてみるといろんなものが雑然と置かれていた。
全て埃が被っていて真っ白になっている。
少し触るだけで埃がぶわりと舞う。

「ごほっ、すっげー埃」

そこには絵画のようなものもあるし、剣や盾のようなものもある。
食器もあるな。
これは……ボロボロの布切れだ。
一体誰がこんなものをここに置いたんだろ。

「ん?これは何だ?」

持ち上げてみると厚さはそんなになく、形は四角で 縦も横も50センチないくらいの大きさだ。
表面は埃に覆われていて真っ白だ。
足元に置き、しゃがんで埃を払う。
その時、赤いものが付着してしまった。

「あ、やべっ」

どうやら転げ落ちた時に手を怪我していたらしい。

「全然気付かなかった。あー、血で汚しちゃったな。取れるかな」

袖で拭おうとした時、表面がうねった気がした。
気のせいかなと顔を近づけて触れてみたら……手が突然、ズボッと入り込む。

「――っ!?」

次の瞬間、グンッと身体が引っ張られて声を上げる間もなく吸い込まれてしまったのだった。




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