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眠りから目覚めた俺はまず腰のだるさに眉を顰めた。
くっそー、結局ヤられてしまった。
……まぁ、俺の吸血の仕方が悪かったのもあるんだけどさ。
普通の吸い方が出来るまでジルから吸血はしない方がいいかもな。
ジルの腕が身体に巻きついている事を感じながらそっとジルの胸に埋めている顔を上げる。
ジルは目を閉じていてまだ寝ているみたいだ。
ふと、昨日ジルが言った言葉を思い出し、むぅっとした顔になる。
何だよ、俺の全てはジルのものって……。
そんなわけあるかってんだ。
じゃあ、それなら……。

「ジルの全ては俺のもの……なのか?」

ボソっと呟いた後、ジルの目と合った。
うわっ!?ビックリした!!
ジルは目を細め、口角を上げる。

「ジル?」

その時、ノックの音と共にセバスさんの声が聞こえて来てジルが起き上がった。
あ、もしかして仕事?
俺も起き上がろうとして腰のだるさに身体を一瞬止める。
ジルの手がそんな俺を押し、ベッドに戻した。
そして額にキスを落とす。

「俺の全ては、聖司のものだ」
「――っ!」

思わず額に手を当てた。
まさかさっきの聞かれてた……!?
顔がカーッと熱くなっていく。
う、ううっ。
俺はシーツを顔まで引き上げた。

「おはようございます。ジハイル様、聖司様」

セバスさんが入って来てジルに服を着せていく。
俺はというと恥ずかしいので黙ってシーツに潜っていた。
ジルが寝室を出て行く時にいってらっしゃいと声を掛けたけど。
パタンとドアが閉まる音を聞いてから顔を出す。

「はぁ、仕事に行ってくれてよかった」

もし今日仕事が休みだったら修業に行けなかったと思う。
それにしても……また腰をかばいながらエドの所に行ったら何て言われるか。
それを考えると気が重い。
少しして起き上がり、ベッドから下りた時、キオがノックして中に入って来た。

「おはようございます。ご主人様」
「キオ、おはよう……って大丈夫だったか?」

昨日ジルに首を絞められてしまったキオの状態を確認するため、シーツを腰に巻きつけて 傍に寄る。
手を首にそっと当てながらジッと見ていたら、くすぐったかったのか首を竦めた。

「大丈夫ですよ。ご主人様」
「本当か?」
「はい」
「ごめんな、キオ」

俺が謝るとキオは慌てて首を左右に振る。
そして悪いのは自分ですと俯いた。

「何でキオが悪いんだよ」
「先生にも叱られました。セルファード公の許可をもらっていなかった僕が悪いんです。 セルファード公がお怒りになるのも当然です」

きょ、許可って……。
なんだそりゃ。
俺が誰の血を吸おうと俺の勝手なのに。
でも、普通に吸えるまでは相手は選ばないとな。
キオはあんな目に遭った後だし、またバレたらすごく危険な感じがするからキオからは 吸血できない。
ユーディは……嫌な予感がするし、ニケルは女の人だから俺が恥ずかしい。
そう考えると、今はエドしかいないかも。
そんな事を考えている間にキオは俺を着替えさせていく。

「あ、そうだ。今日も昨日と同じ時間くらいに行くから」
「分かりました」

キオが頷いた時、セバスさんが部屋に入って来た。

「聖司様。朝食はどちらで召し上がりますか?」

どちら……。
部屋か、グレート・ホールか。
ジュリーの事を聞くと、ちょうど今グレート・ホールで朝食を食べているそうだ。
それなら食べる場所はグレート・ホールだな。
着替え終わった俺は早足でジュリーの元に向かう。
セバスさんが両扉のドアを開けてくれて中に入った。
すると大きな長いテーブルの席に一人、ちょこんっと座ってご飯を食べているジュリーがいた。

「ジュリー、おはよう」
「おとーさん!!」

ジュリーはハッとした顔をした後、満面の笑みに変わり急いでイスから下りて俺の所へ駆けて来る。
脚に飛びついて来るジュリーを受け止めてぎゅっと抱きしめた。

「久しぶりだな」
「おとーさん!!」

久しぶりといっても数日ぶりだけど。
ひょいっと抱き上げれば首に腕を回してきてしがみ付く。

「ゲコ助はどうだ?」
「げこすけね!げんきだよ!」
「そうか。あとでまた日記を見せてくれるか?」
「うんっ!いいよ!」

ジュリーの隣に座って話しを聞きながら朝食を食べた。
ゲコ助は5センチほど大きくなったそうだ。
花を咲かせるのはまだまだ先らしい。

「花が咲くのが楽しみだな」
「うん!!」

口に一杯頬張って食べているジュリーが笑う。
ああ、口から食べ物がこぼれ落ちて行く。
ナフキンで慌てて拭いてるとジィっと俺を見て来るジュリーに気付いた。

「ん?どうした?」
「ジュリーね、たくさんごはんたべるの」
「うん?」
「はやくおおきくなるの」

俺はそうだなと相槌を打つ。

「それでね、おとーさんをまもるの」
「俺を?」
「うん」

ジュリーは果物のジュースを一気飲みするとイスから下りる。
そして構えるような格好をした。
俺は首を傾げてそれは何だ?と聞いた。

「れんしゅうなの」
「練習?」
「聖司様、ジュリーは体術と剣術をヴィーナ殿に師事しているのですよ」

近くにいたセバスさんがにこりと笑いながら俺に説明してくれた。
ん?ジュリーがヴィーナに体術と剣術を師事?
理解するまでに若干時間が掛かった。

「は?え?なんで!?」
「ジュリーがそれを望み、ヴィーナ殿もその方がいいと判断したからでしょう」
「どうして?そんな事をする必要ないじゃん」
「きっとジュリーの中で戦う意思が芽生えたのでしょうね」

セバスさんは紅茶を入れながら俺を見る。
その理由は分かるでしょう?とその目が言っているようだ。
多分、自分の両親の時の悲しさやエゼッタお嬢様の件とかあとは……半分流れているナイレイトの 血。
同族だからヴィーナに教えてもらうのが最適だと思うけど……思うけどさ。

「ジュリーはまだ小さいし、女の子だしそんな事する必要なんかないよ」
「ですが本人が望んでいますからね」

俺はジュリーにヴィーナから体術や剣術を教えてもらわなくてもいいんだぞと言うと、 つよくなるの!と叫んだ。
あぁ、俺はこうさ、何かやるならもっと女の子らしい習い事とかしてほしいんだけど……。
なんとか納得させようとしているとグレート・ホールの扉が開かれる。
そこからヴィーナが入って来た。

「あら、聖ちゃんもいたの?」
「あ、ヴィーナ」
「チビッ子。食べ終えた?」

ヴィーナの視線がジュリーに向く。
ジュリーは手を上げて返事をした。

「じゃあ、行くわよ」
「うん」

俺は待って!とヴィーナを止める。

「何?」
「あのさ、もしかしてジュリーに体術と剣術を教えるの?」
「そうよ」

ヴィーナにしなくていいよと訴えた。
必要ないじゃんと言うと額を突っつかれる。
イテッ。

「これはナイレイトとして当然なの。聖ちゃんが口出しするような事じゃありません」
「でもさっ」
「ほら、チビッ子」

ヴィーナはやる気満々のジュリーと一緒に行ってしまった。
えーーー……。
というか俺が教えてもらいたい。

「はっ」

もし、ジュリーが俺よりも強くなっちゃったらどうしよう。
ふと、小さいジュリーに護られている自分を想像してしまった。
ダメだ!
俺がジュリーを護るってニナさんと約束したんだから!
やばい、こうしてはいられない。
セバスさんの入れてくれた紅茶を冷ましながら急いで飲み干し、自分の部屋へと戻った。
時間を見ると約束の時間までちょっと早かったが俺はベッドの下から転移鏡を取り出し用意する。
そして部屋に来たキオに留守番を頼んで鏡に血を掛けて飛び込んだ。




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