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その日の午後、一人になる時間が出来たので自分の部屋でさっそくエドに出された課題に取り組もうと 意識を集中させてレヴァになった。
えっと、10分の1の力を出せるようにすればいいんだろ?
なんとなくこれくらいかなぁという感じで自分の中に紅い力を集めた。
イメージは光球。
次第に手のひらの上に紅い光りが現れて来る。
そして野球ボールくらいの大きさの光球が出来た。

「お、良い感じ!」

ジルの術を発動した時より全然力に余裕がある。
よし、また同じ光球を出し……。
………。
で?

「今出している光球はどうすればいいんだ?」

ぶつける対象がないまま手の上に浮いている光球。
ど、どうしよう。
何も考えてなかった。
まさか置いておくって事は出来ないよな。
絨毯の上に置いた途端、穴が空きそうだ。
困った!!

「あああ、俺のアホー!」

光球を持ったまま、部屋の中を行ったり来たりしているとドアがノックされる。
げっ!誰か来た!
咄嗟に身構えたがドアの向こう側から聞こえてきたのはキオの声だった。

「ご主人様」
「キオ!丁度いいところに!早く来てくれ!」

俺が急かすとすぐドアが開いてティーセットを持っているキオが現れた。

「ご主人様、どうしたんですか!?」
「こ、これなんだけど」

キオの視線が俺の手のひらに移り、数回瞬きをした。
なぜ光球を出したのかを説明し、これがどうにかならないか相談する。

「後先も考えずに出しちゃった俺が悪いんだけどさ……」

するとキオはとんでもない事を言って来た。

「な、何言ってんだよ!」
「ですから、僕に向かって投げて下さいと……」
「そんな事したら危ないだろ!?」

慌てる俺にキオはニコリと笑う。

「もちろん結界を張りますよ」
「……結界?」
「はい」

なるほど!
そうか、結界なら……って大丈夫なのか?
俺の攻撃力なんてそんなにないと思うけどキオにもしもの事があったら大変だよな。
でも、他に方法はないし。
キオが首を傾げながら俺を呼ぶ。

「ご主人様?」
「キオ、受け止められなかったら逃げるんだぞ」
「はい。さあ、どうぞ」
「よし。じゃあ、投げるからな!」

キオの前に結界が張られる。
そこに向けて投げると光球が結界にぶつかった途端、大きな音を立てる事なくパッと消えた。

「ああ、良かった〜っ。ありがとうな、キオ」

礼を言うとシッポが左右に揺れる。
それにしても……あんなに簡単に消えてしまう俺の攻撃力ってどうなんだろうか。
あれじゃ、なにもダメージが与えられないような気がするんだけど。
あんなのでいいのか?
いや、ダメだろう。

「……さま」
「うーん」
「ご、人……さまっ」
「でも、今は力を10等分にする目的だからな」
「ご主人様!!」

キオが俺の目の前で大きな声を張り上げた。
ビックリして目を丸くする。

「どうしたんですか?心ここにあらずでしたよ」
「あ、ちょっと考え事してただけだからさ。なぁ、もう一回さっきのしていいか?」

エドに出された課題の事を話すとキオは使命感のある顔で何度でもどうぞ!と頼もしい事を 言ってくれた。
じゃあ、遠慮なく。
俺はまた意識を集中させて光球を出してみる。
うーん?
さっきよりも大きい気がするけど……。

「ご主人様、さっきの光球と比べて少し力が大きい気がします」

あ、やっぱりキオもそう思ったか。
じゃあ、次!とキオの結界にぶつけて消し、また光球を出す。
あれ?今度は小さい気がする。

「ご主人様、なんだか力が小さい気がします」

うう……。
じゃあ、次!

「力が大きいです……」

これなら!

「もっと大きくなりました」

これはどうだ!

「小さ過ぎます」

おりゃー!

「まだ小さいです」

とりゃー!

「あ、良い感じです!」

よし、もういっちょー!

「……」

そりゃー!

「ご主人様」

そりゃぁーっ!!

「ご主人様っ!」
「へ?何?」

ぜぇぜぇと息を切らしながらキオを見る。
困った顔のキオは俺から光球が出てない事を指摘する。
あれ?出てない?
夢中になっていて力がすでに無い事に気付いていなかった。
俺、10回も出せてないよ……。
単純そうで難しいなぁ。
ふらふらしながらソファーに座りこんだ。

「あー!疲れたぁー!もうレヴァの力なんて残ってないよ」

……。
………。
………あれ?
今、俺、何て言った?
レヴァの力が残ってない……?

「しまったぁーーーー!!」

大声を上げた俺にキオが驚いた顔をする。

「どうしたんですか!?」
「ヤバイっ!」

せっかくエドから精気をもらったのに全部使い切っちゃった!!
俺のアホーー!!
早く力を回復させないと怪しまれるっ!
俺が慌てている理由を知ったキオが 若干、顔色を変えたが良い案が浮かんだのかニコリと笑う。

「ご主人様、僕の血を吸って下さい」
「え、いいのか?」
「もちろんです!」

じゃあ、ちょっとだけ……と思って吸血しようとしたけどエドのテクニシャンという言葉が 脳裏に蘇って一瞬動きを止める。
あ、でもキオは変なふうに感じてなかったはずだ。
確かふわふわって言ってたよな?
まぁ、どっちにしろキオから血をもらうしか選択肢はないから普通に吸血!と心の中で念じながら 首筋に歯を立て―――。

「ぐえっ!?」

いきなり勢いよく後方へ引っ張られた。
体勢が崩されて倒れるかと思ったけどしっかり首根っこが掴まれていて床にぶつかる事はなかった。
ホッとする間もなくキオが首を掴まれて宙に浮いている姿が目に映る。

「キオっ!!」

キオは苦しそうに顔を歪めている。
明らかに手がキオの首を締めつけていた。
俺はそんな酷い事をしているヤツを睨み付け怒鳴った。

「ジル!!その手を離せ!!」

ジルは手を離すどころか力を込めながら俺の方へゆっくり振り返る。

「ジル!!手を離せって……うわっ!?」

俺の首根っこを掴んでいた手が離されて床に尻から落下した。
いってー。
このぉー!
俺じゃなくてキオから手を離せって言ってんのに!!
っていうか何でそんなに怒ってんだよ。
意味が分かんねぇ!
キオの顔色が悪くなってきている。
急いでジルの腰にタックルした。

「ジル!!どうして機嫌が悪いんだよ!キオは何もジルにしてないだろ!?」

手を伸ばしてキオを持ち上げている腕を掴んで引っ張る。
くっそー、ビクともしないぞ!
ああ、キオがっ!
苦しそうな息遣いが真っ青な顔をしたキオから聞こえて来て、俺はジルを睨みつけながら 身体を拳で叩いた。

「キオを離せよ!!何でこんな事をするんだ!」
「お前が」
「俺が何だよ!!」
「吸血しようとした」

吸血?
確かにしようとしたけど、なぜそれがジルの怒りに触れ……。
その時、エドが言った言葉を思い出した。
もしもキオから吸血しているとジルに言ったらどうなるか。

『お前の僕、瞬殺されっから』

ごくりと俺の喉が鳴る。
これはジルがキオを殺そうとしているって……事か?
冷たい深紅の瞳がそれを肯定しているようで背筋に嫌な汗が流れる。




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