我が同胞達よ。

                時は満ちた。

さぁ、遥か古より耐え抜いてきた我らの報復を始めようじゃないか。


        今こそレヴァ・ド・エナールを我らの手に!

















うーん、うーん。
うーん、うーん、うーん?
俺は自室のソファーに座り、見ての通り唸っている。
念の為に言っておくが腹を下しているわけではない。
何をしているかっていうと……レヴァの力を使える状態になろうとしているんだ。
なぜそんな事をする必要があるかって?
ま、疑問に思うのも無理はないな。
ここはジルの屋敷で結界も張られている。
こんな安全な場所でレヴァの力を使おうとしている俺の行動に不審を抱くかもしれないが これには事情があるんだ。

「とても深い事情がな……ふふふ……へへへ……」
「ご主人様?」

部屋に入って来たキオがすごく怪訝な顔をして俺の傍に来る。
どうした?と聞くと俺が一人でぶつぶつ言ってたから心配になってしまったそうだ。

「き、気にするな。レヴァになるスイッチの切り替えがうまくできなくて ちょっと現実逃避してただけだからさ……」
「少し息抜きしましょう!紅茶入れますね!」

俺は大きな溜息を吐きながらごろりとソファーに寝転がった。
そして指を折り曲げて数える。

「あと二日後……か」

俺が呟いた言葉に反応して紅茶を用意しているキオが顔を上げた。

「アートレイズ公の宿題ですね」

エドの宿題……そう、これが事情ってやつだ。
この前、熱が下がってようやく転移鏡を使いエドの屋敷に行ったんだ。
するとエドが取り合えず今の俺の実力を知りたいから攻撃して来いと言って来たんだけど……その時 レヴァの力が使える状態になるまでかなり時間が掛かってしまいエドを呆れさせてしまった。
そんなんじゃ問題外だ、期日までに出直してこい!と追い返されて今に至る。
今までピンチの時とか怒りが頂点を越えた時しかレヴァにならなかったからなぁ。
何でもない時に急になろうとするのはめちゃくちゃ難しい事だと痛感した。
いつもレヴァの力を使おうとする時って俺の中に紅い光がはっきり見える。
それを捉えると渦を巻くようにどんどん大きくなっていって身体中に広がっていくんだ。
だけど今はその光が薄くて捉えにくい。
なにか他にいい方法はないのかな。

「うーん、うーん、うーーーん!」
「お腹でも痛いの?聖ちゃん」
「違うっ!って、ヴィーナ!?」

ヴィーナがいつの間にか俺の傍に立っていた。
起き上がると隣に座って来て手を俺の額にくっ付ける。

「熱なんかないよ……。お腹も痛くないから」

何だか俺が倒れてからヴィーナもセバスさんも過保護になっているような気がするんだよな。
ヴィーナは一通り俺の身体をチェックする。
異常がないと分かると唸っていた理由を聞いて来た。

「ちょっと考え事してただけだから……」
「何を?」
「別に何だっていいじゃん」

まさかエドの宿題の事なんか言えるはずがない。
それなのにやけにしつこく聞いて来る。

「しつこいよ」
「だって心配になっちゃうでしょ?」

正直に言えないのでこの間から疑問に思っていた事を聞いて誤魔化すしかない。

「それよりも聞きたい事があるんだけどさ、 レヴァの一族って俺以外に半分レヴァっているの?」

俺の質問に少し眉間に皺を寄せるヴィーナ。
どうしたんだ?

「聖ちゃん」
「な、何?」
「もしかして……」
「ななな何?」
「誰かに言われたの?」
「へ?」

ものすごく真剣な顔のヴィーナが俺を覗きこむ。
一体、何がなんだか。
首を傾げているとガシリと肩を掴まれる。

「まさかあの女?」
「あの女って?」
「エゼッタよ!」

俺はきょとんっとした顔で首を振る。
すると誰に言われたの?と詰め寄って来た。
その上、いい?聖ちゃんは誰が何を言おうとレヴァの一族なのよ! 半分とかそんなの関係ないわ!レヴァの流血の時にマスターと血の契約をしたんだから 聖ちゃんは伴侶にもなったしレヴァの一族にもなったの! これを第三者が否定するのはマスターを侮辱しているも 同然だわ!と口出し出来ないくらいの剣幕で怒っている。
もしかして半分レヴァって事を誰かにバカにされたと思ってるのか?
ヴィーナに誰かに言われたわけではなくて 気になったから聞いてみたただけと言うと表情を和らげてなんだと溜息を吐いた。

「聖ちゃんみたいに違う種族からレヴァになったっていうのは私は聞いた事がないわね」
「そっか」

もしいたらどうやって自由に力を使える状態になるのかアドバイスをしてもらいたかったんだけどな。
自分でなんとかするしかないかと考えていたらヴィーナが、で?と先を促してくる。

「で?って何?」
「もう、聖ちゃんがうーんうーんって言ってた理由よ」

げっ、そこに戻るの?
どうしよう……。
うまい理由がみつからない。
また別にいいじゃんって言ってもヴィーナの事だからさっきみたいにしつこく聞いて来るだろう。

「その……強くなるにはどうしたらいいのかなって……」

差し支えのない言葉を返すと軽く小突かれた。

「聖ちゃんは別に強くならなくてもいいのよ。私達が護るから。あ、そうそう。前に私に教えて 欲しいって言ってた剣の稽古の件はどうだったの?マスターに聞いたの?」
「聞いたけど……」
「けど?」

ムスッとした顔で強くなる必要はないと言われたと答えるとヴィーナがほらねという顔でニヤッと笑う。
くそっなんか腹立つ。
今に見てろよ!
めちゃくちゃ強くなって驚かせてやるんだからな!




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