ヴィーナは自分でお茶を入れて一気飲みをするとティーカップをガシャンっと音を 立ててローテーブルに置く。
その様子を俺とキオとジュリーはポカーンっと同じような顔をして見つめていた。

「えっと、ヴィーナ。何が…」
「もー!!何なのあの小娘!!右斜め上に構えちゃって!!自分がマスターの伴侶になるって 本気で思っているのかしら!?馬鹿じゃないの!!マスターの伴侶は聖ちゃんなのよ! でもその事が言えないのが口おしい〜っ!」
「俺の事言わなかったんだ」
「そうよ。反総統の一味が動いている今、聖ちゃんがマスターの伴侶だって世間に知られるのは 良くないと判断して公にしていないの。あ、でも反総統の一味の件が片付いたら公表するから、 安心してね!」
「えっ!?」

しなくていいよっ!と必死に言う俺をヴィーナは完全無視。
そしてこの後もさんざんエゼッタお嬢様の愚痴は止まらない。
うーん、と俺とキオとジュリーは3人で顔を見合した。
簡単に要約すると、エゼッタお嬢様は絶世の美女がジルの伴侶になったという噂を聞きつけて 来たみたいだ。
自分こそが伴侶なのにどういう事だと言って来たらしい。
そして噂の伴侶に会わせろと。
もちろん断ったけどそれでおとなしく帰るようなエゼッタお嬢様ではない。
するといかに自分が素晴らしい人物かを誇らしげに語りそして噂の伴侶…まあ絶世の美女ではないが 俺の事を馬鹿にして蔑んだ言い方をしたそうだ。
それに大人の対応をしていたヴィーナも徐々にキレ始めて…今に至る。

「もー!もう少しでぶった切るところだったわよ!まったく、女の嫉妬ほど醜いものはないわね!」

本当に何を言われたのか…俺、いなくてよかった。
もしいたらかなりのダメージを負ってたと思う。
女の人に口で勝てる気がしないんだ。

「ヴィーナ、まーまー落ち着いて」
「ヴィーナ、まーまー」

隣に座っていたジュリーが俺の真似をしてヴィーナを宥めた。
思わずぷっと吹き出してしまう。
ヴィーナは眉間にしわを寄せてジュリーを見る。

「あら、チビッ子。この私を宥めてるつもり?」
「ヴィーナ、まーまー」

ジュリーはヴィーナにもう一度同じセリフを言う。
ダメだ。
俺はクッションを抱えて爆笑した。
ヤバイ、腹が痛い!
このままだと笑い死ぬ!

「ちょっと、聖ちゃん!」
「あははは!いてててー腹がーっ!」

もうっと頬を膨らませているヴィーナは息を吐いて、お菓子を口に入れた。
そしてチラッとドアを見る。
すると数回ノックの音が聞こえて来た。

「聖司様」

あ、セバスさんだ。
俺が返事をするとドアが開きセバスさんが入って来た。

「セバスさん、エゼッタお嬢様は?」
「帰られましたよ」
「帰ったんだ」

さすがセバスさん。
ヴィーナをキレさせるエゼッタお嬢様を帰らせるなんて。
執事の鏡だ!

「あの女なんて言ってたの?」

うわっ。
エゼッタお嬢様をあの女呼ばわりしている。
そうとう腹が立ったんだな。

「ジハイル様の伴侶に会わせて欲しいと。それからご自分がジハイル様の本当の伴侶だと」
「嫌になっちゃう!勘違いも甚だしいわ!どうしたらそんなふうに思えるのかしら!」

ぷりぷり怒っているヴィーナから俺に視線を移したセバスさんは俺が座っているソファーの 近くに来て片膝を付いた。

「どうやらエゼッタ様の父君、ノズウェル公からジハイル様が婚約者だと言われたようなのですが、以前、聖司様にお伝えしたようにそのような事は一切ありません。ですから聖司様。 何も心配なさらないで下さい」
「え、いや」

別に俺は気にして無いけど…。
確かにちょっと前までは、疑ってた時もあったけどさ。
でもジルが俺にエゼッタお嬢様とは婚約をしてないって言ったし、それに…。
俺の事、俺の…事。
す、す、好きだって。

「あらぁ、何を思い出してるのかしら。顔が真っ赤よ、聖ちゃん」

うぐっ!
なんだよ!
そのニヤリとした顔は!
さてはさっきの仕返しか!?
ヴィーナにからかわれる俺を見たセバスさんはホッホッホと笑った。

「どうやら心配はご無用でした。このセバスも割って入る事など出来ない程、 お二人は固い絆で結ばれて…」

セバスさんは懐から真っ白なハンカチを取り出して目元を拭った。
ヴィーナは俺のこめかみをドスドスっと突っついてラブラブゥ〜!と茶化して来る。
止めろよーっと手を振り払っているとジュリーが俺に向かって、らぶらぶぅ〜っと言って来る。
だーっ!ジュリーの前で変な事を言うの禁止!

「おにいちゃん、らぶらぶぅ〜ってなぁに?」
「え?ラブラブはえっと」

ジュリーに聞かれたキオが教えてもいいですか?と俺を見る。
俺はもちろん腕で大きくバツを作った。
ジュリーにはまだ早いです。




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