えっと、確か…ジュリーと朝食を食べた時にコップに入れてその後、遊んで一緒に寝たから…。
そうだ!
ジュリーの部屋だ!

「セバスさん。俺、ジュリーの部屋に行って来る!」

ジルの部屋を飛び出した俺は全速力でジュリーの部屋に駆け込んだ。
ノックもそこそこにドアを開けるとジュリーがソファーにちょこんっと座っていた。
俺と目が合ったジュリーは、ニッコリと笑って駆け寄って来る。

「おとーさん!」
「ジュリー、俺はおにいちゃんだろ?ってその事はまた後でっ。ゲコ助は」

ジュリーを抱っこしながら部屋をぐるりと見渡した。
するとジュリーがここだよと言って指を下に差す。
視線をそこに移せばローテーブルの上にティーセットと 一緒にあるガラスのコップ。
い、いたー!

「ゲコ助―!……ん?」

あれ?
動いてる?
コップを覗き込んだ俺の目に動いているというよりは泳いでいるゲコ助が。
しかもその姿は。

「おたまじゃくし!」

どう見ても、おたまじゃくしそのものだ。

「おじゃまたくしー!」
「ジュリー、おたまじゃくしだよ」
「お、お、おじゃまたくしー!」

う〜ん、小さい子には難しいのかな。
それにしても無事でよかったーー!
安堵して身体が脱力する。

「おとーさん、うえよー!」

きゃっきゃっ!と、はしゃぐジュリーに同意する前に訂正しなければ。
俺は『おとーさん』ではなく『おにいちゃん』だよってな。
その事を言うとジュリーは途端に難しそうな顔になった。
そして俺に訴えてくる。

「あのね、おにいちゃんがおにいちゃんだからおとーさんはおにいちゃんじゃないの」

さ、さっぱり分からん。

「さいしょね、げこすけおよがなかったの。あさになってもおよがなかったの」
「孵らなかったのか?」
「そうなの。おかしいなーってジュリーおもったの。そうしたらおにいちゃんが おしえてくれたのよ。それでね、げこすけおよいだの!」

俺は一生懸命に話すジュリーの頭を撫でてやった。

「おにいちゃんはね、しろいおにいちゃんなの」
「白いお兄ちゃん?」

俺が聞くとジュリーはうん!と頷いた。
白いお兄ちゃんってなんだ?
するとジュリーはみみとしっぽがあるのと言って自分の頭の上で手をくっつけて動物の 耳を現しているかのようにピョコピョコと動かしている。
それを見て俺はもしかしてと思った。
ジュリーが言う、白いお兄ちゃんって。

「ジュリー、キオの事を言っているのか?」
「うん!しろいおにいちゃん!」

やっぱり…。

「いっしょにね、げこすけみてたんだよ」
「ゲコ助を?」
「うん!きょうもやくそくしたの!」

その時、トントンとノックの音が聞こえた。
ジュリーがはーいっと元気良く返事をするとジュリーの名前を呼ぶ声が。
この声は。

「あ、おにいちゃんだ!」

キオだ。
どうする。
ここに俺がいたと分かったらキオは一目散に逃げて行くに違いない。
急にその場を立った俺をジュリーが不思議そうに見てくる。

「ジュリー、俺はあそこに隠れているから絶対にキオには言っちゃだめだぞ。ジュリーと俺の 秘密だ。出来るか?」

ジュリーは使命感のある顔でコクリと頷く。
俺は天蓋付きベットの後ろに隠れ、キオの様子を見る事にした。
ジュリーがどうぞーと言うとドアが開いて、本を持ったキオが現れた。
キオだけだと思ったらセバスさんもいて一緒に入って来る。
キオは少し元気がなさそうだけど前と変わらない姿にホッとする。
ジュリーと一緒にいるとなんだか兄妹みたいだ。
二人はローテーブルの前に座りゲコ助をジッと観察している。

「ほら、ジュリー見てごらん」

キオは持って来た本を広げてジュリーに見せた。

「リップルップは花の中に種が出来ると花びらを閉じてその中に水を溜めるんだ。 そして花は種に月の光を当てるために夜、再び花びらを開くんだよ。 そうすると種が孵るんだって。 だからこの種が水に入れても孵らなかったのは月の光を当てなかったからだね」
「月の光が必要だとは…キオのおかげで勉強になりました」

優しく二人を見守っているセバスさんにそう言われたキオは照れたように笑った。
キオの笑った顔を久しぶりに見た気がする。
ほのぼのとしている3人をジッと見ているとセバスさんがキオに決めましたか?と聞いた。
さっきとは一変して厳しく教える先生の顔をセバスさんはしていた。

「……」
「聖司様から逃げて考える期間はもう十分ではないのですか?」
「僕は」
「ヴァルタは常に主人の事を考えて行動せよと教えたはずです」
「はい」
「これ以上、先延ばしにするつもりですか?」
「……」
「まだ迷いがあるのですか」
「……」
「それならば、契約を切ってもらいなさい」
「…!!」
「その方が聖司様のためです。いつまで聖司様に甘えるつもりですか。貴方が 他のレヴァに仕えていたらとっくに見限られていますよ」
「先生…っ!僕、僕。考えて…きちんと考えたんです!」
「はい」

キオの目からいくつもの涙がこぼれ落ちている。




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