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あわあわしながら説明すると、ニケルは計画?と首を傾げる。
あれ?エドから何も聞いていないのか?
俺はエドに色々と協力を求めている事を伝えたらニケルの表情が一瞬消えた。
ユーディは、えー!?なにそれ!そんな楽しい話しなんてボク聞いてないよー!と不満そうな声を上げる。
その時。

「おーおー、騒がしいと思ったらセイジじゃないか。さっそく使ったのか」

ドアが突然開き、そこにこの屋敷の主であるエドが現れた。
己の主を振り返ったユーディとニケルはそれぞれ詰め寄る。

「ちょっと、マスター!何でボクに聖くんの楽しい計画を教えてくれなかったのさ!」
「マスター、ちゃんと考えて聖司様への協力をしているのですよね?」

どうどうとエドは手を前に出して二人を宥めソファーに座っている俺の所までやってくる。
顎に手を当て俺をジッと見下ろして片眉を上げた。

「んー?顔色が悪いな、しかも寝間着かよ。もしかして……」

さすがにエドにも体調が悪い事が分かったみたいだな。

「お前、今まであいつとヤリまくってたのか?しつこくされたんだろ」
「ちっがーーーう!!」

体調の悪い意味がちっがーーーう!!
ニヤリと笑い指を鳴らして指摘して来たエドに速攻否定した。
あぁ……なんか熱がさらに上がってきた感じがするよ。
項垂れる俺の代わりにニケルがエドに説明をしてくれた。

「ふぅん。じゃあ、また詳しい事は後の方がいいな」
「うん。で、どうやって俺達戻るの?」
「戻る時もあれを使うのさ」
「あれって……鏡?」

頷いたエドは俺達を隣の部屋に移動させる。
そこはさっき、こっちへ来た直後に俺がいた所だ。
その部屋はインテリアとして形や大きさの違う鏡がいくつか広い部屋の壁に掛けてあるのだが、 その中の一つに俺へ送られてきた鏡と同じものが何気なく飾ってある。
言われなければ気付かない程に部屋にうまく馴染んでいる。
それをエドは指でこつこつと叩き、使い方は簡単だと俺に教えた。

「お前に送った小ビンあるだろ」
「あ、うん」
「あの中身は俺の血だ」
「エドの?」
「そうだ。別に俺の血じゃなくてもいい。要はレヴァの血であればいい」
「レヴァの?」

だから、お前の血でも大丈夫だとエドは俺を引き寄せる。
エドの腕の中に収まった俺は一瞬きょとんっとしたが急いで逃げ出そうともがく。
でも力が入らない体では抵抗ができない上にどんどん体力が消耗してくる。

「ちょっと、マスター!ボクの聖くんに何をするの!ボクだってまだ抱きついてないのにぃー!」
「マスター、聖司様はセルファード公の伴侶なのですよ。何をお考えになっているのですか」
「ご主人様を離して下さい!」

みんなが味方になってくれてエドを非難する。
だけどそんな事おかましなしにエドは俺の首筋に鼻を近づける。

「あー、めちゃくちゃいい匂いしてんのに噛めないだなんて……」

ああ、そうか。
同じレヴァのエドが伴侶持ちの俺の血を飲んだら毒になるもんな。
というかいつまで密着しているんだ。
自分では脱出できないので俺はみんなに助けを求める。
すると快く協力してくれて無事エドから離れる事が出来た。
ニケルは俺を背後に隠し、腰に手を当てる。

「マスター、一つお伺いしたい事があるのですが」
「あー?何だ?」
「ここに何気なく飾ってある鏡、まさか転移鏡なのですか?」

エドは軽くそうだと肯定した。

「なぜ、廃止された転移鏡がここに?処分するよう命を受けたはずでは?」
「命を出されたのは俺が生まれてくる前だぜ。文句を言うならその時に処分しなかった 前当主に言うんだな」

そしてまた軽くここにあるのは俺が飾ったからだと得意気に笑った。
ニケルは頭が痛み出したのか手で額を抑えている。
……うん。
気持ちは分かるぞ。

「ま、せっかくあるんだ。ものは使って価値があるんだからよ。……で、セイジ」
「何?」
「これの使い方。転移鏡って言ってもいろんな種類があってこれは一番シンプルなものだ。 対になっている鏡が置かれている所にしかいけないし長距離は転移出来ない。 だがこれは発動するのにレヴァの血だけ あればいいんだ。他には複数の鏡を方々へ置き、距離に関係なく行き場所を 自由に変えられるっていうのもある。これはレヴァの血だけでなくいろんな材料が必要と なってくる」

エドは鏡に向かって指を弾く。
すると血が鏡面に飛び散った。
いつの間にか切った指をペロっと舐めながら、あと一つと俺を見る。

「レヴァの力や距離によって血の量も変わってくるからな。レヴァの力が無ければ ない程多く。長距離であればある程多く必要だ」
「どうやって足りているとか足りてないとか分かるの?」
「それはこれを見ればいい」

エドは波打っている鏡面を指差した。
量が足りてれば揺れるみたいだ。
さっそく帰ろうとしてキオを呼び手を繋ぐ。
その瞬間ユーディがじーっと見つめて来たのでつい苦笑いをしてしまう。

「ユーディ」

俺は拳を前に差し出した。
ハッとしたユーディの顔がみるみる笑んでくる。
ユーディの拳がコツンっと当たった。
俺が手を開くとパチンと音を立てて合わせてくる。
そして同時にグッと握った。

「熱が下がったらまたお邪魔しに来るからさ」
「本当に?」
「うん。エド、協力してくれてありがと。じゃあ、また」

俺とキオは鏡に再び吸いこまれて行った。
すぐにボフンっと身体がベッドに跳ねる。
瞑っていた目を開けると無事に自分の部屋に戻ったようだ。
俺はキオと目を合わせそして鏡へと視線を向ける。
そっと手に取って……トントンとドアがノックされた。

「聖司様、失礼します」

ドッキ――――ン!!
俺は急いで鏡と共にベッドの中へ潜り込み、キオは慌ててベッドから下りる。
その後、セバスさんが入って来た。
心臓がバクバクしている。
マジでヤバかった。
セバスさんが近くに寄って来て額に手を当て俺の様子を黙って見ている。
え、と。
何でしょうか?
無言で見つめてくるのは止めてほしいな。
やましい事をしているだけに目が泳いでしまう。
バレないように目を瞑った。

「おかしいですね。熱が一向に下がっていません。それどころか上がっています」

……俺、その原因知ってます。
だなんて告白出来るわけなく余計な事を言って墓穴掘らないように口を閉じる。
心配そうに見つめてくるセバスさんになんか申し訳なくなってくる。

「もう一度セルべック医師を呼んで診てもらいましょう」
「だ、大丈夫だよ」
「聖司様」
「……はい」

素直に返事をした俺に優しくほほ笑んだセバスさんがご飯の用意をしてくれた。
ブレーズさんお手製のおいしいおかゆを食べた後、薬を飲んで横になる。

「セルべック医師が来られるまでゆっくりお休み下さい」
「うん」

セバスさんが出て行った後、キオにそっと鏡を渡し小声で相談した。

「なあ、キオ。これが見つからない部屋って言ったらどこだと思う?」

キオはそうですねと考え込んだ。
話し合った結果、隠す場所は入る人がかなり限定される俺の寝室が一番いいって事になった。
寝室に入る事が出来るのは俺やキオ、ジルにセバスさん、ヴィーナ、レイグだけだ。
次は隠し場所だ。
ここは男子高校生の王道隠し場所にするか。
ただ普通にベッドの下だとバレてしまう可能性があるから……。

「ベッドの底にこれを張りつけるって事、出来るか?」
「はい、やってみます。ご主人様はもうお休みになられて下さいね」

頷いてあとはキオに任せる事にした。




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