ペチッと腰に回っている手を叩いているとメインディッシュが運ばれてくる。
皿に乗ってる蓋が取られた瞬間、俺は思わず見た事があるそれの名を叫んだ。

「お赤飯!?」

そう、立派な大きいお皿の中央に控えめに盛られているのはどこをどう見たって お赤飯そのものだった。
でもこの奇抜な料理の中ですごく違和感が。
しかもメインだし。

「オセキハンを知っているのですか?」
「え、あ、はい。俺のいた世界にもありますよ。めでたい事とかある時くらいしか食べて なかったですけど」

セバスさんの質問に答えるとこちらと同じですねと頷かれる。
どうやらレヴァ・ド・エナールもめでたい事がある時に食べるらしい。
ところで。

「セバスさん、さっきから聞こうと思ってたんですけど、もしかして赤い料理が出てるのって めでたい事があったからですか?」
「ええ、もちろんそうですよ」

なるほどーそうだったんだ。
で、誰かの誕生日とか何かか?
そう聞くとセバスさんは驚いたように俺を見た。
離れた所からブフッと拭き出した声がする。

「ちょっと聖ちゃん!分かってなかったの!?」

ヴィーナの言う通り全く分かってなかった。
ジルは知っているのか?

「ジル、ジルは知ってるの?」

ジルはクイッと口角を上げて俺を見た。
あ、知ってるなコイツ。
考えても俺には分からないのでセバスさんに答えを求めるしかない。
チラリと視線を向ける。

「セバスさん…」
「聖司様、今日はジハイル様と聖司様のお祝いでございますよ」
「お祝い?俺とジルの?」
「はい、お二人が本当の意味で結ばれた喜ばしい日を記念して」

……え?

「まさかこのような日が迎えられるとは夢のようです。 これも聖司様のおかげです。今まで以上にこのセバス・チャン、仕えさせて頂く所存です」

セバスさんが感極まって出た涙をハンカチで拭いている。
あれ?

「聖ちゃん、私が前に言った通りだったでしょ」

ヴィーナが俺にパチッとウィンクしてくる。
言ったって何が?
ウフフフーと笑ったヴィーナは自分の胸の前でハートマークの形を手で作った。

「――――!!!?」

知られてる!?
まさか知られてる!?
何で!?
どうして!?

「ジ、ジル!!お前言ったのか!?みんなに言ったんだろ!」
「何をだ」
「俺がジルに好きだって言っ…」

―しまったぁ!!
自分の失言に気付いた俺はジルに詰め寄った形で固まり身動きが取れなくなった。
聞かれた…。
みんなに聞かれたよー!!
俺のアホー!
どうしよう…。
穴があったら入りたい。
しおしおとジルの腕の中で小さくなって肩に顔を埋めた。
するとジルがはっきりと答える。

「言っていない」

そうですか。
もういいよ。
俺が言っちゃったから…。

「お前が俺を好きと言った事…」
「どわーーーーーーっ!!!!」

ガバッと顔を上げた俺は両手でジルの口を押さえた。
わざとか!?
わざとじゃなかったらかなりの空気読めない魔族だぞ!

「お前は」

眉間に皺を寄せたジルが俺の手を剥がした。

「不可解な発言、行動を良くする」

開いた口が塞がらないってこの事だきっと。
そっくりそのままジルにそのセリフ返してやるよ!
誰かジルにそれはお前だよって突っ込んでくれー!

「好きだとお前が俺に言ったのも俺がお前に言ったのも紛れもなく事実だろう」

そんなはっきりとみんなの前で。
みんなの前で…。
もう泣いて良いですか…ぅお?
下を向いていた俺は顎を掴まれて上を向かされた。

「違うのか」

ギラリと光る深紅の瞳に気圧される。

「チガイマセン」

若干棒読みになりながらも答えた。
ああ、誰かシャベル貸して下さい。
これから自ら入る穴を掘りに行きます。
ジルの手がテーブルに伸びたと思ったらズイッと俺の前に来た。
何かその手に掴んでいる。

「お赤飯?」

一口ぐらいの量のお赤飯がジルの長い指に摘ままれている。
なぜ手掴み?
箸はないけどフォークかスプーンを使えよ。

「食え」

ジルは俺の口にお赤飯を押し付けて来た。
……何なのこれ。
ちょっ、止めろよ!
ぐいぐいとさらにお赤飯を押し付けてくる。
顔を逸らしたいのだがジルのもう一つの手が未だに俺の顎をホールドしているので 逃げられず。

「何、すんだ、よっ」
「聖司様、オセキハンは親愛なる者同士がお互いに手で食べさせ合うのです」
「え?そう、な…んぐっ」

なるべく口を開けずしゃべっていたが結局僅かな隙間から指ごとお赤飯が投入される。
セバスさんからこっちの世界の風習を知った俺は咀嚼しながらジルをチラッと見ると 強い視線で見返された。
まさか…。
俺にも同じ事をしろって?




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