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「リグメットでセルファード公のお付きの者と共にいたって事はあなたもそうなの?それとも屋敷で働いているのかしら?」

俺はただエゼッタお嬢様の出現に驚いて黙ったまま凝視してしまった。
固まっている俺が質問に答えないでいると気を悪くして早く答えなさいと命令口調で 言って来た。
……い、言えない。
正直に伴侶だって答えてみろよ。
恐ろしくて言えねえって。
ずぶ濡れになっている俺を見下ろしているエゼッタお嬢様は呆れた様子で溜息を吐いた。

「わたくしの言葉が理解できて?あなたは従者なの?」

それにふるふると頭を振る。

「じゃあ、召使い?」

それにもふるふると頭を振る。
エゼッタお嬢様は俺の反応を見て考えるそぶりをみせる。

「さっき、セルファード家の執事があなたの事、様付けで呼んだわね。と言う事はそれなりの 身分があるって事よね」

ドキドキと心臓が速まっていく。
どうしようと焦っているとキオが叫んだ。

「お帰り下さい!!」
「あら、何この子」
「ヴァルタです。エゼッタ様」

抱き上げている従者がエゼッタお嬢様に答える。
エゼッタお嬢様はキオを見てヴァルタ?と呟くと指を差しながら 従者に質問をした。

「この子、黒じゃないじゃない。ヴァルタって黒でしょ?」
「そうです。黒ですがこうして役立たずな白も稀にいるのです」
「まあ、役立たずなの?この子」

明らかに蔑んだ言い方にものすごく腹が立った。
文句を言おうと口を開いたがその前にあのキオが言い返したのだ。

「僕は自分が役立たずだなんて思っていません。役立たずだと認める時があるのならそれは ご主人様に言われた時です。あなた達に決めてもらいたくない!」

一生懸命に己を奮い立たせて言っているのが良く分かる。
キオの成長に感動して胸がジンっと熱くなるのを感じながら俺はゲコ助の救助を再開した。
手元に集中してゆっくりゆっくり慎重に土ごとすくい取り、手の中に包み込む。
よし、早く植えかえないと。

「まあ、このヴァルタ、とっても失礼じゃなくて?」
「申し訳ありません。何分白なもので全てにおいて無能なのです」
「貴方とは大違いね。あ、このような者と比較されても嬉しくないかしら」
「まさか。ありがとうございます。エゼッタ様」

この会話にカチンっと来てしまい二人を睨みつけた。
そんな俺に気が付いたエゼッタお嬢様は首を少し傾けて見返している。

「最初に会った時は気が付かなかったけどさっきからなにかとても違和感を感じるのよね……」

え、違和感ってなんだ?
俺が聞かなくてもそれは?と従者に促されたエゼッタお嬢様が答えた。

「見た目レヴァではないのにどうしてかしら。同族の感じがするわ」

ヤ、ヤバイ!
この場から早く逃げ出したいっ。
誰かっ!
ヴィーナ―!セバスさ―ん!
と心の中で叫んだところで……あれ?セバスさんは?と思い見渡すが姿はない。
ヴィーナは朝から出掛けているからここにはいないけどあのセバスさんがこの場にいないって変だな。
こんな状況の中、屋敷で待っているって事は考えられないんだけど。
そういえばエゼッタお嬢様についている従者が抱き上げている者と傘を差している者の二人しか いない。
少なくとも後、五人くらいはいたはずだ。
……その従者達はどこに?
ハッと屋敷の方を見て次にエゼッタお嬢様を見た。

「なあ、あんたの他の従者はどこにいるんだ?」
「なっ!?あんたですって?まさかわたくしの事ではないわよね?」

憤慨しているエゼッタお嬢様に構っている場合ではない。
もう一度強い口調で質問した。
するとエゼッタお嬢様が口角を上げ不敵な笑みをする。

「他の従者?わたくしの従者はこの二人しかいないわよ?」
「何言ってんだ。もっといたじゃないか!!」
「気のせいではなくて?」

口に手を当ててクスクスと笑う。
身体がぶるっと震えた。
それが雨によるものなのか俺の嫌な方向に考えてしまったものによるものなのか は分からない。

「セバスさんに何をした?」
「あらやだ。まるでわたくしが何かをしたみたいな言い方、止めてもらえるかしら」

俺はギリッと歯を噛みしめた。
早く屋敷に戻らなければ…っ!
セバスさん!!
キオにジュリーを連れて来るように言った後、両手の中にいるゲコ助に気を付けながら 走り出した。
しかしその瞬間にバチッと目の前が光り行こうとしてもそれ以上は見えない壁があるようで進めない。
これは結界っ!
振り返るとエゼッタお嬢様が手を翳している。

「行かせないわよ。まだ聞きたい事があるし。同族の感じがするっていうのも気になるし。ゆっくりわたくしの屋敷でお話ししましょう。お茶くらい出してあげるわよ?」

ふふふと笑いながらお姫様抱っこしている従者に下ろすように指示を出し俺を捕えるように 命じた。
キオがすかさず俺の前に出る。

「何を考えているんですか!貴女は自分が何をしているか分かっているのですか!? こんな事が公になったら貴女もノズウェル家もただじゃすまされない!」
「こんな事って何かしら?ただわたくしは友人を屋敷に招待するだけじゃない」

キオは俺を捕えるように命じられた従者を見て必死に叫んだ。

「止めさせて下さい!兄さんっ!」

……やっぱり。
さっき階段でキオが呟いた言葉は聞き間違いじゃなかった。
まさかエゼッタお嬢様の従者…ヴァルタがキオの兄弟だとは。




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