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どれくらいで来るんだろうかとかちゃんと届くかなとかエドは読んでくれるのかなとか 心配は色々あったけど…その2日後。
俺の手元にエドからの手紙が届いた。
もちろんそれを渡してくれたのはキオだ。
本来ならセルファード家に関わる配達物は執事のセバスさんが目を通すのだけれど キオは今見習いとして手紙のチェックをしている。
だからセバスさんが確認する前に俺に届ける事が可能だった。
どきどきしながら封筒を見る。
すると緑色の蝋みたいなもので止められていた。
確かキオが出した時には赤い色で止めていた気がする。

「これって何?」
「それは封蝋です。レヴァの一族が出す時には赤い封蝋に家紋を押します」

へー、と感心したけど…エドから来たのは緑色だぞ?

「アートレイズ公の封蝋が緑色なのは僕が頼んだからです。あと名前も僕が指定した 偽名を使ってもらっています。先生の目に止まらないようにするためですけど」
「キ、キオ…」

偉いっ!
なんて頭がいいんだ!!

「よーし!開けるぞっ」

ペーパーナイフを使って手紙を開けそっと中身を取り出す。
いざ広げて……うん、読めない!
献上するように恭しくキオに手紙を渡した。

「ごめん、キオ。読んで」
「はいっ」

手紙を受け取ったキオが読み始めた。

『セイジへ。手紙読んだぜ。面白い事考えてるじゃねえか!ジハイルに秘密ってところが 実にいいねえ。協力してやるよ。修行は俺でもいいしニケルでもユーディでもウェルナンでも 好きな相手を選びな。セイジが探しているヤツについてだが知ってるぜ。 そいつの名前はウォーネスといって一時期俺の屋敷を出入りしていた事があった。現在どこで何をして いるのかは分かっていないが今行方を調べている。後、四大将軍の一人に状況を話したいらしいな。 俺に言えば伝えてやるから内容を書いとけ』

おおお、エドの見方が変わりそうだ!
感謝感激しているとキオが追伸を読み始めた。

『追伸、もっと字の練習をしとけ。始め見た時、暗号で書かれているのかと本気で思ったぞ』

うっ!!
それは十分、分かってるって!

『それからこの手紙を読んだら燃やせよ』

燃やすって…証拠隠滅の為か?
確かにジルに見つかったらせっかくの計画が台無しになってしまうからなぁ。
後でキオに頼んで書いてある通りに手紙を燃やしてもらおう。
ふふふ……これで第一歩が踏み出せたぜ。
見てろよ、ジル!

「聖司様」
「うあ!?はい!?」

突然ノックの音と共にセバスさんの声がして思わずドキっとしてしまった。
手に持っている手紙に気付き慌ててズボンのポケットにねじ込んだ。
その直後セバスさんが入って来る。

「失礼します」
「おとーさん!」

セバスさんと同じタイミングでジュリーの声がした。
セバスさんの後ろから俺を見つけたジュリーは一目散に駆けて来て俺の脚に顔を埋めて抱きついて来る 。
パッと顔を上げたジュリーはニッコリ笑った。

「おとーさん!でたよ!でたの!!」

出た?何が?
首を傾げる俺の周りをぐるぐる回った後、ジュリーはキオに飛び付いた。

「おにいちゃんっ!でたの!!」

キオも首を傾げたが何か思いついたのかハッと俺の顔を見た。
え?何々?
まだ分かっていない俺にキオとジュリーは顔を見合わせてクスリと笑うとそれぞれ左右の手を掴まれて 引っ張られた。
そのまま部屋を出てぐいぐいとどこかに連れて行かれる。
後ろを振り返るとセバスさんがほほ笑みながら付いて来ている。
一体、なんだぁ?

「お、おい。どこに行くんだよ」

はしゃぐ二人は早く早くと屋敷の外に出ようとする。
そこで俺は何が出たのかようやく理解した。
その途端、俺はジュリーを抱き上げキオを引っ張って全速力で駆けて行く。
目的の場所に辿り着くと茶色い土からぴょこんっときれいなエメラルドグリーンの色をした ゲコ助の芽が出ていた。

「ゲコ助〜っ!!」
「げこすけ〜っ!!」

俺とジュリーがテンション高く叫ぶ。
すげー!すげー!ゲコ助の芽が出た!!
いつ花が咲くか興奮しながらキオに聞くと当分先の事らしい。
まあ、そうだよな。
順調に育ちますように!
願いを込めてゲコ助に声援を送った。

「聖司様、屋敷にお戻り下さい」
「セバスさん?」

俺達の後ろで控えていたセバスさんに促された。
もう少しこの感動に浸っていたいんだけどな。
まだここにいては駄目か聞こうと思ったんだけどセバスさんの視線は俺達を通り越して ずっと先を見ている。
なんかこれ、前にもあった光景だな。
うーん、確かその時はヴィーナが一緒にいて……。
そうそうエゼッタお嬢様が屋敷を訪れたんだ。
もしかして……今回も?

「エゼッタ様が来られたようです」

やっぱりエゼッタお嬢様だ!
思わずうわっという顔をしてしまった。
そんな俺を見たセバスさんがホッホッホと笑う。

「なんで来たんだろ?」

まさかジルと正式に約束をして訪れたのか?と思って聞くと否定された。

「ジハイル様にそのような予定はありませんよ」

ということは以前と同じように突然来たのか。
エゼッタお嬢様と会いたくない俺はセバスさんに任せてさっさと屋敷に戻り 自分の部屋でキオにお茶を入れてもらった。
膝の上に座っているジュリーはお菓子を頬張りご機嫌だ。
うまいか?と聞くと頬にお菓子をくっ付けたままうんっと笑う。
かわいいなぁ。
部屋がほのぼのとした雰囲気になるけど……きっと今頃エゼッタお嬢様がいる応接間では殺伐とした 感じなんだろうな。
絶対俺、一分ももたないと思う。

「おとーさん」
「ん?」
「おとーさんもたべる?」

ジュリーが手にお菓子を持って俺の口元に差し出す。
ぱくりとジュリーの手から直接食べてありがと、と頭を撫でた。

「おとーさん、ジュリーも」

あーんと口を開けるジュリーに俺もお菓子を食べさせてやると おいしいねぇともぐもぐ頬を動かす。
ああ、かわいいなぁ。
頭を撫でながら顔を上げるとキオがティーポットを持ったまま俺達をジーッと見ている。
どうした?と声を掛けると慌てたように紅茶を入れ始めた。
はっはーん。
キオもお菓子を食べたいのか。
食べるか?とすすめるがふるふると首を振る。
遠慮しているのかと思ったがシッポが垂れ下がっているのでどうやら違うようだ。
口を開けるジュリーに食べさせてやっているとまた俺達をジーッと見ている。
やっぱりお菓子が食べたいんじゃないのか?
俺の傍に来て紅茶をローテーブルの上に置いたキオの腕を掴みほらっと皿に乗っている お菓子を差し出す。
しかし良いですと言って受け取ろうとしない。
あ、もしかしてあれか?
セバスさんにヴァルタとして働いている時は食べちゃいけないとか注意でもされてんのかな?
別に俺は気にしないけど。
お菓子を摘まみキオの口のところまで持っていって放り込んでやった。

「うまいか?」
「は、はいっ!」

頬を染めながらシッポを左右に振っている。
遠慮がちにキオがもう一個良いですか?と聞いて来た。
もちろんとお菓子を渡そうとしたがキオは口を開けて待っている。
くいくいと服を引っ張られて下を向くと 俺の膝の上でジュリーも口を開けて待っていた。
思わずひな鳥みたいだなと噴き出す。
ほらっと二人にそれぞれお菓子を口の中に入れてやった。
ちょうどその時、外からゴロゴロという音が響いて来る。
窓から外を見ると黒い雲が青い空を覆うように現れ始めた。
それを見てキオが珍しいと呟く。

「珍しい?」
「はい。黒雲が頻繁に出る時が毎年あるんですけど、今の時期に出ることはあまりないんです」

へーっと返事をしながら再び空を見た時、窓ガラスに大粒の雨が当たった。
続けて窓を叩きつけるように降ってくる。




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