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午後、ゲコ助の種を植えに行ったメンバーで水やりに行った。
まだまだ土からは芽が出る気配がしない。
ジュリーはジーッとその場にしゃがんで真剣に見つめている。

「まだでないねー。いつでるの?」
「うーん、もう少ししたらじゃないか?」

するとジュリーは「もうすこしっていつ?」と詳しい答えを求めてくる。
俺はキオに視線を移していつ?とこっそり聞いてみた。

「天候にも左右されますけど明後日くらいには発芽するかもしれません」
「だって、ジュリー」

明後日だと分かったジュリーは、たのしみだねーとニッコリ笑う。
うんうん、かわいいなぁ。
ジュリーと手を繋いで屋敷の玄関に向かって歩いていると隣にいるキオがチラチラと繋いでいる手を見ている。
もしやと思ってキオにほらっと反対の手を差し出す。
キオの耳とシッポがピンっと立ってキラキラした目で見つめられた。

「繋がないのか?」
「つ、繋ぎます!!」

右にジュリー、左にキオ。
仲良く手を繋いで屋敷に戻った。
後ろからヴィーナに笑いを含んだ声で、あら〜立派な二児の父親ねー!とからかわれたが……無視!









水やりの後、ヴィーナは用事で屋敷を出て行き、キオはセバスさんに付いてヴァルタの勉強があるので俺は眠くなったジュリーを寝かしつけ、自分の部屋に戻ってしなくてはならない事を紙に 書いてみた。
こっちのペンって万年筆みたいで使いにくい。
ところどころ文字が滲んでしまうが読めればいっか。
えっと、エレ救出大作戦…と。
プラス俺の修業が必要。
カッコしてジルの許可を取る。

「めんどくさいなー、許可取るの…」

あ、そうだ。
ドリード将軍にも会ってあの時の事を話さないと。
あ、でも……どうやって?
うーん、と俺は頭を悩ます。

「ジルに城へ連れて行ってもらえばいいのか」

紙にドリード将軍に会う、矢印を引っ張ってジルに連れて行ってもらうとペンを滑らせる。
よしよしと頷いた。
あと情報収集だ。
敵の事をなるべく知っておいた方がいい。
それでなくてもレヴァの影は謎だらけだし。
レヴァの影に関して知っている人って誰だろう?
脳裏にキットさんを思い出し机に突っ伏した。
俺の記憶の中でニナさんとキットさんが幸せそうに笑っている。
二人と交わした言葉がゆっくりと優しく蘇る。
ぼんやりとその声を聞いていると…。

「あ!」

声を上げ、ガバッと顔を上げた。
確か…キットさんに師がいた。
レヴァの影の事を調べていたけど無事だった師が。
その人に聞けば情報が手に入るかもしれない。

「けど、どこにいるんだろ?」

リグメットの学校で聞けば分かるかな。
リグメットに行ってキットさんの師を探す、矢印を引っ張ってヴィーナに連れて行ってもらうと ペンを滑らせる。

「よーし、さっそくヴィーナに連れて行ってもらおう」
「どこへ」
「どわっ!!?」

自分でも恥ずかしい程に身体が跳ねて驚いた声を上げてしまった。
くっそ、油断してたぜ。
バクバクしている胸を手で押さえつつ振り返ると、 涼しい顔をしたジルが俺を見下ろしていた。

「いつもいつもいつも言ってるけどさ!俺の後ろに転移するのやめろよな! ちゃんとドアから入って来い……って、ちょっと!」

人が怒っているのにジルは俺の脇に手を入れ、いつものようにひょいっと抱き上げた。

「どこへ」
「あのな、今俺が怒っているの分かってんの!?」
「聖司」
「……っ!!」

深紅の瞳に真っ直ぐ見つめられて名を呼ばれたら抵抗する力が一気に削がれてしまう。
ジルはまた俺にどこに行くか聞いて来た。
しょうがなくボソリと、リグメットと言うと今度はなぜと聞かれた。
俺はキットさんの師を探すためと正直に答えた。
それなのに…。

「行かなくていい」
「キットさんの師はレヴァの影を調べていたんだ。だからレヴァの影の事を知るには…」

ジルは俺が話している事を聞いているのか聞いていないのか俺を抱き上げたままソファーに 腰を下ろす。
なんで俺はジルの脚の上に横座りなんだ?
これじゃ、話しにくいので下りようとするとジルの手が俺を押さえ付ける。
おい、コラ。

「ジル、手を離せって」
「ここにいろ」
「え?」
「レヴァの影など調べる必要はない」

何言ってんだよ、それじゃ何も解決出来ないじゃないか!
俺がエレを助けたいって事を知っているくせに。
ムッとした顔になるとジルの手が俺の頬を撫でた。
俺はプイッと顔を横にする。

「俺はエレを助けたいんだ…」

そう呟くと引き寄せられてぎゅっと抱きしめられた。
まるで離さないとばかりに。
……もしかして、まだ俺が帰るかもしれないと思われているのか?
俺はジルと目を合わせた。

「なあ、ジル。俺の帰るところはここだからな。エレを助けたからって元いた世界に 帰ろうだなんてしないぞ。だから…」
「大事か」
「へ?」
「そのレヴァの影が」

俺は怒りを湛えているジルに首を傾げた。
そりゃ、エレは俺にとって友達のようなものだし苦しんでれば助けたいと思うのは当たり前だ。
友達は大事だと言い切れる俺は素直にコクンっと頷いて肯定した。

「許さん」
「ジル?」

なんでそんなに怒ってんの?
ジルの怒気にかなりビビっている俺はその原因も分からなくてうろたえた。

「ちょっと、何でそんなに…っ」
「大事なのだろう」
「そ、そりゃそうだよ。ジルだってヴィーナ達が大事だろ?エレみたいにヴィーナ達が 同じ状況になっていたら助けたいって思うだろ?」
「お前の方が大事だ」
「はぁ!?」

何言ってんだよ、もー!
ジルは俺をさらに抱きしめて耳元で囁く。

「すべてにおいてお前が大事」

カッと頬が熱くなるが…ダメだジル語が訳せない。
混乱しているままにソファーに押し倒された。
し、しまった…!
ジルが覆い被さって来て首元に顔を埋める。

「ジ、ジルっ!俺、聞きたい事があるんだ!っておい、首を舐めるな!吸いつくな!」

ジタバタもがくがビクともしない。
コイツ、昨日の夜やっておいてよくもまたやろうと思うよな!
俺が気遣え〜!!と叫ぶとようやく顔を上げた。
それはそれは不満そうな顔で。

「俺さ、今度ヴィーナに剣を教えてもらおうと思っているんだけど良いよな?」
「なぜ」
「今よりも強くなるためだよ。せめて自分を守れるくらいの力を身に付けたいんだ。 それと今度俺を総統がいる城に連れて行ってくれよ」
「……」
「あ、遊びに行くわけじゃないぞ。会いたい魔族がいるんだ」
「誰だ」
「え、んー…と」

あまり良い顔をしない事は分かっているから言いたくないんだけど…。

「ドリード将軍に。ニナさんとキットさんを殺したイースさんの事を話したいんだよ」

ジルは強くなる必要もドリード将軍に会う必要もないと言って俺の口を噛みつくように塞いだ。
激しいキスに文句もろくに発せられず。
まるで話しを聞き入れてくれないジルに腹が立った。
もういい!別にジルの許可なんてわざわざもらわなくたって勝手に行動してやる!と決意しながら 睨むとジルは俺を真っ直ぐ見据えて口角を上げた。
まるでやれるものならやってみろという風に。




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