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「ジルってレヴァの始祖の直系なの?」

驚いている俺を余所にジルはなぜだか俺の身体を見ている。
つられて見てみて……。

「うげっ!!」

少し捲れたシーツから三の影から着せられた服が。
光の下だとド派手な色の服がより一層強張している。
ガシッとジルが服を掴んだ。
そして……。
ビリビリビリ――――ッ!!!と引き裂いていく。

「ちょっ、ジル!?」
「……」

なんだ?文句あるのか?という目でジッと見られた。
俺は文句はありませんとジルの凄みにふるふると首を左右に振るしかなかった。
あっという間に破かれた服はジルに燃やされ灰も残されない。
すっかり裸になってしまった俺はシーツを引っ張って身体に巻きつけ起き上がった。
ベッドに座っている状態でジルと向き合う。

「ジル、あのさエレが三の影に捕らわれているんだ。三の影に気付かれないように助け出す事 って出来る?」

ジルは少し考えた後、不可能と答えた。
どうやらエレを自由にしないためにエレの影の周りを大きな結界が囲っているらしい。
それを壊すとなると結界を張った相手…三の影に気付かれてしまうだろう。
そうなったらジルと三の影が戦う事になる。
うーんうーんと考えてふと名案が思い付いた。

「そうだ!ジル、他のレヴァの影と接触して協力してもらうとかどうだろ?」

ジルはフイッと顔を背け、ベッドから下りる。
なんだよ、人が真面目に話しているのに!
シーツを引きずりながら寝室から出たジルを追っかける。
隣の部屋に出るとヴィーナ、レイグ、セバスさんがいた。
そして。

「ご主人様ーっ!!」

キオが俺に向かって走って来る。
しかし俺の前にいるジルがキオを睨み付けた。
すると明らかにキオの身体がビクッと強張る。
俺はジルの背をバシッと叩き睨むなと文句を言った途端、レイグから それはもう熱烈な殺気を頂きました。
今度は俺の身体がビクッと強張った。
こ、怖っ!!

「マスター、お時間です」

レイグがジルに向かって話している間に素早くキオの手を掴み寝室へと退散した。
俺もキオもホッと息を付く。
苦笑いをした俺はキオに何か着替えるものが欲しいなと頼んだ。
俺の頼みごとにキオは嬉しそうにハイッと返事をする。
同時に寝室のドアがノックされて返事をするとセバスさんが手に服を持って現れた。
キオはセバスさんから服を受け取り俺を見上げた。

「キオが着替えさせてくれるのか?」
「はい!」

自分で着替えてもよかったけど……目を輝かせているキオを見て断ったらきっと しょげるだろうなと思い、任せる事にした。
一生懸命な手つきでシャツのボタンを留めていく。
ジッと見守っているとセバスさんに話し掛けられた。

「聖司様」
「なんですか?」
「ご無事でなりよりです」
「あ、もしかして知って…」

セバスさんは頷く。
結界が僅かに揺れ、嫌な予感がしたセバスさんはヴィーナやレイグと一緒にジルの部屋に来たが 応答なし。
不敬なのは承知で寝室に踏み込もうとした時、そこからジルの声が。
しばらく待てとの命令にみんなは隣の部屋で待機していたらしい。

「そうですか…レヴァの影が」

その原因がレヴァの影だと話すとセバスさんは神妙な面持ちになった。
楽しい事が大好きでそのためなら何でもすると言っていた三の影。
そのせいでエレは閉じ込められている。
エレが自由になっていると邪魔な理由ってなんだろう。
それに……。

「聖司様、さあこちらに」

着替え終わった俺を隣の部屋へとセバスさんが促す。
そこにはヴィーナがいてジルとレイグの姿はなかった。
ソファーに腰を下ろすと隣にヴィーナが座って頭を大きな手でぐりぐりと撫でられた。

「聖ちゃん、どうしたの?浮かない顔をして」
「……そう?」
「あら、ヴィーナさんの目は誤魔化せないわよ」

パチンっとウィンクされた。

「せーいちゃんっ」
「……う、うん。レヴァの…三の影が言ってたんだけど…」
「何を?」
「ジルに『殺すのは俺じゃなくてアイツ』だって」
「アイツ?…ウルドバントンの事かしら」

俺もそうだと思った。
と言う事はウルドバントンと三の影が通じているって事になる。
ウルドバントン側の協力者は賛同しているレヴァの一族だけではないのだ。
ヴィーナが頬に手を当て首を傾げる。

「もしもそれが事実だったらどうして三の影がウルドバントンに協力を…?」
「三の影は楽しい事をするのが大好きなんだって。だからだと思う…。エレは今、三の影に 閉じ込められているんだ」

俺はギュッとズボンを掴んだ。
ジルが三の影に傷つけられた事を伝えるとヴィーナもセバスさんも予想に反して 慌てることなく冷静に聞いていた。 

「三の影…ジルに攻撃されてもケロッとしていて…ジルがあいつと戦ってまた怪我をしたら」

そこまで言うとヴィーナに頬を摘ままれてムニッと伸ばされる。

「誰が相手だろうとマスターは負けないわよ。特に今は護りたい者がいるしね」
「…え?」

ヴィーナは摘まんでいた頬を離して撫でた。
護りたい者…って。
ヴィーナはニッコリ笑って俺を見る。
言わなくても分かるでしょ?と言われているようだ。

「それにマスターには私達がいるのよっ。マスターは聖ちゃんを護って私達が マスターを護るの」

胸を張るヴィーナに頬が緩んだ。
うん、ジルは一人じゃないんだ。
優秀な僕達がいる。
……!そうだ。
ヴィーナ達がジルを護るように俺もジルを護ればいいんじゃん!
その前に自分を護るための力を付けなければいけないけど。
よしっと気合いの入った俺はヴィーナにお願いをした。

「え?剣の稽古?」
「そう。俺に教えて」

するとヴィーナは難しい顔になる。
いいわよーと言ってくれるんだと思っていたのに予想外の反応だ。
教えるのはいいけど…マスターがとぶつぶつ呟いている。
ヴィーナはセバスさんに相談した。
セバスさんはお茶を入れている手を止める。

「聖司様が怪我をすれば、ヴィーナ殿の首が飛ぶ事となるでしょう」
「首が飛ぶって…クビって事?」
「いえいえ、言葉の通りに本当に首が飛ぶという事ですよ」

ええーーー!!っと俺は叫んだ。
ヴィーナは身体をくねらせてわざとらしくいやーんと嘆いている。
セバスさんはほほ笑みながら言っているけど、とても真実味のある言葉に俺は思いとどまった。
しかし一方で、いや俺が怪我をしただけで?という疑問も捨てられない。

「ジルがいいよって言えば問題ないんだろ?」

ヴィーナとセバスさんが頷く。
じゃあ、ジルが屋敷に帰ってきたら聞いてみるか。




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