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「……ん」

あの後、寝てしまった俺はひんやりした空気を感じながら目を覚ました。
目を開けても真っ暗だった。
あれ?
まさか今、夜だったり?
一日を無駄に過ごした気がする。
まったくと起き上がって異変に気が付いた。
寝ていた場所が固くてふかふかのジルのベッドではない。
その場を立ち、手探りで歩くが何も触れない。
ここがジルの部屋だったらなにかしら物に触れるはずだ。
ただ手は虚しく空を切るだけ。
ゾッとしたが以前に全く同じ経験をした事を思い出す。
あれは…そう、エレと初めて会った時だ。
その時も今みたいな空間にいた。
もしかして。

「エレ…?エレいるのか!?エレ!!」

俺は大きな声を出してエレを呼んだ。
だけどいくら叫んでもエレの返答は無かった。
その代わり、突然。

「どーもどーも、こんにちわーん」

ビクリと俺の身体が飛び跳ねる。
シンっとしていた真っ暗な空間でいきなり知らない声に話しかけられ、心臓はフル回転だ。
声は周りに響いていてどこにいるのか把握できない。

「だ、誰だ?」
「初めましてー五の影のお気に入りー」

後方からはっきりと声が聞こえて振り返った。
そこにはカラフルの色の服を何枚も重ね着している男が闇にくっきりと浮き出ながら立ってた。
なんとも奇抜な衣装を着ている男は頭に尖がっている帽子を被り右目の瞼から頬に掛けて大きく 菱形に赤いペイントをしていた。
まるでその姿は道化師のようだ。
軽やかに俺の周りを回転しながら踊るそいつは笑いながら問題でーす!とクイズを出してくる。

「俺は誰でしょー!?」

さっきその質問を俺がしたんだけど。
しかも初めましてと言われたのに誰かって聞かれても分かる訳ないだろっ!
道化師は口で秒を刻む音を出している。
でもだいたいの検討なら付いている。
五の影のエレを知っていてこのお馴染みの暗闇の空間。

「影だ。お前はレヴァの七つの影の一人だ」

正解ー正解ーっ!とはしゃいだ声を出した道化師は空中でクルクル回りながら、 さっすがはエレのおっ気に入り〜と歌をうたっている。
そして目を弓なりにして笑みを深くした道化師にまた問題を出される。

「俺は何番目の影でしょー!?」
「もしもそれが当たったら俺の質問に答えてもらうからな」

パチパチと瞬きした道化師はいいよーとニッコリ笑う。
よーし、絶対に当ててやる。
エレと同じレヴァの影だ。
もしかしたらエレの行方を知っているかもしれない。
影は七つ。
エレが五の影。
う〜んと頭を悩ませる。
選択が六つと多すぎるな。
特徴とか知らないし。
しばらく考えているとまた道化師が口で秒を刻む音を出し始めた。

「あと一分」
「え!?」
「あ、もし間違ったり答えられなかったら君の命もらうから」
「ええ!?」

そんな事、聞いてないっ!!
焦る俺を見て楽しそうにあはははーっと道化師は笑う。
ヒントが欲しいと言っても歌っているだけでシカトされる。

「あと30秒」

どうしよう!
タイムリミットまでもう時間が無い!

「あと10秒。気まぐれとはいえわざわざ俺の影に招いたんだからさ、楽しませてよー」

……気まぐれ。
確かジル達が人間界に来る時に通った門を出現させた者は気まぐれで時々門を開くと エレが言っていた。

「あと5秒」

その影は……。

「3、2、1…」
「三の影!お前は三の影だ!!」

一拍置いてから道化師は身体を震わせ大きな声で笑った。
その直後、いきなり姿がパっと消えると次の瞬間には俺の目の前に現れて指先で喉を触れられた。
ゾクっとした俺は手を振り払い距離を取る。

「へぇー、当たりだよー。五の影のお気に入り」

あ、当たった。
こいつは三の影だ。
ホッと胸を撫で下ろす。

「さ、三の影。約束通り質問に答えてもらうぞ」
「いいよー。どうぞー」
「エレの居場所だ。どこにいるか知っていたら教えて欲しいんだ」
「五の影の?」

コクリと俺は頷いた。
三の影はうーんと考え込んでいる。

「知らないのか?」
「知っているよ」

さらりと言われて反応が一瞬鈍った。

「知ってんのか!?」
「そりゃーねー。俺が捕えているから」

……え?

「エレが自由に出来ないように俺がしてるの」
「なんで!?同じレヴァの影だろ!?」
「俺ね、楽しい事が大好き。そのためならなんだってするよ?」

三の影はそれまでの無邪気そうな笑顔を引っ込めニタリと狂気ある笑みをした。
思わず身体が震える。
鳥肌が立った腕に触れて……気が付いた。
お、俺マッパだ!!
そうだよ、ジルと…した後、何も着ないで寝てしまっていたんだった。
カーッと羞恥心に襲われてその場にしゃがみこんだ。
今は暗いから見えてないかもしれないけど、どうするよ自分の格好…っ。

「ん?どうしたのー?顔が真っ赤だよー?」
「……え?えっ!?な、何で顔が真っ赤だなんて分かるんだよ!」
「分かるよー見えているもん」

み、見えて…?
見えてんの!?
驚いていると、だってここは俺の影だよー?と言われる。
なる程…って納得してどうする俺!
エレに引き続き三の影にも見られるなんて…。
ガックリと項垂れている俺を見て三の影が顎に手を当て首を傾げる。

「あれー?それは趣味じゃないの?」

違うっ!と速攻で拒否をすると三の影が俺に向かって手を振る。
すると暗闇の中でも俺の姿が見えるようになりいつの間にかカラフルの道化師服が。
げげっ!!

「おそろいーおそろいー」

出来れば普通の服が良かったんだけど……。
マッパじゃないだけマシか。

「エレを解放しろよ」
「さっきも言ったけどー俺、楽しい事大好きだからダメー」
「なんで!?」
「これからとても楽しい事が起きるよ」

三の影は俺を引き寄せ耳元で囁いた。
そして耳を咥えられる。

「うわ…っ!!」
「あはははっ!!その為に五の影がちょっと邪魔なんだよね」
「エレはとても苦しそうだった!同じ影なのになんとも思わないのかよ!」
「思わないけどー」

何だって!?
ふざけんなこのヤローと睨み付けるとガっと首を掴まれた。
笑っているけど目は冷ややかな三の影はぎりぎりと手の力を込めていく。

「あー、君。うるさいよー、 黙って?」
「…っ……ぁっ……」

息がっ…!
出来な…いっ!!




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