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ななななぜ、どどどどうしたらそんな答えに行きつくんだ!
意味分かんねえよ!!
俺がいつジルをす、好きだなんて言ったよ!?

「な、何を言い出すんだよ!」
「嫉妬」
「え?」
「お前が言った」
「何をっ」
「好きとは嫉妬する事と」

え!?
俺は記憶を遡らせる。
そんな事言ったような気がしないでもないが…。
けど、けどっ!
これは確認してるだけで嫉妬なんかじゃ…っ。
ギュッとまだもやもやしている胸元を手で掴んだ。

「違うのか」
「あ…う。その…」
「聖司」
「うっ!」

俺はグッと唇を噛みしめた。
お、おかしいぞ。
そもそもジルとエゼッタお嬢様が婚約しているのかどうかを確認していたはずなのに 何で俺がジルを好きだとかいう話しになってんだ?
もしやエゼッタお嬢様との事を誤魔化そうとしているのか…!?

「ジル、エゼッタお嬢様の事まだ答えてないだろ!」
「結婚の約束か」
「そうだよ…ってなんだよその顔」

なぜかジルは嬉しそうな…多分そんな顔をしている。
…なんだよ。
そんなにエゼッタお嬢様との結婚が楽しみなのかよ。
俺のもやもやは胸から溢れて来そうなほどだ。

「どけよ!」
「……」
「離せよ!」
「……」
「俺はジルなんか好きじゃないんだからな!」
「なんだと」

ジルの声がものすごく低くなった。
これはヤバイ気がする。
おそるおそる見てみると逸らしたくなるほどのきつい視線で俺を見ている。
我慢してその視線を受け止めジルの殺気に全身が押しつぶされそうになりながらもなんとか声を出した。

「馬鹿にすんなよ…っ。他に結婚の約束をしている人がいてさ、何が伴侶だよ! ジルはエゼッタお嬢様と結婚するんだから俺なんか必要ないだろ!?」

俺の取柄なんて捕食の血だけだ。
でも元いた世界で俺を殺そうとしたくらいだからジルにとっては別にさほど重要でもないんだろう。

「約束などしていない」
「えっ?……してない?」

ジルの返答に思わず本当に?と聞き返すと、くどいとジルは眉間にしわを寄せた。
ジルが嘘を吐くとは思えないしな。
じゃあ、ただの噂話しだったのか。
なんだ。
ホッと胸を撫で下ろすと胸の中のもやもやはきれいさっぱり無くなっていた。
すっきりした胸を撫でながら無表情で見下ろしてくるジルに居心地が悪くなって しどろもどろになりながら言い訳をした。

「いや…だってさ、街の人がジルとエゼッタお嬢様が婚約者同士って言ってたんだよ。 しかも美男美女でお似合いだって。想像したら違和感なくてさ。…じゃあ、俺は何だろうって 思ったんだよ」

ジルは何も言わず俺を見下ろしている。
感情が全く読めないジルに気圧されて俺はつい余計な胸の内までベラベラ話してしまう。

「俺なんて見た通り男だし平凡な顔だし、ジルにとってプラスされるような事なんて…ないだろ? レヴァの流血だっけ?お互いの血を分け与えて俺はレヴァの力を使えるようになったけどさ…ジルは 感情なんだって。なんだそれって思うよな!」

ヘヘっと笑ったつもりだったけど顔が歪んで失敗した。
鼻がツンっとして目から水滴が漏れてくる。
ジルに見られたくなくて両腕で目元を隠すように覆った。

「もしもエゼッタお嬢様がジルの伴侶だったら…もっと素晴らしいものをジルに分け与えてたよ」

グイッと腕をジルに外された。
目元をペロっと舐められる。

「なぜその者を…」

今度は逆の目元をペロっと舐められた。

「俺が伴侶にしなければならない」
「だって…」
「伴侶は」

ジルの深紅の瞳が俺を映し出す。

「お前だろう」

きゅうんっと胸が締め付けられた。
俺はジルの目をジッと見たまま…。

「…うん」

小さく頷いた。

…なんだろう?
また胸がおかしい。
でも、もやもやとした嫌なものではない。


これは…何?




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