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「ねえねえ、どうしてマスターの機嫌が良かったのかしら?今までも聖ちゃんと出会ってから そういう時があったけど今日の朝は特に良かったわね」
「し、知らねえよ!」
「教えてくれたっていいじゃなーい」
「本当に知らないんだって!」

ジーッと俺を見たヴィーナが肩を竦めてポツリと呟いた。

「聖ちゃんって天然だから」

天然ってなんだよ。
俺は天然なんかじゃないっつーの。
拳をグッと握ると手の中にゲコ助の種がある事に気付いた。
あ、そうだ俺にはやる事があったんだった。
ゲコ助待ってろよ!
ちゃんと孵して植えて花を咲かせてみせるぜ。
うへっへっへーと笑って種を握っている拳を上に掲げるとヴィーナが心配そうな顔をした。

「聖ちゃん…大丈夫…?」
「大丈夫?って何だよ」

歩き出した俺の後をやっぱり付いて来るヴィーナ。

「ヴィーナ?」
「なあに?」
「どうしてくっついてくるの」
「聖ちゃんと一緒にいたいからじゃない」

……。
おかしい。
何か隠してるな。
俺は腰に手を当てて目を細め、ヴィーナをジーっと見た。

「ヴィーナ」
「もー、最近の聖ちゃんは勘がよくて困っちゃうわ。聖ちゃんの警護しているだけだから 気にしないで」
「警護?屋敷の中で?」
「内外の結界も補強されたけど念の為よ」

昨日の件があったからかな。
でも警護するなら俺にはキオが…。
…キオ。
まだ落ち込んでいるのかな。
全然顔見せてくれないし。
人間界に戻る予定の俺が会ってもまた傷つけてしまうかもしれないと思ってキオを探す事を 躊躇ってしまう。
どうしたらいいんだろうかと考えながら歩いていると元気良く走ってくる子供の姿が。
俺はその場で屈み両手を広げてジュリーをキャッチした。

「おにいちゃんっ!」
「ジュリー!」

俺の胸に飛び込んできてニコニコと笑うジュリーの笑顔がとてもかわいい。

「あそぼー!」
「いいよ。でもその前にこれを孵した後、植えてからね」

ジュリーにゲコ助の種を見せるとつんつんと触って首を傾げた。
どうやらこれが何か分からないようだ。

「これなぁに?」
「これはゲコ助の…リップルップの種だよ」

するとジュリーはパアッと顔を輝かせる。

「りっぷるっぷー!」
「ジュリーも一緒に植えるか?」
「うん!」
「こらこら植えるのは朝食を食べてからにしなさいよ」
「「はーい」」

ヴィーナの言葉に俺とジュリーは素直に返事をする。
ジュリーとなるべく一緒にご飯を食べたいという俺の希望にグレート・ホールで食事する事に なっていた。
その場所へジュリーと手を繋いで行くとセバスさんがすでにいて給仕に采配をする。
席につかず俺の近くで待機するヴィーナに一緒に食べないのか聞いた。

「ヴィーナは食べないの?」
「私はもう食べたからいいわよ」
「そっか。じゃあいただきまーす」

手を合わせると横の席に座っているジュリーが真似をする。

「いただきまぁーす」

俺と目が合ったジュリーはえへっと笑った。
ああ、やっぱりかわいいなぁ。
お腹一杯に食べた後、テーブルの上にあった水の入っているコップを掴んだ。
これを使ってもいいかな。
じっと見ているとセバスさんにどうされました?と聞かれる。

「セバスさん」
「何でしょうか」
「これに種を入れてもいいですか?」
「はい、良いですよ」

俺は早速、その中にゲコ助の種を入れてみた。
コップの底に種がコロンと転がる。
………。
………。
あれ?
何も反応がない。

「聖司様、種は一晩経たないと孵りませんよ」

真剣に見ている俺とジュリーにセバスさんがホッホッホと笑う。
何だ、明日まで待たないとダメなのか。

「ジュリー、植えるのは明日だな」
「あしたうえよーね」

ゲコ助は明日植える事になった。
この後、ジュリーと外で遊ぼうとしたのだがセバスさんにもヴィーナにもダメと言われる。
屋敷の前くらいならいいと思うんだけどさ。
まぁ、また迷惑掛けたらいけないので応接間でジュリーと遊んだ。
昼過ぎになるとジュリーの目が閉じ始めてきてとても眠そうに見えた。

「ジュリー眠いの?」

ジュリーは俺の服を掴んでううんと頭を振って否定するが身体が沈み始める。
倒れそうになるジュリーを慌てて抱き上げるとすぐにすうすうと寝息が聞こえて来た。

「聖ちゃん、私が運ぶわよ」
「ううん、俺が連れて行くよ」

ジュリーの部屋に行ってベットに寝かせる。
無垢な寝顔に俺はジュリーの幸せを願った。
この先ずっとジュリーが笑っていられますように。
ジュリーもニナさんのように素敵なお母さんになりますように。
…ん?
待てよ。
そうなるとジュリーはお嫁に行くわけで。
なんか複雑な気分になって来たぞ。

「聖ちゃん、難しい顔をしてどうしちゃったの?」
「ヴィーナ!」

俺はヴィーナの手をガシッと掴んだ。

「な、何?」
「ジュリーが変な男に捕まったらどうしよう!」
「急に何を言い出すの?」

困ったぞ。
ジュリーは今でもこんなにかわいいんだから大人になったらニナさんのように美人になるだろう。
そんなジュリーに男どもがきっと蟻のように群がるに違いない。
ゆ、許すまじき事だ!





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