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「ふあ〜っ」

伸びをしながら目を開けて起きた。
ベットには俺一人のようだ。
……ハッ!!
ジルは!?
みんなが危ない!
シーツを捲ると全裸だった。
身体がどこも汚れていない事に気が付く。
俺の知らない間に風呂にでも入れたのか…?
カッと顔が赤くなったがそんな事よりみんなの安否だ!
着るものを探したが何もない。
昨日俺が着ていた服はどこにいったんだ。
シーツを下半身に巻きつけて寝室のドアを開けた。
すると。

「おはようございます。聖司様」
「え、あ、おはようございます」

セバスさんがニコリと笑って目の前に立っている。
瞬きした俺はセバスさんの周りをグルグル回った。
俺の変な行動を目の当たりにしたセバスさんはさすがに戸惑った声を出す。

「せ、聖司様?」
「うん、大丈夫だな…うん」

特に怪我をしている所はなさそうだ。
一応本人にも確認しておくか。

「セバスさん、ジルに何かされませんでした?」
「何か、ですか?」
「えっと、昨日ほら…ジルが怒ってセバスさん達に…」

セバスさんは何もされてませんよとホッホッホと笑う。
あー、良かったぁ。
胸を撫で下ろしている俺にセバスさんは寝室へ戻るように促した。

「そのような格好で風邪を引かれてしまいます」
「あ…」
「お着替えをお持ち致しました」

いつものように自分で着られるという意見はかわされセバスさんは手慣れた手つきで 俺に服を着させていく。
靴ひもを結び終わったセバスさんが顔をあげると今朝のジルの様子を語った。
それによるとすこぶる機嫌が良かったらしい。

「ホントですか?」

昨日かなりの怒り具合だったのに?
今朝何か良い事でもあったんだろうか。

「何があったのかは存じませんがきっと聖司様ですね」
「は?俺ですか?」

別に何もしてないぞ…。
何かあったとしても精気をあげたというか取られたぐらいだし。
首を傾げているとセバスさんからあるものを手渡される。
コロリと俺の手の上で転がる黒いいくら。
あっ!
これは、ゲコ助の種だ!
そういえばズボンのポケットに入れっぱなしだったな。

「セバスさん、ありがとう」

礼を言うついでに種の植え方を聞いてみた。
確か植える前に孵すって言ってたよな。
説明してくれたセバスさんによると水の中に種を入れるらしい。
そうすると子が孵るからそれを土に植えると芽が出るそうだ。
想像がつかないけど、とりあえず後で水に入れてみるか。










ジルの部屋から出た俺は廊下にヴィーナがいた事に驚いた。

「おはよう。聖ちゃん」
「あ、おは…」

挨拶を途中までした俺はハッとしてセバスさん同様ヴィーナの周りをグルグル回った。

「聖ちゃん?どうしたの?」

セバスさんには何もしてなくてもヴィーナに何かしてたりして。
だって昨日、ジルの怒りはヴィーナにぶつけられたしな。
じーっとヴィーナの身体を見ているといやんっと変な声を出して来た。

「聖ちゃんのエッチー」
「え!?」

ヴィーナは胸の前で腕を交差させている。

「そんなに真剣に見られて私はずかしいっ」
「ちょっ、違う!って何言い出すんだよ!俺はジルにまた何かされてないかと思って!」

クスクスと笑い出したヴィーナに完全に遊ばれている俺はムっとしてその場を離れようとした。
しかし後ろからヴィーナがくっついてくる。

「来るなよ」
「怒らないでよー聖ちゃん」

隣に並んで歩いているヴィーナが俺の頬を突っついて来る。
えいっとその手を払って早足で歩くがそれでも俺から離れようとしない。

「ヴィーナ、俺に何か用でもあるの?」
「ううん。別にないわよ」

俺が怪訝そうな顔をしているとちょうど向こう側からレイグが歩いて来る。
思わず顔がうわっと引き攣ってしまう。
レイグは俺なんか視野に入れず通り過ぎようとした。
本当は話し掛けたくないんだけど一応ピンチなところを救ってもらったしな…。
そんなわけで俺は念の為みんなと同じように何もされてないかどうか 確認をしようとレイグを呼び止める。

「レ、レイグ」

チラリと俺を冷たい目で見るが立ち止まるという事はせずそのまま立ち去ろうとした。
俺は駆け足でレイグの前に回り込んだ。
そしてグルグルと回って確認する。
うーん、大丈夫そうだな。

「曲芸でも覚え始めたか子猿」
「なぬっ!?」

馬鹿にした言葉にカチーンっとした俺はレイグを睨んだ…が。
俺を遥かに超える凄さでレイグは睨んできた。
え、なんで?

「我が身に受けるはずの罰を貴様が…」

そこまで言ったレイグは俺を追い越し去ってしまった。
ポカンとしているとヴィーナの手が俺の頭をポンポンと叩いた。

「レイグはマスターに罰せられたかったんだけど…朝とってもご機嫌なマスターに許されちゃったのよ。 だからむくれているの」
「許してもらったのにむくれてるの?何で?」
「レイグは真面目っ子だから」

苦笑いしていたヴィーナだったが急に金色の目をキランッと光らせた。
嫌な予感。





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