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「あーっ!おにーちゃん!」
「ジュリー!」

廊下でヴィーナと一緒に歩いていたジュリーが俺を見て駆け寄ってくる。
俺はそのままジュリーを抱き上げた。

「ヴィーナと遊んでるのか?」
「うん。これからママとパパのところにいくの」

その言葉を聞いてヴィーナに視線を移した。

「屋敷の裏の少し離れた墓地に埋葬したのよ」
「ヴィーナ…俺も行っていい?」
「いいわよ」

ジュリーはヴィーナに肩車をしてもらって3人で屋敷を出た。
屋敷の裏は少し歩くと森になっていてそこを抜けると…。

「あ、泉だ!」

森に囲まれている綺麗な泉がキラキラと陽の光に当たって輝いている。
その近くの花がたくさん咲いている場所に墓地はあった。
一定間隔に離れて結構な数の墓石が置かれている。
その中に真新しい墓石が二つ。
石にはこっちの世界の言葉が刻まれていた。
…ニナさん、キットさん。
俺達は黙ったままその前に立った。
肩から下ろしてもらったジュリーはジッとお墓を見つめている。
だんだん顔が歪んで来て俺の服をぎゅっと掴んだ。

「ジュリー…」
「ジュリーはなかないもん。ないれいとだから…なかないもん…」

俺は膝を地面についてジュリーをギュッと抱きしめた。

「泣いていいよ」
「…!」
「泣いていいんだよ」
「ジュリーは、ジュリーは」
「ヴィーナには黙っててあげるから」

すぐ隣にいるヴィーナを見上げると俺達を何か懐かしそうに目を細めて見ている。
俺がヴィーナの名前を呼ぶとハッとして視線を逸らした。

「綺麗な花が咲いているわね〜」
「ほら、ヴィーナは花を見ているよ」

ジュリーは自分が見られていない事が分かると俺にしがみ付いて大声を上げて泣きだした。
しばらく背を擦ってあげていると寝息が聞こえてくる。
あれ?

「ヴィーナ、ジュリー寝ちゃったみたいだよ」
「聖ちゃん」
「ん?」

ヴィーナはハンカチで俺の顔を拭った。
どうやら自分でも気付かないうちに涙と鼻水が出ていたみたいだ。
俺は手を合わせてニナさんとキットさんが冥界で幸せな安らぎを得る事を祈った。

ジュリーを抱っこしているヴィーナの後ろ姿を見ながら屋敷まで戻って行く間に 俺はどうして二人が殺されなければならなかったのだろうと考えていた。
キットさんがレヴァの影を調べていたからなのか。
危ないから気を付けろと心配していたイースさんに二人は殺されたんだ。
残酷に笑っていたイースさんを思い出しギュッと目を瞑った。
そのせいで急に立ち止まったヴィーナの背にドンっとぶつかってしまった。

「あっ!ごめん」

ヴィーナからの反応は何もない。
不審に思った俺は様子を見ようと前へ回り込もうとしたがヴィーナの腕がそれを阻止した。

「ヴィーナ、どうしたの…?」
「ここはセルファード家の敷地内よ。許可を得たの?四大将軍」

誰かいるのか?
そっとヴィーナの背から顔を出すと前に鎧を付けた体格の良い50代位の男の魔族がいた。
まっすぐヴィーナを見るその目は眼光が鋭くその魔族を恐いと印象付ける。

「急に訪れ失礼な事は重々承知。しかしどうしてもお会いしたい方がいる」
「まずはマスターに許可を得てから出直してきてちょうだい」
「それができればしている。だがセルファード公は話しすら聞き入れてくれない」
「じゃあ、それがマスターの答えなのよ。それに私たちも従うわ」

ピリピリとした空気になっているのは間違いではない…。
男の魔族はヴィーナの腕の中にいるジュリーを見た。

「その子供が被害者の…」
「行くわよ」

ヴィーナは男の魔族を無視して俺の手を掴み歩き始める。
すれ違う時にチラッと男の魔族を見ると目が合ってしまい 反対の手を素早く掴まれる。
すかさずヴィーナが睨み付けるがそれをもろともせず俺に質問して来た。

「少年、ここにセルファード公の伴侶の方がいるだろう」
「え?」
「その方にお会いしたいのだ」

な、何で?
俺…?

「聖ちゃん、行くわよ」

グイッと手を引っ張られるが男の魔族も引っ張ってくる。
いたたたたたーーーっ!

「その手を放しなさい」
「話しを聞いてくれるなら」
「自分の立場ってものを分かっていないようね」

ちょっと、ちょっとぉっ!!
おもちゃの取り合いみたいにさらに強く左右に引っ張られた。
俺は痛さに顔を歪める。
このままだと腕が千切れるって!

「ヴィーナ…っ!」

俺の状況が分かってくれたヴィーナが咄嗟に手をパッと放す。
しかし男の魔族はその隙に俺を引き寄せ担ぎ上げた。

「聖ちゃんっ!」

筋肉隆々でがっしりとした体格なのに素早くその場から距離を取り拳を地面に思いっきり突き立てた。
するとドンっと大きな音がして地面にひびが入り土ぼこりが舞って視界を悪くする。
そして懐から出した札に短剣を突き刺し離れた木に投げた。
まさか…。
木に短剣ごと突き刺さった札が発光し始めている。
そこへ呪文を唱えながら男の魔族が走って行く。
じょ、冗談じゃない!
アレが何か知っている俺は腰に回されている腕から逃げようとするがガッチリホールドされていて 身体が外れない!

「ヴィーナぁぁぁぁ!」

助けてぇーーーー!!
ヴィーナが上に跳躍して一気に差を縮め俺に向かって手を伸ばした。
俺も手を伸ばしもう少しで届くと言う所で完全に光に包まれてしまった。




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