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いつもお前だった気がするぞ。
いや、気がするんじゃなくて絶対そうだっ。
その事実はなぜか俺にショックを与える。
そもそもジルは俺の名前を知っているのか?

「…なんだよ…なんだよ…っ」

俺はジルを睨みつけた。
意味の分からない怒りと悲しさといろんな感情が渦巻いて自分の中でうまく消化できないでいる。
拳を覆い被さっているジルの胸にぶつけ暴れると ジルは手を伸ばして俺の頬を撫でた。

「………」
「な、なんだ、よっ!ジ、ルはエゼッ、タって、エ、ゼッタってっ!俺の、俺のっ」
「泣くな」
「俺のっな、名前、ジル知って、んの、かよ…っ!」

ジルが俺の上半身を起こし抱きしめてきた。
俺はそれを拒否するようにいやいやと頭を振った。
力が強いジルから離れる事ができないままズズっと鼻を啜る。



「聖司」


…えっ?


ドクンっ!と胸が鳴った。
思わずギュッとジルの背中を掴んでしまう。
ドッドッドッドと急激に心臓の音が速まった。

「聖司」

俺の耳元ではっきりとジルが俺の名を呼んだ。
かあっと顔が一気に熱くなる。
身体に力が全く入らない。
ジルの背を掴んでいる手がフルフルと震える。
なんで、たかが名前を呼ばれたくらいでこんな…。
混乱していると顎を掴まれ上を向かせられる。
ジルの深紅の瞳と強制的に合わせられた。

「嫉妬か」

始め何を言われたか分からなかった。
ジルの言葉を頭の中で復唱する。
―――はあ!?
嫉妬だって!?
ジルはそれは見た者を魅了するような笑みをした。
つい俺も見惚れてしまう。
そして再び押し倒された。

「な、おいっ、止めろよっ!」
「聖司」
「ひあ…っ」

それは反則だぞっ!
耳元で俺の名を囁かれ思わず抵抗する力が入らなくなった。

「あ、ジルっ!」

ジルが今度こそ俺の服を脱がし始める。
う、浮気反対っ!!
だけどジルの力に敵うわけもなくあっという間に全部脱がされた。

「俺はやりたくな…あっ、んんっ」

抗議の言葉はジルの口に塞がれ結局いつもと変わりなくやられてしまったのであった。









「ん〜…」

目を擦りながら身体を起こすとジルの寝室のベットにいた。
どうやら知らない間に連れて行かれたみたいだ。
…なんか、下半身はアレだけど身体はとても軽い。
それはジルの精気が俺の中にたくさん入って来た事を証明していて…それはつまり、つまり…昨日たくさんやった訳で…。

「くそーーーっ!!なんだよっ!お、俺が嫌だって言うたびに俺の名前言いやがってぇ〜っ!!」

なぜかジルに聖司と言われると途端に抵抗できなくなってしまう。
ボスンボスンっとベットの上で暴れているとすぐ傍で声がした。

「おはようございます。聖司様」

羽毛が舞っている向こう側でセバスさんがほほ笑みながら立っている。
わわわっ!!
俺は慌ててシーツを裸の身体に巻きつけた。

「声を何回かお掛けしたのですが…」
「き、気付きませんでした…」

セバスさんがカーテンを開けていき その間に俺はバスルームに行った。
身体を洗って出るとやはりセバスさんが待ち構えていて俺に服を着させる。
その後、隣の部屋に移動すると朝食が用意されていて遠慮なく食べ始めた。

「聖司様、ジハイル様と仲直りされたようで安心しました」
「え?」

セバスさんはニコニコとしている。
仲直り…?
ハッそういえばジルのヤツ、まだ俺に謝ってないぞ!
エゼッタお嬢様の事で話しが逸れちゃったんだ。

「まだジルとは仲直りしてません。仲直りどころか…アイツ…」
「聖司様?」
「婚約者がいたんですよ!」

セバスさんは俺の告げた言葉に数回瞬きした後、ああと頷いた。
セ、セバスさん知ってたのか。
そりゃそうだよな…。
この屋敷の執事だもんな。
でもさ。

「セバスさん、知ってたなら教えてくれても良かったのに」
「教えるも何も聖司様が一番ご存じではないですか」
「知りませんでしたよ!エゼッタお嬢様が婚約者だったなんて!」

俺がジャガイモらしきものにフォークをぶっ刺してふーふーっと息を切らしているとセバスさんは キョトンとした顔で俺を見ている。

「エゼッタ様…?」
「この屋敷にこの間来たじゃないですか!」
「なぜエゼッタ様がジハイル様の婚約者なのです?」
「え?」
「ジハイル様の婚約者はエゼッタ様ではありませんよ」

違うの?
じゃあ、誰が…。
セバスさんは紅茶を入れながらニコリと笑う。

「ここにいるではありませんか」
「ここ?」

俺はキョロキョロと部屋の中を見回す。
ここには俺とセバスさんしかいないぞ。
まさかセバスさんとか…そんなバカな。

「ジハイル様の婚約者は聖司様ではありませんか」
「俺?」
「他に誰が言えるでしょう」
「でも…エゼッタお嬢様が婚約者だって言ってるみたいなんだよね」

セバスさんははっきりとそれはありえませんと否定した。
その自信はどこからくるんだろうか。
理由を聞いてみると…。

「セルファード家とノズウェル家の間にそのような話しはありませんし、第一に ジハイル様が好きな方は聖司様ですからです」
「え!?え…っと」
「見ていれば分かりますよ」

…俺には全然分からないよ。
ムウっと眉間にしわを寄せながら紅茶を飲んでいる俺を見てホッホッホとセバスさんが笑った。




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