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ソファーから立って振り向くとジルが立っている。
俺はジッと見つめた後、ガバッと頭を下げた。

「ごめんっ!!」

頭を上げると僅かに眉間に皺を寄せているジルがいる。
多分、なんで謝られたか分からないのだろう。

「俺が使っていた部屋、ジルのお母さんも使っていたんだろ?それなのにあんなボロボロにしちゃって… ごめん!!」
「あの部屋はお前のものだ」
「だけど」
「好きに使っていい」
「でも…うわっ!」

押されてソファーにボスっと座った。

「…んっ!んー!?」

そして口を塞がれる。
ちょっと待て!
セバスさんがいるんだぞと視線を動かせばいつの間にか部屋には俺とジルの二人っきりだった。
キス現場を見られなかった事にホッとする。

「ん、ふっ…」

深いキスをされながら押し倒され俺は首筋をジルに舐められた。
おいっ!
確か少し前にやったよな!?
しつこい程にやったよな!?
やってないなんて言わせないぞ!

「ジルっ!」

ジルが顔を上げて俺を見た。
俺はなんとか止めさせる方向へもっていこうと必死に考える。
そうだ、ジルにも謝らせる事があったんだ。

「ジルも謝る事があるだろ?」
「………」
「俺がいいと言ってないのに無理矢理しかもしつこく…だ、抱いた事とか。それにゲコ助…リップルップの花を燃やした事とか」
「………」

その顔はまだ謝る意味が分かってないな!

「いいかっ、まずこういう行為はお互い好きな者同士がするもんだ!それなのにジルは…っ!」
「好きならいいのか」

俺は鼻から息をフンッと出してそうだと答えた。
ジルは好きという意味を考えている。
しょうがない、ここは俺が教えてやる。

「好きというのはさその人とずっと一緒にいたいと思ったりその人の事を考えるとドキドキ したり自分だけ見てほしいと思ったり違う人といると嫉妬したり…とかかな。まあ、これは一部だけど」
「……お前が」

俺が?

「俺以外の者を見ているとその者を殺したくなる」

えっ!?

「俺以外の者がお前に触れるとその者を殺したくなる」

ちょっ!
なんて物騒なんだよ!

「好きなのか」

え、なななんで俺に聞くのっ。
それは自分で考えろよ!
そ、そうだ。
好き以前にジルには婚約者がいるじゃないか!
エゼッタお嬢様を思い出した俺は胸がもやもやとしてくる。

「どうした」
「どうしたじゃない…っておおおおい」

俺の脚にジルの硬いモノがあたる。
グイッと押し付けられた。

「好きだからか」

だだだから、なんで俺に聞くのっ。
ジルは真剣だ。
深紅の瞳に見つめられて仕方なく答える。

「も、もしもジルが…俺だけにそう…なるなら、そうなんじゃないの…?」

ジルはすごく美形だし平凡な俺しか……って事はないと思うけど。
俺よりもずっと綺麗な魔族はたくさんいるだろう。
エゼッタお嬢様とかさ。
くそ、また胸がもやもやしてきた。

「わ、なにするんだ」

ジルが俺の服の中に手を入れて来た。

「止めろよ!俺はしたいなんて言ってないぞ」
「言え」

―――っ!?
この変態危険馬鹿男めっ。
婚約者がいながらよくこんな事ができるな!

「浮気者!!俺は浮気は絶対に許さないぞ!!」
「何の事だ」
「この事だよ!ジルには婚約者がいるだろ!誤魔化したってだまされないからな!」

ジルは深紅の目を細めて俺をジッと見ている。
俺の出方を見ているのかコイツ。

「婚約者がいながら俺にこんな事をしていけないと思わないのか!」
「なぜ」

なぜだってー!?
罪悪感の欠片もないのかっ。

「お前は伴侶だ」
「何が伴侶だ!婚約者と伴侶が同時にいていいわけがないだろ!せいぜい婚約者のエゼッタお嬢様と 仲良くしろよ!」

フンッと俺は横を向いた。

「…エゼッタ」

ジルがその名を口にした途端、ギュウっと心臓が締め付けられる。
だけど次のジルのセリフでポカンと呆気に取られた。

「誰だ」

誰だって言ったかコイツは!
まだしらばっくれる気か!
男なら潔く認めろよっ。

「ノズウェル公の一人娘のエゼッタお嬢様だよ!ジルの婚約者の!リグメットで エゼッタだなんて名前を呼んでデレデレしてさ!エゼッタってさ!」

この時はただイライラムカムカしてて怒りのままに早口でジルにぶつける。
夢で見た事と現実が混ざっている事に気付かなかった俺は別のある事に突然気が付いた。


そういえば…。


コイツ、俺と出会ってから俺の名前言った事あった…か?




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