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「なぜなの!?」
「なぜ?」

イースさんは笑いながら首を傾けた。
そして剣に刺されたままピクリとも動かないキットさんに視線を移し剣の柄を握ると一気に引き抜きそのまま垂直に振り落として再び突き刺した。

「邪魔だからさ」
「貴様ぁーーーーっ!!」

ニナさんが怒りの衝動のまま床に落ちていた長剣を取りイースさんに攻撃を仕掛ける。
斬りかかった直後、キィィィィィィンっと高音が鳴り響く。
イースさんの前には見えない障壁が張られニナさんの剣を受け止めていた。

「残念だね、ニナ。君がナイレイト族だとしてもこの僕は殺せないよ」
「許さないっ絶対に!!」
「やれやれ…」

再び斬りかかるニナさんにイースさんは肩を竦めた。

「黒こげになる前にそろそろ退散しようかな」

燃えているリビングの状況を見てそう呟くと周りにいた黒い影達がずるずると縮まってイースさんの中へ吸いこまれていった。

「うーん、これもまだまだ改良の余地がありそうだ。じゃあね、ニナ」
「…うっ!!」

ニナさん腹部から背に向かって光が通過した。
その場にニナさんは崩れ落ちる。
俺はジュリーを抱えたまま叫んだ。

「ニナさん!!」

どうか…!
どうか俺にレヴァの力を使わせてくれ!
集中して赤い光を自分の中に見つけようとするがどこにも見えなかった。
力が使えない事に焦りが生じる。
早くしないとニナさんが…っ!
俺の目に血だまりをつくって倒れているニナさんが映った。
そのニナさんをイースさんが見下ろしている。

「そうそう、キットは眠ったまま何も知らずに死んでいったよ。キットには世話になったからね。 友達だったよしみで酒に睡眠薬を入れたんだ。全く起きなかっただろう?」
「お、のれぇ…ごほっ!」

早く、早くっ!
力を!!

……。
………っ。

ダメだっ!
いくら強く願ってもレヴァの力が使えなかった。
このままでは護る事が出来ない。
ジワリと視界がぼやける。
震える手でジュリーをギュウッと抱き締めた。

「ジル…、ジル、助けてよ…!」

ジルっ!
何度もジルの名を呼ぶけれど地下水路の時のように来てくれない。
絶望感に包まれている俺にイースさんが視線を移した。

「セイジくん、君にヴァルタの事教えてあげられなくて残念だよ。そのお詫びに選択肢をあげよう。 ここで僕に殺されるかい?それともこのまま焼け死ぬかい?」

お、俺…。
ここで死ぬの…?
死という言葉が頭を浸食していく。
だがその時、腕の中にいるジュリーが動いた。
ハッと我に返る。

「…もの、か…!俺だってみんなだって死ぬものか!!」

諦めてたまるか!
キッとイースさんを睨みつけた。

「じゃあ好きにするといいよ。おや?」
「…ま、て」

ニナさんがイースさんの足を掴んでいる。

「ニナ、君は僕に殺されたいらしいね。いいよ、君にも世話になったからね」

俺が制止する声を上げる間もなくニナさんの身体に再び光が通過した。

「ニナさん!!」
「もう会う事もない君達、さようなら」

イースさんがマントを翻すと姿がその場から消えた。
俺は動かなくなったニナさんの所へ急いでジュリーを抱きかかえて駆け寄った。
そっと肩に触れるとニナさんは薄っすらと目を開けた。

「セイ、ジくん…。ジュ…リーは…?」
「ここにいるよっ!無事だよ!」
「そ、う。よ、かった…ぐっごほっ!」
「ニナさんっ!!」

ニナさんの口から大量の血が吐き出される。

「キット…」

虚ろな目でキットさんの名を呼びニナさんは手を伸ばした。

「キッ、ト。私、の…愛する、あなた…」
「ニナさん」
「セ…イジ、くん。ジュリーを、お願、いね…」
「何言ってるんだ!ニナさん!死んだら許さないから!」

轟々と燃えているリビングの出入り口はすでに炎で閉ざされている。
炎の熱さにひりひりと肌が焼けていく感覚がする。
例えここから出られる道があったとしてもみんなを抱えて出て行く事は 俺には不可能だ。

「ジ、ル!お願いだよっ!来てくれよ!ジル!!…っごほ、ごほっ!」

熱気と煙にむせる。
目の前には炎が迫っている。
ふと、ミシッミシッと嫌な音が俺の耳に聞こえて来た。
な、何だ…?

ガタガタガタガタ!!!!

大きな音をたてながら天井が俺達めがけて崩れ落ちてくる。

「―――――っ!!?」

息を呑んだ瞬間、俺の腕の中から小さい声なのにそれははっきりと聞こえた。

「ママー…」

ニナさんを呼ぶジュリーの声が。
死なせるものか。
ジュリーは俺が護るんだっ!!
胸の奥底から溢れ出て来た力はみんなを光で包み込み空間を歪ませた。









気持ち悪い。
平衡感覚がおかしくなっているようで目を瞑っていてもグルグルと回っている気がする。
土の匂いがする事と頬に当たる草の感触で外に出られた事が 分かった。
そうだ、みんな…は。
頭痛がする頭を押さえながらゆっくりと目を開けた。
夜が明けたようで朝日が昇り始めている。
少し離れた所で草むらの中にみんなが倒れていた。
手を伸ばそうとしたが…ああ、ダメだ意識が遠ざかっていく。

「ニ、ナさん、キットさ…ん、ジュ、リー…」


……ジル。




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