どうする。
考えろ、俺っ!
ヴィーナ達もマダールの強さに押されて余裕はない。
俺一人でパルチェを倒せる力は持っていない。
だがこいつらから勝つか逃げないと。
今の現状だと良くて後者だな。

………。

…ジル。

何でこんな時にあいつを思い出すんだろ。
あいつがここにいたらきっと。

きっと?

「助けてくれるのか…?」

フッ。
どんよりとした気分になってしまったじゃないか。
もう退路が絶たれましたよ。
でも俺、諦め悪いからさ。
掛け声と共に光の球で攻撃する。
予想通りダメージは与えられなかったけど。

「仕方がない手足を切るか」
「えっ!?」

パルチェが俺に向かって手を翳す。
ヤバい!
俺は全速力で走るが顔面にドバン!とパルチェが張った壁に当たった。
これ透明なんだもんよ。

「いてーっ!」

だが痛がっている場合ではない。
俺は必死に叩いたりレヴァの力を使ったりしたがビクともしなかった。
その間にパルチェが俺の傍に近づいて来る。

「くそっ!!」

その時、マダールの攻撃を受けているヴィーナが俺の状況に気づいた。
キオもニケルも俺の方へ振り向く。
マダールの攻撃にキオの防御壁でその場をやっと凌いでいるヴィーナ達は何とかこっちに来ようとするも不可能だった。
この見えない壁さえなかったら…っ!
ヴィーナがキオの名を叫ぶ。
キオは頷くとグッと口元を引き締めて俺の方へ手を向けた。
お、おいキオ。
そんな事したらみんなの防御がっ。

「よそ見とは随分余裕のある事だ」

ハッと俺は振り返った。
パルチェがすぐそこに立っていた。
俺はごくりと喉を鳴らした。

バチンッ!!

大きな音がして俺の周囲がバリバリと電気が走る。
何も見えなかった…何が起きたのかさえも分からなかった。

「ご主人様!」
「キオ!」

キオがパルチェを威嚇している。
どうやらパルチェが俺に攻撃をしてキオが俺に張った防御壁のおかげで助かった様だ。
ハハハ…。

「うるさい。犬」
「キオー!!」

キオの身体が突然吹っ飛び地下水路の壁に激突してそのまま落下した。
倒れたままピクリとも動かない。
キオっ!!
ああ、ヴィーナもニケルも倒れそうな程にダメージを受けていて立っているのがやっとのように見える。
誰か!誰か!
誰か……。

「…ジル」

パルチェが動けずにいる俺に近づいた。
パルチェの手から黒い光が渦巻く。

「ジル…ジルっ!」

変だよな…俺。
何であいつの事呼んでいるんだろ。
分からない、でもジルならこの状況を何とかしてくれるんじゃないかと 俺に向かって襲いかかってくる黒い光を見ながら思ったんだ。

ああ…。
ほらやっぱり俺変だ。
ジルの幻が見える。

俺の前に立ってあのパルチェを数メートル退かした。

「…ジル」

俺が名を呼ぶと幻は俺を振り返る。
そして実物と変わらない尊大な態度で俺を見た。
ジルの手が俺の首に触れる。
その指には俺の血が付いていた。

「あいつか」
「え?」

幻ってしゃべるんだな。
俺は口を半開きにしたままポカーンと見つめた。
そんな俺に幻ジルが顔を近づけ唇が合わさる。

「んんっ!?んっ!」

何だ!?
やけにリアリティあるぞコレ!
絡んでくる舌が熱い。

「ん…ふっ」

音を立てて口がようやく離れたと思いきや首を舐められた。
パルチェに傷つけられた箇所を。
待て待てこのパターンからいくとまさか!

ぎゃーーーーー!!

案の定、次にはブツリと音がして俺はジルに噛まれた。

「あ、あっ…」

身体が熱くなってジルにしがみ付く。
ジルの肩越しから見えるパルチェは無表情のまま立ち手を微かに動かした。
俺は咄嗟にジルの名前を呼んだがその時にはジルは俺を抱えたままパルチェを見下ろしていた。
パルチェは息を切らしながら自らの血だまりの中に片膝を付いてジルを睨んでいる。
…一体何が起きたんだ?
身体をふらつかせながらパルチェは立ち上がった。

「さすがは次期総統。すばらしい力を持っている…。だが我が君には到底及ばぬ」

ジルはパルチェを一瞥しそして興味がないのか視線を逸らしてヴィーナの方へと向く。
ヴィーナの服は血で染まっていて肩で息を切らして立っていた。
マダールはジルを警戒しているのか構えている。

「許す。来い」

ジルが一言そう言うとヴィーナがよろめきながらこちらに来る。
マダールはジルの威圧に何も出来ないでいた。
俺はヴィーナの所に駆け寄りたかったがジルに抱きかかえられていて身動きが出来なかった。
ヴィーナがジルの足元に跪く。

「申し訳ありません」

ジルは無言のまま自分の手をヴィーナの前に差し出すといきなりジルの手がザックリ切れて 血が溢れだす。
どうやらジルが自ら切ったようだが俺がビックリして目を丸くしているとヴィーナはジルの手を 恭しく取りそして血を啜った。
しばらくしてヴィーナの口がジルの手から離れる。

「殺れ」

ジルが短く命令した。
ヴィーナは顔を上げ口についたジルの血を舐めとると妖艶に笑う。

「御意」

ヴィーナが目の前から消えマダールの呻きが聞こえた。
マダールの前にはヴィーナが。
そしてマダールの身体に剣が貫いていた。

「な、なんだァ…?」

マダールは自分の身に起こった事が把握しきれていないようだ。
ヴィーナは舞うように身体を回転させて鮮やかにもう一本の剣で首を刎ねる。
パシャンッと音がして首は水路に落ちた。
俺は思わずギュウッと目を瞑ってジルにしがみつく。
さっきまであんなに苦戦していたマダールをジルの血を飲んだとたんにヴィーナはいとも簡単に 倒してしまった。





ジルはヴィーナがこちら側に来ようとするのを手で制してパルチェを見た。
パルチェは舌打ちすると懐から小瓶を取り出し封を開けると一気に紅い液体を飲み干した。

「ふん、ヤツの血か」
「我が君の為、貴様は殺す!」




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