「なーんかァ、俺ムカついちゃったんだけど」

イラついているマダールは不自然に身体を揺らしながら俺達に近づいてくる。
そして数メートル離れた所で背中の鞘から剣を抜きフェンシングのような構えをする。
ピタリと静止した。

「レェーッツゥゥウ、プレェェェ〜イ!」

ゆっくりと掠れた低い声で言った直後、瞬く間もなく姿が消えた。
え?と思うと同時に俺の目の前にヴィーナの背がありマダールの剣を火花を散らしながら受け止めている。
そしてヴィーナがマダールの剣を跳ね返した。
突然の出来事に身体が固まったがそんな自分自身を叱咤して邪魔にならないように後ろへ下がる。
背中に冷たい壁が当たった。

「へェェ〜ェ、赤髪ィやるじゃァん」
「それはどうも」

ヴィーナもマダールも一歩も引かずの攻防戦を繰り広げている。
すごいぞ!ヴィーナ!
レヴァ相手に互角なんて。

「でも、そろそろ帰らないとォ、パルチェが怒るからさーァ。ヒヒヒッ!お前らさっさと皆殺しィィィ」

さっきよりも遥かに強い気がマダールから発してヴィーナに攻撃を仕掛けてきた。
剣の直接攻撃と同時に無差別に光の球が俺達に襲いかかってくる。
キオが咄嗟に防御壁を張る。
地下水路に爆音が響き渡たった。
水しぶきが上がり雨のように降ってくる。
その中でヴィーナとマダールは激しく戦っていた。
ニケルもキオもヴィーナを援護するために体制を立て直し構えた。
俺はヴィーナが簡単に負けないって信じているけど相手はレヴァだ。
しかも力のあるレヴァに違いない。
どうかヴィーナが無事勝ちますようにと拳を強く握って願った。

「レヴァがいる」

―!!?

声は後ろからした。
後ろ…?
まさか。
俺の後ろは壁だぞ!
勢いよく振り向いて声を上げそうになったが手で先に口を押さえられた。
半分身体が壁から出ている女の魔族…しかもレヴァに。
金髪のショートで冷たい雰囲気を出しているそのレヴァは黒い影を操って俺を拘束した。
俺は動く事も声を出す事も出来ずに視線だけヴィーナ達の方を見るが誰もこっちには気付いてはいない。
ズルルッと壁から出てきたレヴァは俺を冷たい双眸で見ている。

「こいつ何だ。レヴァだが…おかしい。なぜ瞳が黒なのだ」

俺に聞いているのかと思ったらそうではないらしい。
自分自身に問いかけている様だ。

「偽装しているわけでもない。黒い瞳のレヴァなど聞いた事もない。文献にも載ってはいない」

ぶつぶつと一人の世界に入っていたと思ったらマダールが放ったと思われる複数の光の球の一つが近くの壁に当たった。
ガラガラと壁が崩れる。

「うるさい」

視線は俺を見据えたまま手を振った。

「ぐあァッ!!」

マダールと思わしき声がした。
ヴィーナもニケルもキオも何が起きたか分からないようだ。
優勢だったマダールは今、右大腿に黒い光の矢が突き刺さっている。
血が流れるように出ていた。

「何しやがんだァ!!パルチェ!」
「何をすると言ったか。マダールよ」
「……っく」
「私こそ問う。お前はここで何をしている」
「み、見りゃァ分かんだろーォ?」
「ではお前を処罰する」
「はあァっ!?」

パルチェと言う人物が何者なのか…。
マダールとどのような関係なのかは分からないが俺がピンチなのは分かる。
ヴィーナ達が囚われている俺に気づき顔色を変えた。

「聖ちゃん!!」
「聖司様!」
「ご主人様ぁー!」

3人とも俺の方へ来ようとしたがパルチェが俺の口から手を離し両手を前に構えながら詠唱すると俺とヴィーナ達の間に見えない壁が出現した。
ヴィーナ達は必死にそれを攻撃したが壊す事は出来なかった。

「パルチェよォ!処罰ってどういうことだァ!?」
「我が君に賛同出来ないレヴァは即刻殺せと命じたはずだ」
「今、やってんじゃ―ァん」
「私は即刻と言った。前もお前は遊んでいたな。我が君に反する行動ととる」
「わ、分かったってェ〜。怒んなよォー」

マダールがパルチェに対して恐れを抱いているように見えた。
パルチェはマダールよりも上なのか…?
だとしたらこれは相当ヤバいんじゃ。

「では即刻それを抹殺せよ。私はこいつを調べる」

こいつって俺!?
マダールは面倒臭そうに返事をした後、足の怪我など気にもせずヴィーナ達を振り向いた。
そしてまた戦いが始まる。

「ヴィーナ!」
「お前はこっちだ」

パルチェは俺の首元を触った。
その瞬間チリッと熱くなる。
どうやら少し切られたらしい。
ツーっと血が垂れ流れた。
その血を指で取ったパルチェはそれを一舐めしプッと吐き出した。

「ふむ。伴侶を得ているな」

血で分かっちゃうの!?

「血からでは無理だ。しかたがない壊れる可能性が高いが中から調べるか」

今すっごい恐ろしい事言ったぞ!
俺を拘束していた黒い影が俺の前をゆらゆらと揺れ始めた。
その影は俺の胸の中にずるずると入っていく。

「や、止めろっ!!」

何が起きるか分からない恐怖に俺は声を上げた。
すると急に胸が苦しくなる。
気持ち悪い…。
身体の中をかき混ぜられているような感覚がする。

「う…、っく」

中を好き勝手に荒している影があれに近づいた。
俺自身も分かっていないが俺の中のレヴァの力が解放される源に。

「ん?これは何だ」

パルチェがその存在に気付いた。
それに触れるな。
誰もそれに触れるな。

「触れるなーーーー!!」
「…っ!」

拒絶して叫ぶとパルチェの影が俺の中から弾き飛ばされた。
それと同時に拘束もなくなる。
俺は肩で息を吐き対峙した。

「ほう。瞳が紅く変化した。やはり先程の不可思議なものに秘密があるのか」

なるほどと頷き手を伸ばしてきた。
俺はそれを思わず払った。
パルチェはその払われた手を見た後、俺の方へとゆっくり視線を移す。

「抵抗すれば痛い目にあうぞ」

抵抗しなくてもあってるっつーの!




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