「どわーっ!」

ドシーンと思いっきり下に落ちお尻を打ちつけた。
ううう…。
最初に鏡をくぐったヴィーナが手を引っ張って立たせてくれる。
へっぴり腰で立ちお尻を擦っていると後からキオとニケルが鏡から抜け出してきた。
二人とも華麗に着地する。
俺だけお尻で着地かよ。

「どうしたのですか?ご主人様ー」
「な、何でもないよ、うん」

ジュッシェマデルの闇市の移転鏡をくぐるとそこは真っ暗な空間だった。
かろうじて抜け出た移転鏡が光輝いているので辺りが見える。
さっきいたような場所とそんなに変わらない。

「あ、光がっ」

移転鏡から輝く光が徐々に弱くなり俺達の周囲が暗闇に覆われてくる。
そして完全に暗闇になった。

「わーん、全然見えませーん」
「キオどこだー?」
「ここですぅ」

手を伸ばして辺りを探るともにゅっとした柔らかい弾力のあるものを掴んだ。
んん?
手を動かせばもにゅっもにゅっとやはり触り心地の良い感触が伝わってくる。

「何だこれ?」
「…ぁ、聖司様いけません」
「えっ!?ど、どわぁーーーーーーっ!!ごめん!!」

ニケルの困った声が聞こえてきて慌てて手を離した。
まさか。
俺が掴んでたのって。
かかかかーぁと顔が熱くなる。
ひっこめた手にまた違うものが当たった。
今度は何だ?
固くもなく柔らかくもないものだ。

「聖ちゃんたら、大胆ねっ」
「どぎゃーーーーっ!!」

ヴィーナが色気のある声を出した。
何だ何だ?
今度は何を触ったんだ俺!?
パニックになっていると急に明るくなって辺りが見えるようになった。
俺の手に当たったのはヴィーナの手だった。
ヴィーナはケラケラ笑っている。
むうっと頬を膨らませて睨んだ。
ヴィーナは両手で俺の頬を包む様に押しつぶした。
ぶしゅーっとタコ口から空気が漏れていく。
そしてまた笑われた。

「ヴィーナ、出口がないようですが」

石の壁を探っているニケルの手から光の玉が浮き上がている。
そのおかげで明るい。

「こっちよ」

特に何もない壁に手を置き押す。
するとガコンっとその場所が窪んだ。
そしてゴゴゴと音が鳴り響きヴィーナのすぐ近くの壁が一人通れるくらいの幅で開いた。
すげー隠し扉だ!
そこを出ると地下水路に出た。
壁には一定間隔で備え付けられているランプのような明かりがあり十分明るかった。
俺達はヴィーナを先頭に進んでいく。

「ここって、ララ…何だっけ?」
「ラフィータよ」
「それってどんな場所?」
「ラフィータは場所じゃなくて城の名前なのよ。ラフィータ城は総統が所有する3つの城の内の一つ なの」
「えっ!」

総統って一番偉い魔族だよな。
勝手に来ていいのか?
そう聞くと軽く大丈夫と言われた。
ラフィータ城は首都から離れた場所にあり何代か前の総統が療養するために作らせた城らしい。
なので総統はここには住んではいないそうだ。
過去にも何回かここの移転鏡を使った事があるらしく地上に出る道も把握しているという。

「ばれなきゃいいのよ」
「そういう問題なのか…。でも誰でも鏡をくぐればここに来れるんでしょ?あいつらとか大丈夫なの?」

俺はジルを狙っているレヴァを思い出した。

「ここを乗っ取ったって何の意味もないわよ。重要なものないんだもの。でも逆にそうしてくれた方が 首都にいる総統があっさり鎮圧出来ていいわね」

ウルドバントン達は巧妙に姿を隠しているらしい。
そのおかげでなかなか捕まえる事が出来ないみたいだ。

「私たちが人間界に行っている間にこっちがどのような状況になっているのかが分からないし」
「全部解決していたら良いよね」
「ホントよね〜」

笑いながら和やかな雰囲気で歩いている俺達の耳に突然、好意的ではない声が地下水路に響いた。

「あれれ〜ェ?そこにいるのは負け犬の手下達じゃァーン?」

ヴィーナは俺の腕を掴み己の背後に隠した。
ニケルもキオも構えながら辺りを窺う。
しかし相手の姿が見えない。

「あの時ぜ〜んぶ殺ったって話しだったのによォ。何でここにいんだァ?」

もしかしてこいつは…。
水路の陰から姿を現したそいつはオレンジ色の短髪の若い男でそして目は紅かった。
レヴァだ。
俺はジル達を殺そうとした奴らの一人に初めて対面した。

「ま、いっかァ。ここで会ったのがお前らの運の尽きィ〜」

ニターッと大きい口が左右に口角を上げる。

「ちなみに俺、俺はァ、マダールっつーんだけどさー覚えなくてもいいぜィ。お前らここで 死んじゃうもんねー」

頭をぐるりと回したマダールは両腕を軽く広げると前へ交差するように振った。
何かが襲いかかってくるような威圧感がしたと思った直後、ドォーンッという音がして 爆風が起こった。
パリリっと音がする。
いつの間にか俺達の周りに薄い膜が張られている。
ニケルの防御壁だった。

「ふーん。じゃーあ、これはどーっかなーァ?」

無邪気な子供のように笑ったマダールは掛け声と共に次々と攻撃をしてくる。
連続の攻撃に耐えられず防御壁に亀裂が走り出した。

「っく、なんて力の強い…。申し訳ありません!破られますっ!」

ニケルが叫びパァンという音がする。
薄いガラスのような破片がキラキラ輝きながら下に舞い落ちた。
そして正面から大きな光が俺たちに向かって襲いかかってくる。
ただ立ち尽くしている俺をヴィーナが抱き上げ避けようと踏み込んだ瞬間、それを予想していたかの 様に左右からもカーブを描きながら光の球が襲いかかってきた。
後ろは壁で逃げ場がないっ。
ヴィーナは舌打ちし俺を庇う様に覆いかぶさった。
ニケルは衝撃を出来るだけ和らげるため先程と同じ防御壁を張るが三つの大きい光はそれを 押し破った。

―ダメだっ!





「させませんっ!!」

キオが叫んだ。
その直後、耳に痛い程の大きな爆音が響く。
ヴィーナの腕の中でギュッと瞑っていた俺は身体に衝撃が来なかったのでこわごわとゆっくり目を開けた。
すると俺達の回りに新たな防御壁が光り輝いていた。

「…キオ?」
「ご主人様!防御と治癒は任せて下さい!」

キオはシッポと耳をピンと立てマダールを見据えて言い放った。
キオ、お前カッコいいぞ!!

「じゃあ、私は攻撃かしらね〜。ニケルは補助を頼むわ」

ウフフ、とヴィーナが剣を抜いた。

「分かりました」

頷き、ニケルが構える。




main next