大草原で俺が倒れた後、ヴィーナとニケルは俺に命の別状はないと分かり安堵したが早く大草原を 抜けなければと気を引き締めた。
しかし二人共歩くのもやっとの状態でニケルが俺を担ぐのも無理があった。
というかニケルに運ばれてたら会わせる顔がないんだけど。

そんな中、ガサリと草が音を立てる。
瞬時に警戒をした二人だがそこから出てきたのは白い犬だったそうだ。
しかも俺達の状態を見て瞬きをすると空に向かって遠吠えをした。
すると不思議な事にいつの間にか疲労が消え怪我も癒えていた。
そして人型に戻ったヴィーナに俺は抱えられ半日かけて大草原を抜けヌルガルという町に着き 休息を取るために宿を取った。
なぜだか白い犬はヴィーナ達に近づかず離れてくっついて来たようだ。

俺が目を覚ますのにさらに一日を要した。
そんなに寝てたのか。
その間、宿の周りをうろついている犬を見ていたヴィーナは害はないと判断して部屋に連れて来た。
話しを聞こうとしたが何も話さず俺をジッと見ているだけだったのでとりあえず放って置いたらしい。

俺はキオと名乗った白い犬を改めて見た。
何やら不満げな顔をしている。

「僕、犬じゃないです。ヴァルタ族です」
「ヴァルタ?あんたヴァルタなの?」

ヴィーナが訝しげに鼻を動かしながらキオに近寄る。
キオは耳としっぽを弱々しく垂らした。

「ヴィーナ知ってるの?」
「ヴァルタは私たちナイレイト族と同じ戦闘一族よ。レヴァに仕える事を使命にしていて闇に溶け込む 夜の色をしているはずだけど…あんたどう見ても白よね」
「あ、それは…その、僕が…出来そこないだから」

消え入る声で俯いたキオだがバッと空色の瞳を潤ませしかしどことなく期待と希望の視線を俺に 向けてきた。

あれ?俺に?

「レヴァ様!レヴァ様はもう他のヴァルタがお仕えしているのでしょうか!?」

は?レヴァ様?俺の事言ってんのか?

「いや、え?仕えるって誰もそんなのいないけど…」
「本当ですか!?」

おお、瞳が輝いて喜ばれているよ。
だけど話しが見えん。

「ぜひ僕をレヴァ様に仕えさせて下さい!」
「ん?」
「僕、攻撃は苦手だけど防御と治癒は得意なんです!」
「は?」

右に左に頭を傾ける俺にヴィーナが説明してくれる。

「聖ちゃん、力ある魔族はね誰かしら従属しているの。力によって従属出来る数や強さも変わって くるんだけどね。従属してもらう方も主人が力が強ければ強いほどステータスが上がるわけよ。 この子の場合は仕えるのが誰でも良いわけじゃなくてレヴァと決まっているって事」
「だから俺なの?」
「レヴァだもんね」
「それ認めたくないー」
「諦めなさい。そのおかげで助かったんだから」

まあ、確かに。
助かった事は良かったと思うよ。
あの力がなかったら今こうしてここにいないもんな。
そう考えるとちょっと震えが来る。
そうだよな、レヴァだって認めるのも必要だよな。
興奮したキオが両前足をベットの上にバフッと乗せて来た。
結構しっかりとした足で爪も鋭い。

「あの時はすごかったですー。レヴァ様のあの禍々しいオーラ、深紅の光を纏って一瞬で魔物を消し去る 容赦のない攻撃、僕は感動で胸が高鳴りました」

ま、禍々しい!?
容赦のない…。
うー認めないっ、やっぱりレヴァだって認めない!
ブンブン頭を振った。
その時いい香りが部屋の中に入ってくる。
ニケルがトレイに乗せた食べ物を持ってきてくれた。
思い出したかのようにお腹がグウと鳴った。

「お待たせしました。口に合うと良いのですが」
「ありがとう!何でも食べるよ」

ヴィーナが足の上からどいて俺はニケルからトレイを受け取る。
どうやら肉とパンとスープの様だ。
あまり食べ物は変わらないんだな。
肉は鶏肉みたいだしパンはフランスパンだしスープはコンソメ味だし。
うん、うまい。
ガツガツと食べる俺を見てニケルがほほ笑む。

「これはキドロの肉とモニエのスープですよ」
「あらやだキドロなのこれ」

ヴィーナが嫌そうに顔を顰める。
な、何かあるのコレ…。
口に入れようとしたまま固まってしまった。

「キドロは栄養がある肉なのですが少し癖があるのです。なので苦手な人が多いですけどこれは 香辛料で調理してますから普通に食べられると思いますよ」
「何だ、ヴィーナ驚かせないでよ」

ホッとしてパクリと口に入れる。
そしてフォークに刺してヴィーナに差し出した。

「食べてみなよ」
「私はいいわ」
「食わず嫌いはいけないよ。ほら」
「聖ちゃんの分でしょ」
「あ、ヴィーナ」

ベットから飛び降りて窓際のテーブルの上に逃げてしまった。
ヴィーナにも苦手なモノがあるんだなと変な関心をしてまた肉をパクリと口に入れた。
全部食べてパンッと手を合わせてごちそう様。

「みんなはご飯食べたの?」
「ええ、先に頂きましたよ」
「そっか。キオも食べたのか?」
「あ、はい食べました。このお姉さんがくれました」

シッポをパタパタ振ってニケルに視線を向けた。

「あら、キオと言うのね」
「はい。レヴァ様に仕えさせて頂く事になりました」
「ちょっと、まだ何も言ってないけど!?」
「レヴァ様、僕がんばります!」
「だからー良いって言ってないからっ」

ニケルはあらまあと言った後ヴィーナを見た。
日のあたるテーブルの上でヴィーナは大きくあくびをしている。

「ヴィーナ、良いのですか?」
「良いんじゃないの?その子ヴァルタだしレヴァへの忠誠は折り紙付きよ。治癒の能力の高さは 身をもって体験したし聖ちゃんにも従僕は必要でしょ」
「しかしセルファード公が何て言うか」
「その時はヴァルタのあの人に任せるわ」

何か本人外野で従属決定みたいな会話が聞こえて来ますが。
そして何故ジルの名が出てくるんだ。
キオは澄んだ空色の瞳で見つめてくるし。
ああ、そんなにシッポ振っちゃって。

「はあ。分かったよ。好きにすれば」
「レヴァ様!」
「ただしっ俺の名前は高野聖司でレヴァって呼ぶなよ」
「はいっご主人様」
「だーかーらぁ」

俺はカクリと力なく項垂れた。




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