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どうしようか…。
俺は今ジルの部屋の前にいる。
中にジルがいるのはセバスさんに聞いて分かっているんだけど。
ジルにあの事を確かめに来たけどいざ来てみるとどうしていいものだか分からなくてこうやって 入れずに部屋の前をウロウロとしている俺。
何て話しを切り出せばいいんだろう。
「ジルさー俺の事どう思ってんの?」いや、これは伴侶だろうという答えが返ってきそうで却下だな。
やっぱりストレートに「俺の事好きなの?」とか…?
うーわー!鼻であしらわれたらどうすんだよ。
その場でしゃがみ込み頭を抱えているとガチャリと目の前のドアが開いた。

「何をしている」

冷たい視線と冷たい声で蹲っている俺を見下ろしてくるのは俺の大の苦手なレイグだ。
やっぱりこいつもいたのか。

「…別に」

俺は今聞くべきではないというかレイグがいる時点で聞くのは不可能と判断して踵を返した。
しかし襟首を掴まれて引っ張り上げられたので反射的につま先立ちになった。

「な、何っ」

俺何もしてないけどっ。
苦しいから離せっての。
しかめっ面のレイグは俺を睨み付ける。
せっかくの綺麗な顔なのにもう少しにこやかに出来ないのかよ。

「マスターが呼んでいる。入れ」

そのまま連れて行かれ俺はつま先立ちで移動を余儀なくされた。
ソファーに座っているジルが俺をジッと見ている。
何だよ、何が言いたいんだよ。

「何?」

レイグにまだ襟首を掴まれた間抜けな格好のままちょっと素っ気ない言い方をしてジルを見た。

「用があったのはお前だろう」

早く言えという無言の圧力が今俺に圧しかかっております。
だからお前は場の空気を読めよ。
レイグがいる所で「ジルさ俺のこと好きなの?」とか言えるわけがないだろっ。
口にしたとたんに消されるわ!
このバカちんが!

「あるはあるんだけど後にする」
「今言え」
「後で!」

拒否する俺の背後から殺気が感じられる。
振り向かなくともそれがレイグのモノだって事は分かっている。

「小僧、マスターの命令が聞けないのか」

お前がいるから言えねえんだよー。
どうやってこの場を切り抜けたらいいんだ。

「えっと、ジ、ジルにさ、聞きたい事があって来たんだけど…」
「何だ」
「後で二人っきりになったら言うよ」
「レイグ」

ジルがレイグの名を呼び一瞬掴まれている力が強くなったけどすぐに離されて楽になった。
踵が地に着きやっとつま先立ちから解放だぜ。
ホッとして部屋から出ようとしたら、あらら?俺の腕をジルが掴んでいる。
そしてレイグが部屋から出て行った。
え?
ちょっと待て。
出て行くのはレイグではなくて俺なんですが。
困惑している俺をジルは奥の部屋へと引っ張る。

「おい、どこに行くんだよ。そっちは寝室だろ?」

俺の問いかけには無視してジルは俺を引きずったまま寝室に入った。
ジルはベットに俺を押し倒した。
スプリングにバウンドしながら俺は慌てて起き上がろうとするがすぐ目の前にはジルが接近していて ヘッドボードの方に追い詰められた。

「何を聞きに来た」

その言葉に我に返った。
もしかしてレイグが出て行ったのは。

「なあ、俺が二人っきりになったら言うって言ったから今こんな状況になってるわけ?」
「……」

そうですか、そうなんですね…。
また俺、レイグの恨みを買ったような気がするよ!

「言え」

ジルの深紅の瞳は俺をまっすぐに捕えている。
俺は「あ」とか「う」とかしか言えず言葉に詰まった。
自分のゴクッと唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた気がした。
よ、良し、チャンスがある時に聞かないと。
がんばれ、俺。

「ジルさ、俺にさ…。そのキスとか…色々してくるじゃん」

おおお、自分で言ってて恥ずかしいぃ。
ジルは相変わらずの無表情で俺の言う事を聞いている。

「精気を取るからって言われたらそれまでなんだけど。みんなが変な事言い出してきてさ、それを 確認したくて」

あともう一息だ!

「ジルは俺の事、す、す………なの?」
「はっきり言え」
「だからー!す、すすー」

あーもー!
何で俺がこんな恥ずかしい思いをしてんだ!
俺はジルを思いっきりキッと睨んだ。

「え…ちょっと、何だよ」

ジルの顔が俺の顔の近くまで寄ってくる。
後ろに逃げようとするがすでに追い詰められている為、後頭部がゴンっと壁にぶつかった。
そのまま口が塞がれる。
当たり前のようにジルの舌が俺の咥内に入り込んで来て動くたびに身体が熱くなっていく。

「…ふっ、ん…ぅ」

いつの間にかベットの上に引き倒されてジルが覆い被さっている。

「いつも」

ぼんやりとしながら息を吐く俺にジルが言葉を発した。
…が、何が「いつも」なのかがさっぱり分からない。
ジッと綺麗な深紅の瞳が俺を直視して答えを待っているみたいだが分からねーっつうの。

「え…?何?」
「お前はいつも」

言葉増えたけど分からないー!
どうせ増やすなら「いつも」の後にしてくれ。

「俺がいつも、何…?」

しょうがないのでジルに先を促した。
ジルは俺の頬に手を当て撫でながらゆっくりと口を開いた。

「お前はいつも俺を煽るくせにどうして逃げる」

ぶーーーーーーーーーっ!!!
あ、煽る!?
そんな事した記憶はこれっぽっちもありませんが。
驚き固まっている俺はハッと我に返りジルに文句を言った。

「俺はジルを煽った事なんて一度もないっ!」

ジルは目を細める。
何だよその咎めるような目線はさ。

「そのような事を」

俺はジルの何かのスイッチを押してしまったようだ。




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