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「セバスさん、ジルはどこにいるんですか?」
「ジハイル様はルベーラ城に」
「ルベーラ城?」
「はい、総統閣下がおられる所です」

おおおお、魔王の城!
スゲー。
あ、そういえば。

「えっと、ヴィーナ達には会いました?」

昨日のジルによる突然の転移で別れたっきりだ。
キオの様子も気になるし。
レ、レイグには会いたくないけど。
エド達はどうしているんだろうか。

「いえ、ヴィーナ殿達はまだこちらへは戻られてはおりません。ルベーラ城にいるとジハイル様から 聞いております」

ヴィーナ達がその城に?
もしかして地下水路から転移した先はもしかして、城の中だったのか?
俺、魔王の城の中にいたんだ。
おおお!ちょっと感動。
俺が感動に浸っているとセバスさんがドアの方に目を向け柔和な笑みをした。

「聖司様、ヴィーナ殿達が帰ってこられたようですよ」
「えっ!本当?」

セバスさんがコクリと頷くのを見て俺は席を立って廊下に出た。
が、広い廊下を果たしてどっちの方向に進んでいいのか分からずキョロキョロしていると いつの間にか俺の後ろにセバスさんが立っていてご案内しますと言われた。
付いて行くままに後ろを歩いて行くと大きな階段が見え手摺りから下を見ると広いホールになっていた。
そこにこの屋敷の使用人たちに囲まれているヴィーナとレイグの姿があった。

「ヴィーナ!」

俺は一気に階段を駆け下りる。
使用人達が一歩下がり傍に来た俺の肩にヴィーナの手が置かれる。

「聖ちゃん良く休めた?」
「…まぁ、うん」

ジルにあんな事そんな事されて良くは休めてはいないので言葉が濁る。
ヴィーナはうふふ、と意味深な笑い方をして目を細めた。
ぐぬっ。
何が言いたい。
ヴィーナから目線を外すとレイグがセバスさんとなにやら話している。
ぽけーっとそれを見ていると肩から頭の上にヴィーナの手が乗っかる。

「マスターはもう少ししたら帰ってくると思うから我慢してね」
「…いや、我慢するって意味が…」

分かりませんが。
俺が寂しがっているように聞こえるじゃん。
むぅっとした顔を見てヴィーナが笑い俺の頭をグリグリと撫でた。
その手を掴んでどかした後、ホールを見渡すがもう一人の姿が見当たらない。

「なぁキオは?」
「キオは外よ」
「外?何で?」
「許可が出てないからよ」
「許可って?何の」
「マスターのよ。この屋敷の主はマスターだもの」

って事はジルが許可しない限り入れないって事?
俺は外に出るためでかい両開きのドアまで駆け寄って取っ手を掴もうと手を伸ばそうとしたが セバスさんに先に掴まれる。
うおっ、いつの間に。
セバスさんがドアを開けてくれて俺はそっと外に出た。
外は天気が良く青空が広がり手入れされている広い庭には綺麗な花が咲いている。
そしてその庭の中心を通る道がまっすぐに続いているが先が見えなかった。
あまりの敷地の広さにぽかんと口が開く。
ふと気配を感じて横を向くと太い柱から白い尻尾が見えた。

「キオ?」

俺が呼ぶとシッポがピクッと動く。
そして柱から白い耳が片方ピョコッと出た。

「キオおいで」

再び呼ぶとおずおずと不安げな瞳をしたキオが顔を出す。
ニッコリとほほ笑めばキオが泣きそうになりながら俺の傍まで走り寄って来た。

「ご主人様ぁ〜」

俺はしゃがんでキオと同じ目線にする。

「怪我は大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です」
「そっか、良かった。とりあえず中に…」

入れてもいいよね?と視線を後ろにいるセバスさんに向けた。
セバスさんはキオをしげしげと見ている。

「その者は聖司様のヴァルタなのですね」
「あ、はい。そうですけど」
「白のヴァルタとは珍しい」

セバスさんの言葉にキオの身体がビクリと揺れる。
そう言えばヴァルタって普通は黒なんだっけ?
別に黒でも白でも気にしないけど…目の前にいるキオの耳とシッポのたれ具合からしてどうやら キオはその事に拘っているらしい。

「聖司様に仕えるヴァルタなら何も問題ありませんよ。どうぞ中へ」
「いいの?」
「はい、聖司様は我が主の伴侶。その方の従属している者が屋敷に入る事が出来ないと 言う事はございませんがやはりこの屋敷が主の持ち物ならば一言断りを入れないといけません。 しかし主不在時のこの屋敷の管理は私に任されております」

だから大丈夫なのですよとセバスさんはほほ笑んだ。
あのジルに任されているセバスさんってすごいな。
ほぉーっと感心しているとキオがセバスさんをジッと見つめていた。

「あの、もしかして貴方もヴァルタですか?」
「ホッホッホ。そうですよ」

なぬっ!
セバスさんがヴァルタ?
って事は普通に考えてセバスさんはジルに仕えているヴァルタって事だよな。
つまりセバスさんも犬みたいな姿になるんだ。
見てみたいなと思っているとザワッと周りの空気が重くなり冷たく変化する。
俺には自然にそれがジルのモノだと分かったのだ。
振り向けばジルがそこにいた。
セバスさんはジルに向かって礼を取る。

「お帰りなさいませ」

そして玄関のドアを開けた。
ジルが俺の肩を引きよせ屋敷の中に入ろうとしたのでキオの手を掴んで引っ張った。
その途端ジルの視線がキオに向けられる。
キオはジルの絶対零度の視線を受け止めきれず凍ったように固まった。

「おいっ何でキオを睨むんだよ」
「……」

だから今度は俺を睨むなって!
コイツの行動は意味分からん。
しばらく睨み合いをしているとホッホッホと笑い声が聞こえてくる。

「仲がよろしい事で」
「はぁ〜〜〜?」

コレのどこが仲が良く見えるんですか、セバスさん!

「ジハイル様。そのヴァルタは聖司様にとって必要となりましょう。ヴァルタのレヴァの主人に 対する忠誠心は私が言うのもなんでございますが良くご存じのはず。特に今、反総統の一味が 捕えられていない状況下では聖司様を守護する者が多くいる事が大事でございますよ」

セバスさんの言葉に納得したんだかどうだかジルはキオを一瞥してさっさと一人で屋敷の中に 入ってしまった。
キオはかわいそうなくらい青褪めて震えている。
そりゃ…一瞥の中に殺気も含まれていれば俺だってそうなるよきっと。
慰めるつもりでキオの背中を優しくぽんぽんと叩いてやった。




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