「何で…俺とお前その、一緒に寝てんだ?」
「お前は俺の伴侶だろう?」

深紅の瞳に見つめられた。

「伴侶だから?」
「そうだ」
「何で伴侶だから一緒に寝なきゃいけないんだよ」
「伴侶は共にいるもの」

おおっなるほどね!
なーんて、納得するわけねーだろ!
普通に俺を殺そうとしてたじゃねぇかっ!!
口を声もなく開閉させている俺にジルはさらに近づき首に顔を埋めた。
艶やかな黒髪が俺の頬をくすぐる。
最初のトラウマがあってどうも体がビクリと震えてしまう。
それがわっかているのかどうだかジルはいきなり噛まずに舌を這わした。
しかも一回ではなく何度もいかがわしい音付きで。
最近感じるゾワゾワっとした感覚が起こり思わずジルの腕を強く掴んでしまった。

「舐めるな!吸えって!」
「望み通りに」
「…わ、わっ」

ジルは俺の首筋を唇で吸い上げた。
場所をずらしながら何か所も。
そのたびに俺の身体はビクビクと反応してしまう。
このー変態危険馬鹿男がっ!
思わず掴んでいる腕に爪を立てて睨みつけた。

「血を吸う気がないんなら離れろよ」

フッと底意地悪く笑みを浮かべたジルは俺を引き寄せて―。

「!!!!!??」

ジルの唇が俺の唇に触れる。
そのまま俺の悲鳴ごと深く塞がれ口内を十分に堪能したジルはそのまま流れるように唇を首筋に 移動させてツプリと噛んだ。
あんなに苦痛でしかなかった吸血行為も今は全然苦しくなくむしろ困ったことなっている。

「んっ…く」

吸血されると身体が熱くなり変な声が出てしまうのだ。
俺は口に手を当てて声が漏らさないようにするのに毎回必死である。
しかしこの変態危険馬鹿男はこともあろうか俺の手を口から引き剥がすのだ。
そしてわざとゆっくり吸い上げる。

「あっ、あぁっ。ジ、ジルっ」

早く吸いやがれ!と暴言を吐こうとしたが上ずった声しか出ない。
下唇を噛んで耐えているといつの間にか吸い終わったジルが見下ろしている。
終わったのかとほっと安堵しているのも束の間、ペロリと噛んでいた下唇を舐められた。

「な!な!な!」
「噛むな」
「舐めるな!」
「血が出ている」

手で触って見れば血が付いた。
ホントだ…じゃあねぇ!

「お前が手を引き剥がさなきゃいいんだろ」
「なぜ」
「なぜって、へ、変な声出るし」

小声でごにょっと訴える。

「抑える必要はない」
「男がこんな声出したってキモイだけだろ!」

自分でも鳥肌が立つってもんだ。
俺は自分の役目は終わったと逃げるようにジルの部屋をダッシュで出て行った。





そのまま自分専用に割り振られた部屋に戻ってソファーに寝転んだ。
外はすでに日が落ち暗くなっている。

「はぁー早く門が見つかんないかなー」

最初俺も見つけようと意気込んでいたのに却下されこの屋敷の中に閉じ込められてたままだ。
先日のエド達のいざこざで半壊した屋敷は結界が張られ外部からは何事もなく見えているらしい。
その上、内部からも外部からも出入りが難しくなっている。
そのおかけで俺はこっそり外に出られないのだ。
ちらりと窓をみれば月が眩く光輝いている。
ジルと出会った時のように赤い満月ではなく満月よりは少し欠けている青白い月だ。

「月影の門か…」

吸血された影響からか睡魔に襲われてとろとろと寝入ってしまった。

―ふと、声が聞こえた気がして眠りから覚めた。
目をゆっくり開けると部屋の中は真っ暗だった。
あれ?電気つけっぱなしだったんだけど。
とりあえず手探りでスイッチのある所まで行こうとしたが何かがおかしい事に気づいた。
何もないのだ。
ソファーもテーブルも…何も。
俺の手や足に触れることはなく暗闇の中でむなしく空を切る。
ちょっと待てよ、誰のいたずらだコレ。

「おーい!」

とりあえず叫んでみるが反応なし。
しばらく経っても音沙汰なし。
マジですか。
内心冷汗が流れる。
俺あんまり暗闇とか好きじゃないんだけどな!
思わず乾いた笑いをしてしまった。

「何を望む」
「――!!!!?」

あまりの驚きに声も出ず。
いきなり後ろから声がして距離を取りつつ振り返る。
そこには黒衣を纏った10歳くらいの女の子がいた。
きっと将来は美女になるだろうと確信させられる程容貌は整っていた。
肩ぐらいまで伸びている黒髪に目は深紅だった。
…深紅の瞳。

「もしかして君はレヴァ?」
「妾はレヴァではない。レヴァの一部だ」
「一部?」
「お前は何を望む」

大人びた目が俺を捕え再び問う。

「とりあえずここから出たいなー」
「その願いはしばらくすれば叶えられる。他に何を望む」
「他?」

急に言われてもなー。
しかも子供相手だし。
何もないなんて言ったら拗ねちゃいそうだな。

「月影の門って知ってる?」

とりあえずだめもとで質問してみた。

「知っている」

ほら、知っている…。

「え!?知ってんの!?」
「知っている」

おおお!救世主が目の前に!

「どこにあるの?」
「それがお前の望みか」
「うん!」
「そうか」

女の子は目を閉じまた目を開く。
あれ?
俺、この子の名前知らないぞ。
何てことだ、救世主なのに!
女の子が口を開こうとした瞬間、俺は質問してしまった。
あ、ごめん、遮っちゃって。

「君の名前、何ていうの?あ、俺は聖司、高野聖司」
「名…?」

急に言われて驚いたのか大きい目をパチクリさせている。
そうして見ると年相応に見えるな。

「妾は…エレ」
「そっかーエレか!」

うんうんと俺は頷きながら微笑んだ。
エレはそんな俺をジッと見ている。
あまりに長いこと見つめられてしまって俺の顔見たって普通だし面白くもないんだけどなーと 思っていたらエレがボソッと呟いた。

「いつ振りだろうか」
「ん?」
「名を呼ばれたのは」

エレの瞳は遠い過去を見ているようだった。
何だか俺はとても切なくなってきてわざと大声を出した。

「俺がいつでも呼んでやるからな!エレ!」
「聖司…」
「こんなところに何でいるんだ?俺と一緒にいこうぜ。そうしたらエレの名前を呼んでくれる人達…じゃなかった魔族達がいるから」

しかしエレはゆっくり頭を振った。

「妾はここを離れるわけにはいかぬ」
「エレ?」
「時間が来たようだ」
「え?」

エレの姿が徐々に見えなくなっていく。

「エレ!」

エレはフッと麗しく笑った。

「月の出る夜に妾の名を呼ぶが良い」

その言葉を最後にエレの姿は見えなった。
暗闇だった空間は次第に明るくなり眩しさに目を瞑った。




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