精気を取られる苦しみを味わうが良い!
俺は噛み付いている歯に力を入れた。
精気をどうやって取ればいいか分らなかったが無我夢中だったのだ。
口の中に血が流れ入ってくる。
しかし想像していた血独特の嫌悪する味ではなかった。
ホワッとする芳しい香りがして甘いとも違う何とも言えない新しい味覚が口の中に広がった。
何だコレ、うまいっ、うま過ぎ!
もっと味わいたくて精気を吸い上げる。
ヤバイ止まんねえ。
身体に精気が回って高揚し何とも心地良い感じになった。

「はぁ、うまい…」

一気に吸い上げたので一息付く為に口を離した。
その時点で俺は気付いた。
変態危険馬鹿男が微動だにしていない事に。
そ、そー―ーっと見ると俺の肩からいつの間にか口を外していてあの冷たい眼を少し見開いている。
な、何だ?
しかもヤツの肩越しから見えるホスト系兄ちゃんがこれまた茫然としてこっちを見ていた。
え?
さらに向こう側、部屋の入口付近にいるヴィーナと金髪の兄ちゃんも驚いている様子でこっちを向いている。
ええ?

この時が止まったかの様な空間を動かし出したのは

「マスター!」

突然この部屋に光と共に転移してきたレイグだった。
少し服に乱れがあるが蒼い髪と綺麗な顔は汚れておらず碧の眼が部屋の状況を把握している。

「あら?お前がここに来たって事はニケルとユーディはやられちゃったかな」

ホスト系兄ちゃんがニヤリと笑いながら立ち上がった。
レイグはホスト系兄ちゃんを見ると怒気を帯びた顔つきで眉間に皺を寄せる。
うわ、レイグの周りに怒りのオーラが見えるよ。

「アートレイズ公には後で聞かなければならない事があるのでそこを動かないで下さい」
「おー怖っ」

ホスト系兄ちゃんはおどけた様子で肩をすくめた。

「ヴィーナ」
「な、何かしら?」

今度はレイグにヴィーナが呼ばれる。

「何を遊んでいる。さっさとそいつの腕の2本や3本切って拘束しろ」
「3本はないんじゃないかしら…って睨まないでよー」
「おいっウェルナン!切られちゃう前にニケルとユーディの様子見て来い」
「フフ、了解しました、マスター」

金髪の兄ちゃん、ウェルナンは双剣を鞘に戻すと手を振りその場から転移する。

「簡単に行かせてくれたな?」
「奴らのマスターである貴方がここにいる以上下手な事はしないでしょう。最も何か策略を持ちここへ 戻って来た時は」
「戻って来た時は?」

フフフフフ…と地の底を這うような声で笑った。
レイグの背中に蠢く黒いモノが見えるよ!
ヒイッ、恐ろしいっ。
俺は無意識に目の前にあるモノにしがみ付く。

「おーい、3人共ー素直に戻ってこいよー」

ホスト系兄ちゃんは3人がいるだろう方面に向かって虚しく叫んだ。

「さて」

レイグが黒いモノをそのまま纏いながらゆっくりとこっちに向き鋭く冷たい視線が俺を捕らえる。
うぐっ。
しがみ付く手に力が入った。
レイグのこめかみにピクリと青筋が立つ。

「我がマスターに何ゆえしがみ付いているのだ。離れろ子猿っ」

子猿!?
小僧からまた格下げかよ!
って…ん?
しがみ付く?

「――――――っ!?」

俺は声にならない悲鳴を上げた。
よりによって変態危険馬鹿男にしがみ付くとはっ。
俺のアホー!
急いで離れ…離れ、離れーられないっ!?
ヤツの腕がいつの間にか俺の腰に回っていた。
お、おまっバ、バカか!

「離せよっ!レイグが睨んでんだろ!?」

抗議するが放そうとせず。
空気を読め!バカちんがー!
ハッ、もしやこれはヤツの作戦か?
侮れんなコイツめ。
俺がグルグルと考えているといきなり身体が宙に浮く。

「うわぁっ!」

変態危険馬鹿男が俺の膝裏に腕を入れ横抱きにして立ち上がった。
いわゆるお姫様抱っこである。

「マ、マスター?」

レイグが戸惑いの声を上げる。
ごもっともだ。
お姫様抱っこされてる俺はもっと戸惑っているんですけど!

ヤツは無言のまま転移した。
俺ごと。


ちょ――――――――っ!!?











空間が揺れ周りの空気が静寂に包まれたモノに変化する。

「ーっ!」

ドサリと柔らかいモノの上に落とされた。
多分、ベットかソファか。
多分と思ったのは今いる空間が真っ暗で何も見えないからだ。
すぐにボワッと横から明かりが灯った。
やはり俺はベット上に降ろされたらしい。
明かりはベットサイドのランプのモノだった。
ヤツの姿がランプの灯りに浮かび上がる。
相変わらずの無表情が俺を見下ろしていた。

「寝ろ」

……えーー、何を仰ったのでしょうかね。
思わず眉間に指を当てる。
どこをどうしたら今までの状況下から『寝ろ』発言が生まれるのか。
そんでついでに言いますけど俺、お前の攻撃で負傷してんですけど。
さっき精気を吸ったおかげなのか傷口は塞がっている様だがまだ痛みは残っているし。
格好は自分で言うのもアレだが…悲惨だな。
左肩口付近は誰かさんの所為でシャツがボロボロに裂けているし、大部分が血で真っ赤に 染まっているし、立派なホラーだよ。
こんなんで寝ろってか?

「うおわっ」

こ、コイツいきなり俺の可哀相なシャツを引ん剥いてきやがった!
益々コイツの行動が分からんっ!

「何すんだ、止めろよ!」

無表情のまま脱がしてくるヤツに抵抗する俺。
しかし勝敗は呆気なくヤツに軍配が上がった。
さよなら俺のシャツよ。

「何なんだお前っ」

ベットの上を尻を付け上半身裸のまま反対側にジリジリと後退する。
ヤツはベットに乗り上がって来た。
俺はさらに警戒しながら後退する。
注意力散漫な俺はどんなに大きいベットだって端があるって事を忘れてた。
後退していた手が空を切る。
ガクンと身体が後ろに傾き思いっきり頭から落ちた。
ズゴンッと素晴らしい音を響かせ一面に星が飛んで意識が途切れた。

お、俺ってヤツは…。




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