10




ん〜。
心地よい眠りの中で手を動かすと手触りのよい感触に当った。
もっと感じたくて身体全体ですり寄る。
気持ちいい…。
薄っすら目を開けるとぼやけている視界に白いモノが映る。
手で触ってみた。
何だろコレ。

「起きたか」

…。
………。

「んぎゃーーーーーーっ!!!」

俺の叫び声が部屋中に響き渡った。
なななな…!
白いモノ即ちそれは変態危険馬鹿男の肌だった。
ってか何でお前上半身裸なんだよ!
しかも俺も上半身裸だしっ。
イヤイヤイヤ、その前にどうして俺とコイツが一緒に寝てんだ!?
ヤツが腕で支えながら上半身を起こした。
程良い綺麗な筋肉がしなやかに付いている。
何て羨ましい。
何処まで完璧だよ。

固まってた俺はハッと我に返り起き上がって距離を取る。
後退し続けていたら手が空を切った。
あれ?
同じ経験をちょっと前にした様な。
しかし再び頭を打ち付けるという事はなかった。
なぜならヤツがいつの間にか俺の腕を掴んでいたからだ。

「また同じことをする気か」
「…わ、悪りぃ」

ベットの上にそのまま引っ張られ引き上げられた。
ほっと一息吐いた瞬間。
再び固まった。
俺のいる所まで移動した所為か下半身に纏っていたシーツが取れている。

「何でお前、マッパなんだよーーーーー!!」

ええ、完璧でしたとも。
何がってナニが。

トントンと寝室のノックの音が聞こえた。

「マスター」

この声はレイグだな。

「入れ」

ヤツはガウンを羽織りベットから降りた。
わっ。
俺の顔に何かが被さった。
取るとシャツだった。
ヤツが投げ寄越してきたのか。
着て良いんだよな?

「マスター、おはようございます」

レイグが入ってきて俺をちらりと見る。
だから睨むなよ。
俺は居心地が悪くなってそそくさとこの部屋から出て廊下に避難した。
出ていく時に変態危険馬鹿男の視線を感じたが無視だ無視。
俺のサイズにはでかいシャツを着てボタンを留めながら適当に廊下を歩いていると窓から見える景色に 足を止めた。

「あれ?」

何か見覚えがある。
この屋敷は少し高い位置に建てられているのか林の遠く向こうに見慣れた近代的な建物が見えた。
しかも手前の方にあるあの建物は昔お世話になった小学校ではないか。

「まさかここって“お化け屋敷か”?」

小学生とは好奇心旺盛で想像力も豊かなもんで管理はされていたみたいだが小学校と比較的近い無人の洋館は 恰好の話題スポットだった。
誰かが幽霊を見たといえば他の誰かが自殺した屋敷の人間だという。
連鎖していった話がどんどん膨らんでいってちょっとした度胸試しの場になっていった。
俺もよくチャリでダチと来たもんだ。
屋敷に入り込もうとするヤツが出て来た為、学校がここに来る事を禁止にして以来ここには来ていない。

「こんな近くにいたなんて…」

何だか案外近くにいた事にほっとしたのか足から力が抜けてその場にしゃがみこんだ。
足に間に頭を挟んだ状態で深く溜息を出す。

「何とかして帰らないとな」

軽く目を閉じて気合いを入れ…。

「んふふーっ、あの方と熱い夜をすごしたのぉー?」
「え!?」

急に隣から聞こえてきた声に顔を上げるとショートカットの明るい茶色の髪の女の子がいた。
ニコッと笑いながら顔を近づけてくる。

「わぁっ!」
「ボク、ユーディだよ。よろしくね!」
「お?…おお」
「名前」
「え?」
「キミの名前だってばー!教えてよー」
「え、あぁ、俺は高野聖司…ん?ユーディ?」

まじまじと目の前の顔を見る。
確か昨日ニケルと一緒にレイグを攻撃していた美少女じゃないか?

「そんなに見つめないでよー」
「ええっ?いや、ゴメンっ」

あわあわと慌てて目線を逸らした。

「聖くんってかわいい!…それにおいしそう」
「は!?」

ユーディはふっくらしたピンクの唇をペロッと舐め俺の肩に手を置いた。
ボー然としていると顔の距離が縮まってきて…。

「どわー!?」

我に返った俺はユーディの顔を両手で挟んで押し返した。
突然の俺の行動に驚いたのか大きい瞳を瞬かせている。

「ああんっ!もう信じられないっ。このボクを拒むなんて!」

頬を膨らませて怒ってきた。

「いきなりキ、キスしようとしたからだろっ!?」
「あれ?聖くん、顔赤い」

う、うるさい。
免疫のない男子高校生は美少女に迫られて平然としている訳がないだろ!
ニマッと笑って今度はユーディが俺の顔を両手で挟んで囁いた。

「いまからするからね」
「……!?」

どどどどどうすればっ!
ぎゅうっと目を瞑った瞬間。
俺の身体が引っ張られベシッという音が聞こえた。

「まったく聖ちゃんを誘惑するんじゃないわよ」
「痛いー」

おおっ。
ヴィーナ!
俺はヴィーナの腕の中にいた。
なんてナイスタイミングなヤツなんだ。
ユーディは額を押さえて涙目になっていた。

「聖ちゃん、大丈夫?」
「ヴィーナ!」

俺は昨日から色々あったせいで思わず頼れるヴィーナに感極まってガシリと抱きついてしまった。
そのままヴィーナは俺を軽々片手でひょいっと抱き上げた。

「ちょっと!ひどいじゃない」

抗議の声を上げたユーディを見たら額が赤くなっていた。
肌が白いから良く目立つ。

「あーヴィーナ。助けてくれたのはありがたいけど女の子の顔はまずいと思うぞ」

ヴィーナがきょとんとした顔をした。

「聖ちゃん、この子は男の子よ」
「え?えええーーーーーーーーーー!?」
「いやーん、聖くんボクを女の子と思ったの?ほらほら見て」

ユーディは服を掴むと首のあたりまでガバっと上げた。
うわわわぁ!

「ないでしょ?」

……。
確かにない。
女の子にあるはずの膨らみが。

「あ、もしかして貧乳じゃないかと思ってる?下も見せようか?」

そう言ってショートパンツに手をかけた。
「いらんっ!!」
「残念ー」

お、俺は男に迫られていたのか。
ガクリとヴィーナの肩に頭を落とした。

「さて行くわよ。あんたも来なさい」
「はぁーい」

しぶしぶユーディが返事をする。
俺を抱き上げたままヴィーナは歩きだした。

「行くってどこに?」
「応接室よ。みんなそこに集合だから」
「昨日の奴らも?」
「うん!マスターもニケルもウェルナンもね」

後ろからくっ付いてきているユーディが答えた。

「ヴィーナ、昨日襲って来たやつを自由に歩かせていいのか?」
「それなら心配ないわ。もう害はないから大丈夫よ」
「ふーん」

ヴィーナが言うんだったらそうなのだろう。




main next