「本当にお前、ジハイルの何なの?」

困惑気味に聞かれましても俺が一番それを知りたいよ。
頼みのヴィーナはまだ戦闘中だし…どうしよう。
ん?
アイツの手に何やら渦巻いているのは何でしょうか?
次の瞬間、躊躇いもなくこっちに向けて攻撃して来た。

「ーーーっ!!」

咄嗟に瞑った目をそっと開けるとホスト系兄ちゃんが手を前に翳して防壁を張っていた。
助かったぁ〜。
しかし俺を拘束していた腕がいきなり外れるとズルリとホスト系兄ちゃんの身体が下に沈みその場に 膝を着いた。

「血っ…!」

防壁を張った手から腕にかけて裂けていて血が溢れている。

「あーくそっ。普段ならこんなに弱っちくないのになー。ジハイルよ!コイツがどうなっても  良いのか?」
「ソレがどうなろうと関係ない」

無表情のまま冷ややかに告げた。
それを聞いた俺は身体の中で何かが弾ける様なショートした音が鳴った気がした。

………。

俺は目を閉じて下を向く。
いや、分かってたけど…分かってたんだが。
俺の中の弾けた何かがグルグルと暴れ始める。
ソレって何だ?
俺の事か?
グルグル回っているモノが段々と大きくなって色々な感情を取り巻いて身体全体に行き渡る。
ああ、レイグの時と同じだ…。

「フッ、フフフフフフ」
「お、おい」

急に笑い出した俺にホスト系兄ちゃんが声を掛ける。
何だか可笑しくはないけど笑えて来たんだ。
そんで気付いた。
俺この変態危険馬鹿男に関わってから碌な目に合ってないってな。
目をスッと開けた。

「お前、目の色が…っ」

ホスト系兄ちゃんが驚いた声を上げる。
アイツの芸術的な顔を一発殴らなきゃ気が済まねえ!


高野家家訓、第4項[やられたらやり返せ]


俺は変態危険馬鹿男に向き合った。
ヤツは相変わらず無表情のままこっちを見ている。

俺は床を蹴り一気にヤツの懐に飛び込んだ。
そのまま横面に向けて殴りかかると腕を捕られ捻られながら床に叩き付けられた。

「ぐうっ…」

息が一瞬詰まるが直ぐに身体を横に回転して起き上がる。
そして瞬時に後方へ跳んだ。
今いた場所に赤い音も無くナイフの刃が数本突き刺さっている。

アイツの周りに赤く弛む球体がいくつも小さく揺れながら浮いていた。
無数の球体は形を変え鋭利なナイフの刃になり目標を定めたかの様に切っ先を俺に向けピタリと静止した。

刹那。

一斉に襲いかかる。
素早い動きで円を描きながら避けるが数本が避け切れず一直線にこっちに向かって来た。
俺は手を前へ翳す。
何故か解っていたんだ、力の使い方を。
俺の中のグルグルが手に圧縮されて集まってくる。
それは煌々と紅く輝き、勢い良く解き放された。
放たれた光は赤いナイフの刃をのみ込み消滅させ直線状にいたアイツに襲いかかった。
しかしヤツは埃を払うかの様に手を軽く振り光を霧散させた。
間も開けず俺は続けて光を放ち攻撃するが軽くヤツに去なされる。

そして目線が合った。

「つまらん。アレ同様、暇つぶしにもならない」

威圧してくる紅い瞳に力の差というものを認識させられる。
只そこに立っているだけなのに俺の肌がヤツの力の片鱗に触れビリビリと痛いくらいの刺激を受ける。
悔しいが力が足りない。
元々残っている力が不足しているのだ。
くそっ、こいつが精気を大量に取りやがったからだ。

突然視界からヤツが消えた。

「え?…―――ぐはっ!!」

俺は後ろから蹴り上げられ直後、熱い光の衝撃が左肩を貫いた。
そのまま吹き飛ばされ絨毯の上に転がった。

「う、ぐぅっ」

焼けるような激痛が襲う。
俺は左肩を押さえながら蹲った。
白いシャツが赤く染まりパタパタと抑えきれない血が絨毯を汚していく。

「ーっ、はぁはぁ」

冗談じゃねえ!
半端じゃねえぞ、この痛みっ。
冷汗がこめかみを伝う。

「っ!?」

変態危険馬鹿男がいきなり俺の髪を掴んで顔を上げさせた。
真から凍るような眼を向け底冷えする様な笑みを見せる。

「貴様の価値など何もないが唯一役に立つ精気を死ぬ前に全て取ってやろう。ありがたく思え」

血に濡れたシャツを手荒く引き千切ると血が溢れ出る傷口に唇を寄せ舌を這わせた。

「や、やめろっ…ぐあぁっ」

コイツ傷口を抉る様に舌を押しつけてきてやがるっ。
失血と精気を取られている為か身体の力が入らなくなって目の前がぐらついてきた。

「うぅ……」

気が遠くなる。
俺、このまま死ぬのか?
こんなヤツに殺されるのか?
怒りはずっと沸き上がっているままなのに?

『そう言えば聖司ってさー』

あれ、広哉の声が聞こえる。
これが噂の走馬灯か…?

『人より怒りの沸点高いけどその為か次にある何をするか分からない沸点は低いと言うかすぐ来るよね』

そう言えばこんな会話を以前していた気がする。

『だから初めて見る人はマジでビビるんだよねー』

俺には自覚はないが意外にそうなのかもしれない。
変態危険馬鹿男がビビったかどうかは分からなかったが俺は


ヤツの首に喰らいついていた。




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