頬に風を感じて瞑っていた目をおそるおそる開けてみると屋敷の屋根の上にいた。
どうやらあの場所から脱出出来たみたいだ。
夜空に星が輝いている。
そして月も。
月は昨日の様に赤くはなかった。

「聖ちゃん、怪我はない?」
「な、ない、けど…」
「けど?」
「はーっビックリした。寿命が縮んだ〜」

ぐったりとヴィーナに抱きついたまま寄りかかる。

「アイツ何者なの?」
「あの人もレヴァの一族よ。目が紅かったでしょう?」
「そういえば」
「紅い瞳はレヴァの特徴なのよ」

なるほど。
…あれ?

「何で同じ一族なのに襲われてるんだ?」
「それは話すと長くなるからコレが終わってからね」

とウィンク付きで言われた。
う〜ん、こういう仕草が似合うからなぁ、美形ってヤツは。

突然、真逆の屋根の向こう側が発光したと思ったら大きい爆風が起きた。

「うわっ、何!?」
「聖ちゃん掴まっててね」

ヴィーナがその場所に俺を抱えたまま屋根の上を駆け出した。
まず、何に驚いたというとニケルと呼ばれたナイスバディ美女ともう一人可愛い系の女の子が宙に 浮いてたからだ。
二人は同じ方向に手を向けている。
その先には。

「レイグ!」

ヴィーナが叫ぶ。
レイグは地面に立っていてあの二人と対峙していた。

「ヴィーナ!」

目線は二人に向けたままレイグも叫ぶ。
ヴィーナは頷くとその場から離れ、また屋根の上を素早く移動し腰に差している剣を抜く。
そして勢いよく屋根に突き立てるとその部分が大きく破壊され屋敷の中に着地した。

「レイグは!?」
「あいつなら大丈夫よ」

目的の場所があるのか一直線に走って行く。
ある扉の前に到着した。
その場所は変態危険男がいた部屋だ。
また剣を構え俺には全く見る事が出来ない速さで分厚い扉を難なく切り崩す。
そのまま飛び込むとホスト系兄ちゃんと見たことない金髪の兄ちゃんがいた。
その二人の前に変態危険男が威圧的に立っている。

「あれ〜?お前ら生きてたんだ」

ホスト系兄ちゃんがこっちを向いて捕食者を思わせる笑みを見せた。
思わずヴィーナをしがみ付いている手に力が入る。

「そろそろ決着付けようじゃん」

そしてホスト系兄ちゃんが再び変態危険男の方に向き、攻撃を仕掛けた。
ヴィーナが動こうとした時、目の前に金髪の兄ちゃんが立ち塞がる。

「貴方の相手は俺ですよ」

ノンフレームの眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
その奥の紫の瞳は好戦的に光っている。

「またあんたなの〜?しつこい男は嫌われるわよー」

ヴィーナは本当に嫌らしく顔を顰めた。
知り合いか?

「本気の貴方と戦って見たいのです」
「これだから戦闘マニアは嫌なのよ」
「フフ、これでも戦う相手は選んでいますよ。ナイレイト族のラウダン
スゥラ」

瞬時にヴィーナの気が冷たいモノに変わった。

「もう一つ忠告してあげる。余計な事を詮索する男も嫌われるわよ」
「ご忠告、ありがたく頂戴しておきます」

二人の間の温度が凍りつく様に下がっていますよ…!
どうしたらいいのか分からず二人をキョロキョロ見ていると金髪の兄ちゃんと目が合ってしまった。
ニコリと微笑まれる。
うっ、どうリアクションしていいか分からん。

「おや、かわいい仔ウサギくんですね。先の戦いの時にはいなかった。するとこちらの住人ですか。はて、 セルファード公は下等なモノを嫌っていますからね。人間も然り。なのにどうして側近の貴方がさも 護るかのようにしているのか。興味が湧きますね」

興味なんて湧かなくて良い!
ってか仔ウサギってなんだ。
ヴィーナが大きく溜息を吐く。

「あんたさっき言った事聞いてなかったの?余計な詮索はするなって言ってんのよ」
「フフ、これは俺の性分なので諦めて下さい。それに詮索しなくては相手の事が分かりませんからね」
「はぁ、あんたと話してると疲れるわ。一瞬で終わりにしてあげるわよ」

ヴィーナは俺を降ろして剣を構える。

「やっと本気になってくれましたか?」

金髪の兄ちゃんは両方の腰に差してある細身の剣をスラリと抜いて剣先を下に向けて構えた。
この兄ちゃんは二刀流だ。
俺はヴィーナの邪魔にならないように下がる。
そしてヴィーナの姿が消えた。
次に剣同士がぶつかった高い音と共に激しい火花が散る。
切れたフィルムのように二人が消えまた現れる。

「す、すげー」

何が何だか分からず見ているだけしか出来ない。
そう言えばもう一組。
変態危険男とホスト系兄ちゃんを探すとこの部屋と続いている部屋…見事に壁は破壊されているが
その部屋の奥で対峙している二人を発見した。
しかしホスト系兄ちゃんは片膝をついて腕を庇うようにしてもう片方の手で押さえている。

「あれーおかしいな?お前さ門くぐる時、力奪われなかったの?お前程の力持っている奴だったら 負荷が大きすぎて動くのがやっとぐらいだと思ったんだけどな」

変態危険男は無言で見下ろしている。
門ってなんだ?

「俺なんかこっち来た直後は歩くのがやっとだったんだぜ。回復しようにも人間の精気吸ったって 微々たるもんだしよ。何か隠してんだろ、ズリーなー。今度こそお前を地に着けてギャフンと 言わせるチャンスだと思ったのになー」

ヘラリと笑うホスト系兄ちゃんに変態危険男は手を振り翳した。
ホスト系兄ちゃんも手を振り翳し二つの攻撃が相殺する。
爆音の後、その余波で二人の周囲が埃立った。
埃の中から黒い影が俺に向かって跳び出してくる。
え!?
その影は素早い動きで俺を拘束した。

「よっ、また会ったな」

ぎゃー!
俺を拘束したのはホスト系兄ちゃんだった。
後ろから羽交い締めの様にして動きを封じられた。

「離せー!」

一心不乱に抜け出そうと抵抗するがビクともせず。
前を見ると埃が床の上を舞っている向こう側で変態危険男はこっちを向いていた。

「ジハイル!コイツを助けたかったらそこ動くんじゃねえぞー」

ぜっ、絶対。
アイツは…絶対。

「おい、ジハイル。動くんじゃねえって言ってんのが聞こえないのかっ!」

俺を助ける気はないっ!




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