11




階段を降りて少し廊下を歩いて行った。
そして応接室の扉の前で止まる。
ヴィーナから降ろしてもらってその部屋の中に入ると昨日の面々がソファーに座っていた。

「いよっ」

ニヤリとした笑みを浮かべながら片手を上げたのはホスト系兄ちゃん。

「はあ」

あいまいな返事をした俺に手招きをする。
俺コイツにも昨日殺されかけてるんだよなぁ。
行っていいものなのかチラッとヴィーナを見ると少し微笑んで俺の肩を抱きながらホスト系兄ちゃんの 真向かいのソファーに隣同士で座る。
もともとそこにいたニケルとウェルナンは移動してホスト系兄ちゃんの後ろに控えた。
ユーディはホスト系兄ちゃんのソファーにある肘掛に腰を落とす。

「まず昨日の今日だが自己紹介でもするか。俺はこいつらのマスターのエドグリット・ブルーニ・ヴィス・  ホーウィ・アートレイズ。知っての通りジハイルと同じレヴァの一族だ」

コイツも長っ!
半分も聞き取れない。

「俺の事はエドでいいぜ」
「おおっ!マスターが名前で呼ばせるなんてめずらしいねー」
「ユーディ。マスターのお話し中に口を挟んではいけませんよ」
「はーい」

ニケルに注意されてユーディはペロッと舌を出した。
「俺は…」
「高野聖司くんでーす!」
「ユーディ」

再びニケルは注意する。

「マスターの話し中に口を挟んでないもーん。今のは聖くんの話し中だもーん」

機嫌を損ねてぷいっと横を向いたユーディにニケルは眉を顰めた。

「お?何でユーディがコイツの名前知ってんだ?」
「ボクはマスターの話し中に口を挟んではいけないから答えられませーん」

はぁ、とニケルが溜息を吐いた。
ウェルナンは微笑んでいるが我関せずといった感じだ。

「じゃあ、お前には聞かねーよ」

ハッと振り返ったユーディをエドは無視して俺を見た。

「高野聖司だったな。セイジって呼ぶぜ」
「うん。えーとユーディとはさっき廊下であってその時に」
「なるほどな。知ってると思うが俺の後ろにいるのがウェルナンとニケルだ」

二人を見るとそれぞれ軽く会釈された。
俺もペコリと頭を下げる。

「聖ちゃんは下げなくていいのよ」

俺の耳元でヴィーナは囁いた。

「そうなの?」
「そうなの。聖ちゃんはレヴァの一族だからね」

ぐ!
忘れてたのにっ。

「マスタァー、ボクの紹介はー?」

少し涙声になったユーディがエドに言う。

「あ?お前はセイジと直接しただろうが」

ジワリとユーディの瞳に涙が浮かぶ。
あ、これは。
何だか少し前の弟の栄司を見ている気がしてきた。
今は落ち着いているが中学生の時は荒れてひどかったもんだ。
こっちが構うと突っぱねて離れていくくせに逆に無関心でいると構ってほしいと視線を感じるのだ。
視線を感じたら無視しないで受け止める事。

「エド、紹介してやってよ」
「はぁぁ。このめんどくせーのがユーディだ」

そして受け止めたら何がいけないか直さなければならない事を伝える。
一回で伝わらない時もあるけどこれは根気よく時間をかければいい。

「ユーディ改めてよろしく。それからさっきみたいな言動はニケルを困らせるし最後は自分が 困るはめになるから直さなきゃな」

微笑みながらユーディに言う。
ユーディは俺から視線をそらすと俯いた。

「…うん」

素直にうなずいたユーディにエドが驚いた顔をした。

「あの我が儘の代名詞のユーディが」
「ボク、そんなに我が儘じゃないです!聖くん信じちゃダメだからね!」

頬を赤く染めながら俺を見た。
俺は笑いながら頷く。
ニケルと眼が合うとニコリとほほ笑まれた。

「聖ちゃん顔赤いわよー」

ヴィーナが頬を長い指で突いてきた。
うるさいっ美女にほほ笑まれたら赤くもなるって!

「で、どうだったんだよ?」

突然エドが話しを振って来た。

「どうって?」
「何回やったんだよ?」
「は?」
「あいつしつこそうだもんなー」

うんうんと一人でホスト系兄ちゃんは頷いているが話しが全く見えてこない。

「熱い夜だったんだよねー!」

ユーディまで参加してきた。
出会った時も同じこと言ってたな。

「マスター、ユーディ」

窘めたのはニケルだった。

「だぁーってよ、魔族にも興味を示さないあのジハイルがこいつを伴侶にして自分の巣穴に入れたんだぜ。 でどうだったんだよ?」
「さっきから何を言ってるのか分らないんだけど…」
「だからセック…」
「アートレイズ公、プライベートな話しは受け付けておりませんので」

急にヴィーナがエドの話しを遮る。
セック?
節句?

「セックスだよー!」

ユーディがでかい声で言い放つ。
隣ではーっとヴィーナが片手で顔を覆って大きく溜息を吐いた。
え?
何だって?
セ…?

「はぁーーーーーーーー!?」

俺は驚きに固まった。

「そのシャツって聖くんのじゃないでしょ!?ボクの読みだとセルファード公のモノだと思うんだけど!」
「そういやー昨日ジハイルがそんなシャツ着てたよな」
「マスター、それホント!?」

俺は自分の着ているシャツを見た。
そして摘んでみる。
ま、まさか。
アイツが着ていたモノなのか?
イヤイヤ、別にアイツが着ていたからってそんな大騒ぎにすることもない…。

「それってマーキングだよねー!コイツは俺のモノだから手を触れるな。みたいなー」
「ち、違えーよ!昨日俺が着ていたシャツがボロボロだったからこれを寄越したんだろ」
「でもよーあいつの性格からしてどうでもいいやつにシャツなんか渡さないだろ。ましては自分のだぞ」

ぐぬっ!

「で、いつからそんな仲になったんだよ?お前半分人間なんだろ?人間嫌ってるジハイルがよーまさかこんな  展開になるとは」

クククッとエドが笑う。
実に楽しそうだ。

「残念ですが!俺とアイツは何にもないからな!昨日だって普通に寝てただけだし!」
「一緒に?」
「え…あぁ」
「朝まで?」
「う、うん」
「ほーーーー」

エドは顎に手を当てて関心している。
隣を見るとヴィーナも少し驚いている感じだった。

「べ、別に男同志が一緒に寝たって変じゃないだろ?」

俺はヴィーナにそう問いかける。

「…マスターは他人と共に朝まで寝るって事は見たことも聞いたこともないわ」
「そうそう、俺らの世界は弱肉強食だからいつ命を狙われてもおかしくないんだ。  特にレヴァの一族は絶えず身内からも外からも狙われているからな。セックスする時も服着てる時が 多いし。よっぽど心を許した相手じゃなきゃセックスはしても朝まで同じ褥で過ごすってないんだよ」

待て。
ヤツはマッパだったぞ。
嫌な汗が背中を伝う。
俺は全てを否定するかのように拳に力を入れて大声で叫んだ。

「俺は、俺は、あの変態危険馬鹿男と何かがあるなんて絶対にないっ!!」
「「「「変態危険馬鹿男?」」」」

全員が口を揃えて言った。
し…しまった。
俺は慌てて口を押さえたがもう遅い。

エドが吹き出したのを合図にみんな笑いだした。
実際に笑い声を上げているのはエドとユーディだが。
ウェルナンとニケルは口だけで笑いヴィーナは肩を震わせて必死に堪えているみたいだ。

しかしこの場を瞬時に凍らせるヤツがこの部屋に現れた。

「随分楽しそうだな。変態危険馬鹿男とは俺の事か?」




main next