No130

立山トレッキング奇行
(2003年10月4日〜5日)

2003.4.28掲載

今年の秋山はどこへ行こう♪
日程だけは決まっていたものの、行き先はなかなか決まらなかった。
槍?こわいこわい〜槍も険しいんやろ?穂高?穂高もなんか大変そう。
薬師・・・?薬師はなだらからしいけど、ものすごく歩くらしいね〜。ぱき
らが毎日山の本を持ち歩き、寝る前にも散々眺めても、ワタシの体力気
力で可能と思われるところ、しかも一泊二日で行けるところとなると、な
かなか決まらなかった。

前日になっても「行く」ってことは、ぱきらは言ってたし、荷造りもしたけど
はっきりとした行き先は決まらず、「ほんとに明日行くん?」ってカンジだ
った。

んで、結局夏山と同じ立山に決定。
と言っても、さすがに大日岳ではない。歩いてない方。大日三山を縦走
しながら、眺めていた方を今度は歩く。立山はワタシも好きだし、何より
ぱきらが生まれてこの方まだ登ったことがないって言うことに、富山県人
として引け目を感じていたから、らしい。ただ・・・立山は結構お金がかか
ることが少し難点だった。とても同じ県内とは思えないくらい。でも、その
分、あっという間に標高2450mまで運んでもらえるんだもんな。

前回の大日岳でバテバテだったワタシは、エネルギー源としての朝ごは
んの重要性を感じ、今回はほんの少し工夫した。やっぱり早起きが苦手
なので、冷凍食品だけど焼きおにぎりを用意。これは、車の中で食べた。
早くエネルギーに変えるためには、早く食べておかないと間に合わない。

カロリーメイトのゼリータイプのものも用意。これで、ビタミンをどんどん補
給するのだ。もちろん、前回の反省からほうじ茶のティーパックもばっちり
持った。それと、前回の大日岳の翌日から、ワタシは朝の電車の中で空
いてる席を探すのを止めた。少しでも、体力をつける為に。でも・・・ちょっと
ささやか過ぎるかな(^-^;A"

立山駅には、紅葉のシーズンって言うことでもうひとがいっぱい並んでい
た。そして・・・寒かった。モニターに映し出された室堂は何とか晴れてい
た。気温は9℃だったかな・・・。

ケーブルカーに乗ると、すごい角度でずんずん高度は上がっていく。それ
からさらにバスに乗って(マイカー乗り入れ禁止)くねくねした道を登って
行く。確か、昔は酔ってしまったことがあったような気がするくねくね。もう
山はすっかり赤く色づいて秋の装いだった。ちょうどいい頃かもしれない。
こないだ、ついひと月前に来たときは、青々とした山が連なっていたって
言うのに。やっぱりこうして、同じところに季節を越えて来るのもまたいい
もんだなぁ・・・って思った。雲行きがちょっと怪しく、雲がどんどん早く流れ
て行く。さっきの気温はお日様が照ってた時。もう9℃もないんだろうなぁ。
。。

バスを降りると室堂はもう寒い寒い。階段を登りきって出口に来てしまっ
てから、ここで残りの朝ごはんを食べようって言うぱきら。え〜〜〜っ!
こんな寒いとこでいやだよ〜。凍えるよ〜。するとぱきらは言った。「どう
せ歩いたらすぐに暖かくなるから。」でも、ワタシには今のこの寒いのが
耐えられないのぉぉぉ〜。

冬用のフリースのロシア人風な帽子をしっかり被って、手袋をして出発!
初めに目指すは雄山。懐かしかった。ワタシにとっては20年ぶり・・・20
年?!(ちょっとうろたえる)20年「ちかく」ぶりにもなる立山縦走。職場
から毎年夏の初めの土曜日にみんなで行ってた。あの若い時もワタシは
ひぃひぃ言ってたっけ。今度はどうだろう・・・そう思いながら、初めはなだ
らかに周りの景色を楽しみながら少しずつ登っていく。奥大日岳が後ろに
遠くなっていく。どこを見ても景色が雄大で気持ちがいい。

初めの休憩場所は一の越山荘。思ったよりラクだった。当時のワタシが若
い割りにへなちょこだったのか、今のワタシがこのところの登山で鍛えられ
たのか・・・。風が寒いので、風を避けられるとことに腰を降ろす。いつもは、
ここに泊まって、それから夜中の3時頃に叩き起されて雄山頂上でご来光
を拝むために、懐中電灯を片手にごろごろざらざらした坂を夢遊病者のよう
にぼ〜っと登って行ったっけ。暗いからよく分らないけど、一体どんなとこを
登っていっていたのだろう。

さすがにここからは、ちょっと登りが急になっていた。大きな岩に手をつきな
がらよっこらしょと体を持ち上げる。こんなところに来ると、途端に水を得た
魚のように、もしくはサルのようにひょいひょいひょいーとどんどん先へ行っ
てしまうぱきら。大きな岩の影になってスグに姿が見えなくなる。んもうー!
でも、ワタシにはいつの間にか「連れ」ができていた。もうちょっと年上の女
の人。ふたりして、しょっちゅうはぁはぁ言って腰に手をやっては上を見上げ
た。そのうち、ひとことふたこと言葉を交わすようになった。でも、この人の
連れらしき人は見えない。この人はひとりで来たのだろうか。。。

大きい岩のかたまりを過ぎると雄山頂上はすぐ見えた。ただ、最後の道の
りはざらざらした滑りやすい土で注意が必要だった。ワタシ達と逆ルートで
降りて来る人たちはもっと注意が必要だった。それにしても、こんなところ
を夜中に登って来てたなんて信じられない。。。知らないことほど強いこと
はない。やっぱり夢遊病のように登って来てたのかな(^-^;A"

雄山頂上の少し手前の社務所には売店があるはずで、いつもはそこでカ
ップラーメンを買って、お湯を入れてもらって、それをすすりながらありがた
くご来光を拝むんだけど、9月いっぱいで閉まってしまうのか開いてなかっ
た。しかも、相変わらず風が強くめちゃくちゃ寒かった。じっとしてるのも寒
いので、とりあえずすぐそこの山頂へ向かった。山頂には小さな小さな神
社がある。

山頂の向こう側には雲の切れ間から黒部ダムを見ることが出来た。あっち
側は晴れてるんだ、いいな〜。こっちは鉛色で寒いよー。ぱきらがしこたま
写真を撮る間凍えていたワタシは考えた。こんなに風が強くて何も見えな
いなんて何も楽しみがないし危ない。これは・・・退き帰した方がいいんじゃ
ないのかなぁ・・・とつぶやいてみせたがぱきらは知らん顔だった。

写真を撮り終えるとそそくさとさっきの売店のあるはずのところまで降りた。
ここなら少しは風が凌げた。みんなその軒下で弁当を食べていた。他人の
弁当を見るのは楽しいものだ。しかも、今日のこのお天気のおかげでこん
なに間近で見れるなんて。お!と思ったのは、おじさんがナイロン袋に入っ
た予め切った野菜をお鍋に入れたことだった。これは・・・何を作ろうと言う
のだろう。。。見ていると、おじさんは最後に味噌を溶き入れた。味噌汁か
ぁ〜おまけにちゃんとした手作り♪この寒いところでの味噌汁は非常に旨
そうだった。みんないろいろ工夫をして、山での美味しいひとときを楽しみに
登ってくるんだなぁ。

大きい岩のかたまりのところで「連れ」になった女の人は、ちゃんとお連れ
の方と再会を果たしていた。ぱきらよりもどんどん先にいってしまう人もい
るんだな( ̄w ̄;) そこで買って来たお弁当を広げていたその人に、今日
はどこまで行かれるのかと尋ねると、ここで帰るのだそうだ。ワタシ達の一
応の予定を言うとうらやましがられた。ツアーの人なのかな。

そして、ワタシ達は?と言うと、あったかいココアを沸かして飲んでチョコレ
ートを食べて、もしかしたら、ぱきらは雲の流れなんか見ながらいっちょ前
に天候を読んで、戻った方がいいのかな・・・とか考えてるのかなって思っ
てたら、「さて、そろそろ行こか♪」とのたまった。やっぱり、行きますか・・・
やっぱりな。でも、あんまり先へ行く人はいないみたいだけどなぁ。。。

ここからは縦走になるのでゆるやかなアップダウン。しばらくは降りて行く
みたいだった。視界は本当に悪く、って言っても一寸先が見えないわけで
はないけど、とても楽しめる視界ではなかった。霧でもやもやしてて、古戦
場を歩いているみたいだった。ただ、苦しいだけの登山?いやだな〜。そう
思いながらも寒いのでとにかく歩く。ざらざらした石ころに気をつけながら。
ほんの少しほっとしたのは、ワタシ達の他にも縦走する人達がいたことだっ
た。

少し歩くと、大汝山に着いた。ごつごつ大きい岩をよっこらしょと登っていく
と頂上付近では、3人連れの人達が写真を撮り合っていた。本当の大汝
山頂上はすぐ側だけど、大きな大きな岩の狭いてっぺんらしく、とてもそん
なとこに上がる勇気はないので、上から見下ろすと、辛うじて黒部ダムが
見えるところでワタシ達の写真を撮ってもらった。

だけど、結局ぱきらはそのおっかない頂上に登った。ワタシは下から見上
げる形で、『大汝山頂上』と書かれた板切れを持った、誇らしげなぱきらの
写真を撮った。となるとくやしいワタシは、せめて足の先だけでもその頂上
に、バレリーナみたいに方足を上げて、その板切れを持って写真を撮って
もらった。

そこを過ぎるとすぐに大汝小屋があるはずだった。そこで寒さを凌いでお昼
ごはんを食べるはずだった。ところが・・・小屋はあるけどすでに閉鎖されて
いた。もう冬支度。。。とにかく寒いので小屋の軒下にリュックを下ろし、お
尻が冷えないように、発泡スチロール製の折りたたみ式座布団を敷いて
座る。震えながら、買って来た冷たいおにぎりと缶詰のイワシを食べて、燃
えるガスに手を翳して暖をとりながらお湯が沸くのを待った。こうなると、カッ
プラーメンも食べ物以上のものになる。代わる代わる交代で、暖かい汁を啜
りながら、暖をとりながら食べる。食後のほうじ茶もほっと美味しかった。

寒いので、じっとしてるのは禁物。お天気の崩れも心配なので、とにかく
ごはんが終わるとすぐに出発した。これまでは、左手は崖になっていても
右手に山があって、足元が怖いとか頼りないと言うことはなかったけど、こ
こを過ぎると、いよいよー縦走ーとその名の通り、山を縦に走りはしないけ
ど歩く。両側ともなにも、ない。特に、少し離れたところから、その、これか
ら自分の歩かなければいけない道を見ると、え〜〜〜〜って尻込みしたく
なるくらい細く見える。当たり前だけど。

まぁ、近づいてみるとそれほどでもないことが分ってほっとはするんだけど、
その、周りに何もないところに立つと、富山平野から吹き上げてくる風がさ
らに強く吹いていて、今度は吹き飛ばされないか心配で心配でたまらない。
風は進行方向に向かって左側から吹いていた。心持ち、足を踏ん張って、
風上に対して、自分のカラダが絶対に垂直にならないよう気を付けながら
慎重に歩いた。縦走は・・・お天気が良くて風がなかったら、高低差もほと
んどなくて最高に気持ちいいのだろうなぁ・・・なんてことを思いながら。

そんな道がしばらく続く。そんな道なのでとても休憩する気にもなれない。
もちろん、休憩するほど疲れもしないんだけど、緊張感が続くのがちょっと
しんどかった。

よく分らなかった真砂岳をいつの間にか通り過ぎ、少しコースを外れてしま
うけど、休憩したかったし地図に載ってる内蔵助山荘を目指した。歩いて来
た道をほ〜っと振り返ったり、わき道に入ったことで少し変わった景色をきょ
ろきょろ見回しているワタシの視界の片隅に何やら動く者があった。もしや?
と思ってその動いた者のいた辺りに焦点を合わせて眼を凝らして見てみると
そこにはなんと!ら、ら、ら、雷鳥がいた!いつものように、少し先を行くオッ
トに何やら大声を発して知らせるけど、自分でも一体何を言っているのか分
らない。足もがくがく震えていた。それほど、感動で胸が震えてうろたえてい
た。

わけが分らないまま、とにかくワタシのいるところまで戻ってきたぱきらは、
まだ何が起こっているのか全然分っていなかった。もどかしく、あわあわ言っ
ていたワタシの口からようやく「雷鳥」と言う言葉が出ても、ぱきらがその姿
を見つけるまでかなりの時間がかかった。確かに雷鳥は保護色で分りづらい。
それは目のいいワタシだからこそ見つけられたのだと言ってもいいくらい。

その間、目を離さず見ていたワタシは笑ってしまった。どうやら人間に見つけ
られてしまったと分った彼ら(?)は、そーっと、抜き足差し足でその場から
遠ざかろうとしているように見えた。上半身は動かなさいように、そぉ〜っと。
そして、初めにワタシが見つけたところより、少し遠ざかった頃、ようやくぱき
らはその姿が分った。ワタシは一応2度目だけど、ぱきらには初めて見るホ
ンモノの雷鳥だった。ぱきらは出来るだけ静かに写真を撮った。ふたりで雷
鳥を見ることが出来て本当にうれしかった。これだけでも、今日立山に来た
甲斐があったというものだ。

営業は今月いっぱいらしい内蔵助山荘でトイレを借りた。小屋の利用者じゃ
ないから100円かかったけど。ここは、少し下がっている分風もダイレクトで
はないので、外のベンチでクラッカーとブラックチョコレートで少し休憩した。

少し下がった分は、少し登りがあってその分余計だったけど、その代わり、
かわいい雷鳥に逢えた。帰りのその道の脇には、いくら目を凝らしても動く
ものは見つけられなかった。

また、元の縦走コースに戻ると相変わらずすごい風が吹いていて寒かった。
次の山、別山を目指す。前後に人がいるのが解って安心できた。前方を行く
ご一行様は年配の女性軍。10人ほどもいるように見える。あんなに団体で
行動するのはしんどいだろうなぁとは思うけど、それにしても元気だ。

別山に行くまでの途中、久しぶりに大きな岩のかたまりがあった。
あまりにも風が強いため、その岩の陰で風を凌いで休んだ。風でも体力は
消耗してしまう。そこでは、男性二人組と一緒になった。二人とも富山県人
だった。ストックは、風の強いときでも支えにできるから便利だよってことだ
った。う〜ん・・・今度はストックかぁ。。。でも、なんか出したり引っ込めたり
登り下りによって、長さを調整したりめんどくさそう。

別山頂上に来たとき、思いがけず、ぱぁーーーーっとガスが晴れて、すぐ目
の前に剣岳が見えた。やったぁーーーーーー!お天気が良いと、こんなに
も近くに剣が見えてたのだ。びっくりだった。今までなんだったのだろう・・・
ってなカンジだ。真砂岳から少し多めに下って久々の登りで、割と大きかっ
た別山は縦走的にはちょっとしんどかったけど、ばっちりのタイミングでラッ
キーだった。

別山で休憩して、結局今日は剣御前小屋に泊まることに決めたぱきら。
そこはもうすぐのはず。あともうひとがんばり。とにかく寒くて、小屋に着いた
らあったかいものを飲むことだけを夢見て。甘酒飲みたい〜。おしることかも
いいな〜。あぁ〜なんでカップしるこ持って来なかったかなぁ・・・。こんなとき、
ワタシの「だったらいいな」的想像は留まることを知らない。


この辺りになると、ときどきガスの切れ間から下界が見えることがあった。
山の麓を流れる細い川が傾きかけたお日様の光にきらきらと光っていたの
を見たときは、思わず「あ」と短く声を発して二人して見とれてしまった。ず
ーっとガスってる景色の中をただ黙々と歩いて来たワタシ達にとって、それ
はそれはうれしい贈り物だった。

最後の「剣御前乗り越え」って言うって看板のところで、すぐ下に見える
小屋らしきものを見つけて、どっちに行くか迷ったけど、とにかく無事剣御
前小屋にたどり着いた。あの時、ワタシがこっちだって言い張って下りて
行かなくてヨカッタ〜。登るのタイヘンそうだったもの。。。

小屋に入ると、やっと風から逃れられてあったかいばかりでなく、石油ス
トーブの匂いにほっとした。ぱきらが手続きをしている間、受付の前で売
られている森永ビスケットが美味しそうに見えてしょうがなかった。どうして
持ってきていないお菓子ばかりがこんなにも美味しそうに見えてしまうのだ
ろう。卑しいなぁ。。。

今日は何人で寝ることになるのかどきどきしたけど、今日は金曜日だし、
この先には剣沢小屋もあるし、途中出会った人たちを見る限り、そんなに
混んではいないはずだった。とりあえず、部屋に荷物を下ろしに行った。
カーテンで仕切る更衣室もあったけど、ほとんど汗はかいてないようだっ
たので着替えはせずに、下の自炊室でお湯を沸かして、何かあったかい
ものを飲んでほっこりすることにした。「何かあったかいもの」と言いつつ、
ワタシの心の中では、売店で見かけてカップしるこに決まっていた。

いつもだったら、そして晴れてたら、周りの景色を楽しみながら小屋の前
でする喫茶タイム。でも、今日のこの小屋にはありがたいことに食堂の他
に、自炊する人のための無料の部屋もあって、そこでみんなそれぞれお
湯を沸かして喫茶タイムを楽しんでいた。カップしるこはまったりと、冷え
切ったからだに美味しかった。次回、寒くなりそうな時は、カップしるこに
甘酒も持って来なくては。。。

そうそう、この剣御前小屋は、他にも細かいところに気が利いていて、と
ても快適な時間を過ごすことが出来た。寝る部屋の他に共用だけど、畳
敷きの休憩室があって、そこでは山の本やビデオもあって、状況によって
はごろんと横になってくつろぐことも出来る。晩ご飯までの間、目の前の
剣御前にも登らず、ワタシ達もそこで過ごした。誰かが『百名山』のビデ
オを入れたので、一緒に見たりした。

晩ご飯は結構ボリュームがあって美味しかった。(と思う。何せもう半年
近くも前の事なので忘れてしまった(;^_^A )他の人の話だと、この時季に
なると、今月いっぱいで閉鎖するため新しい食材も仕入れなかったりして、
○○小屋はまずかった〜などと言うこともあるらしい。

そして、やっぱりごはん時は山の話で盛り上がる。ワタシ達の向かいに
は年配のご夫婦が、隣にはワタシ達より少し年上だと思われるご夫婦が
いらした。その年配の方は明日は剣岳を目指すと聴いてたまげた。仮に、
100歩譲ってだんなさんの方だけ、と言うのならまだなら解る。見たとこ
60代くらいの奥さんも、ごくごく普通に、まるで買い物にでも行くように仰
った。もう何度も来ていらっしゃるようで、この辺りのことにもとても詳しか
った。

この辺りのことだけでなく、全国の山を渡り歩いているようなお話。一体
どこから来ているのかと思えば、なんと福岡からだと言う。思わず「きゅ
、きゅ、九州の福岡ですかー?」とバカな質問をするワタシ。富山県内に
は福岡と言う地名があるのだ。もちろん九州の福岡。しかも、古希の記
念にキリマンジャロに登ったという。さすがにこれはご主人の方だけだっ
たらしくほっとしたけど、そんなことより70代だということにもたまげてしま
た。いちいち大げさに驚いてしまうワタシ・・・本当にこのご夫婦には驚か
されっぱなしだった。夫婦ふたりで元気で山歩きが出来るなんてしあわせ
だなぁ・・・って思った。

そんな話で盛り上がっていたら、後ろのテーブルにいた、長いヒゲを生や
した仙人みたいなおじいさんが「仲間に入れてください」と湯飲みを持って
加わられた。この仙人みたいなおじいさんが、仙人池の話とかをしたから
おかしかった。やっぱり話題はこの辺りの山々の話に戻り、日電歩道の
話にも及んだ。

そこは、「黒部川下の廊下」とかなんとか言われているところで、断崖絶
壁の壁をコの字型に削ったような幅50cmほどしかない道のこと。その
100m〜200m下には黒部川が流れているらしい、恐ろしい道。剣岳
同様、ワタシには到底ムリだけど、ぱきらが非常に行きたがっていると
ころ。そんなところにもこの人たちは行ってるんだ〜。すごいな〜。ぱき
らは目を輝かせて聴いている。そこに行くと、素晴らしい景色と温泉が
あるみたいだけど、やっぱりワタシには怖くて一歩も動けなくなるのは
目に見えている。くやしいな。。。

ごはんが終わって湯飲みだけになって、私たちだけで長いこと話し込ん
でいたけど、そろそろ天気予報の時間だ。みんなで休憩室に行った。全
員がその部屋に入るとさすがに狭苦しかったど、それはそれであったか
かった。山に来ると気になるのはもちろんだけど、見ておかないといけな
い天気予報。どうやら明日は晴れそう、と言う予報にみんながほっとして
ため息が出た。本当に今日の風はひどかったもの。

19時からはビデオが始まる予定だった。夏に地元のテレビ局で、1週間
に渡って放送されたこの小屋を中心にした録画ビデオだった。受付にい
た若い、バイトみたいな人はやっぱりここのオーナーらしかった。富山出
身ではないそのオーナーは、当たり前だけど山が好きで、いろんな山を
歩いて、だから、細やかなところにも気が利いてるのかなぁ。

ビデオが終わると、ぽつりぽつりとみんなそれぞれの寝床に帰って行った
けど、ワタシ達は最後まで粘った。いつものことだけど、山小屋の夜は長
い。そして、たぶん、明日のご来光は拝めないはずだから、早起きもしな
くてもよさそうだし・・・。ぱきらと山の本を見たり、テレビを見たりして、あっ
たかい部屋でぼ〜っと過ごした。眠ってしまっている人もいた。いつの間
にか、部屋に残っているのは3〜4人だけになっていた。

いよいよ諦めて歯磨きを済ませ、トイレを済ませて、寒い、暖房のない寝
床へ。もう、部屋は暗かった。ワタシ達みたいにただ帰るだけの人ばかり
じゃない。明日の朝早い人もいるもんな。今回は、ひどいイビキの人はい
ないみたいだったけど、窓をたたく雨の音が耳障りだったので、やっぱり
耳栓をして寝ることにした。もう、耳栓なしの山登りは考えられない。ほど
なくして、眠りに落ちていった。

まだ真っ暗な時に、ふと目が覚めて時計を見てみたらまだ12時過ぎだ
った。すごい暴風雨だった。眠っている間に耳栓が取れたのかと思った
けど、そうじゃなく、絶え間ない稲光の強い光と、窓を激しく叩く霰だか
雹だかのせいだった。小屋は大丈夫なのかなぁ。。。とか、下界もこん
なに荒れてるのかなぁ・・・とかぼんやり思った。山小屋で、こんなに大
荒れになったのは初めてでちょっと不安だった。ただ、この分じゃ、十中
八九、明日のご来光はあり得ない、と少しほっとしたりもした。

目が覚めた時はとっくに明るく、もう6時だった。雨は止んでるみたいだ
ったけど、まだもやもやとガスがかかっていた。朝ごはんは6時半から。
他の人達はゴソゴソと朝支度を始めていた。そんな気配も分るはずだ。
だのに・・・ぱきらは布団を被ったまんま、一向に起きる気配がなかった。
揺さぶって起こしてもまだ起きようともしないで「どうせ何もすることない
もん・・・」と来たもんだ。それもそうだけど、ご来光が拝めないとなるとこ
うも違うものなのか。。。

朝ごはんでしっかりエネルギーの素を補給して・・・と言っても、今日は
今日こそは、下るばかりのはずだけど・・・。お互いさまに昨日と同じ席
並びに座ると、昨日の元気な70代のご夫婦は予定通り、剣を目指す
らしい。雨で足元がつるつるしたりはしないのかな・・・。お〜コワイ。ど
うぞご無事で。

そして、いつものようにスロースタート。もう数えられるくらいの人しか
残ってない小屋を出た。まだ、もやもやは取れてなくて、目の前の剣
御前は見えないままで、とうとう今回は登らずじまいだった。天気の
進み方がちょっと遅いみたいだ。

上下ともカッパを着て、カサカサ言わしながら、ハイマツの間の小道を
どんどん降りて行った。ときどき、雷鳥がいないか注意深く目を凝らし
ながら。山の斜面を横切りながら長いジグザグを降りていくので、急な
下りではなく、そう膝も笑わずに済んだ。下りだったけど、カッパの中は
スグに暑くなった。「すぐに暑くなるから」って、一気に脱いでしまうぱき
らと違って、たくさん着ている上に、寒さに対する抵抗力が弱く、少しず
つしか脱ぎたがらないワタシはしょっちゅう立ち止まっては、まるで野球
拳でもするように1枚ずつ脱いは仕舞って脱いでは仕舞って・・・を繰り
返して、ぱきらに呆れられた。

そのうち、少しずつガスも取れて来てお日様も見えてきて、ようやく周り
の景色を楽しめる様になった。自分達が降りてる方向に向かって90度
ほど右に振り向くと、剣御前の向こうに少しだけ剣が見えた。「おぉ〜!
あれはもしかしたら剣?!」ぱきらと思わず声をあげて立ち止まった。奥
大日岳で見たみたいに、目の前で何にも遮られない、ど迫力の剣もよか
ったけど、こうして、ちらっと見えるのもまたいいものだった。要するにど
んな姿でもいいのだ。

そして、目の前には奥大日岳。その向こうには前回縦走してきた大日
三山が見えた。山裾の方はだいぶ紅葉していて真っ赤に色づいた葉っ
ぱがきれいだった。あの山々を歩いて来たんだ。我ながらすごいなぁ・
・・としみじみしてしまう。この先を下りて行ったところと、奥大日岳から
下りて来るところは繋がっている。このまま大日三山を縦走していった
っていいのだ。しないけど。

そうやって、ときどき斜め後ろを振り返っては、自分達が下りるたびに
どんどん陰に隠れて行ってしまう剣を見たり、目の前の大日三山を見
上げたながら下っていった。ほとんどしんどさはなかった。

その、今ワタシ達が下っている道と、奥大日岳から下ってきてる道の
交わったところまで来ると、真っ赤に色づいたナナカマドの木が、まる
で目印みたいに立っていた。昨日の嵐のせいで、まだ葉にはしずくが
付いていて、それが鮮やかさを際立たせていた。ぱきらは、いろんな
角度から写真を撮りまくった。

ここまで来たら、後は勝手知ったる前回下った道。雷鳥平まであっと
いう間だ。この辺に来ると、下から登ってきた人たちとすれ違うように
なった。今日はいいお天気で最高だな〜。うらやましい。でも、今日
は行楽シーズン真っ只中の3連休の初日。さぞかし小屋は混んでる
だろうな。

そうして、ワタシはまたあの『恐怖の橋』(初めての方、忘れた方は
「大日岳トレッキング奇行」をどうぞ)を渡らねばならなかった。顔は
正面を見て、目線はなるべく下を見ないようにして・・・あぁ・・・何回
通ってもいやなところ。こんなワタシに下の廊下なんてとてもムリ。

何とか恐怖の橋をやり過ごし、雷鳥沢のキャンプ場にたどり着くと、
木のベンチに座って、軽いおやつを食べて小休止。テントもちらほら
あるけど、ゆうべのあの雨あられの嵐の中、いったいどうしていたの
だろう・・・。

前回と違うところはここから、ぜーはーぜーは言って結構急な上りを
登って室堂に向かうのではなく、地獄谷方面に向かって歩き、天狗
平を目指した。上りには違いないけど、こっちのルートは回り込んで
行くから、ちょっと緩やかみたいだった。

少し歩くと、これまでとは違う、灰色を基調とした、なんだか荒涼とし
た景色が広がっていて、そして・・・臭い。あちこちから火山性ガスが
噴出していて、所々黄色くなっていて硫黄の匂いが立ち込めている。
遊歩道しか歩いてはいけない、と看板の注意書きに書いてあった。

確か、立て看板の注意書きには『あまりガスを吸い込まないように』
とか『手や顔を近づけないように』って書いてあったような気がするけ
ど、そんなこと言われて意識すると、余計に深く息を吸ってしまうよう
な気がしてならなかった。別に死にはしないだろう。顔だって、今は
もうないけど、若い頃ニキビに悩まされてた頃なら近づけてたかもし
れない(笑)。

ここは、前にも来た事があったけど、久しぶりだったので、ぱきらと
きゃっきゃ言いながらキョロキョロしながら歩いた。おもしろかった。
ひときわ大きい、塔みたいな黄色のつくんとしたのはすごかった。
帰ってきて調べてみたら紺屋地獄とか鍛冶屋地獄とかって言う名
前が付いているみたいだった。ここから振り向いてみると、また剣
岳が顔を出していた。昨日のお天気を思えば、今日は青空で何も
かもが気持ちよかった。

地獄谷を過ぎると、今度は広い谷を回りこむようにして天狗平に続
いている。ここに来るともう剣は見えなくなったけど、少し小高い所
に室堂が見えてきた。観光客もいっぱい見える。ここも殆ど高低差
はないのでラクちん、ラクちん。谷の突き当たりまで来ると、Uター
ンをするようにして、今度は谷の向こう側になる。ここから振り返る
と、今度は昨日縦走したコースがよく見える。なんて気持ちのいい
お天気。右手にはまた大日三山も見えて来た。

天狗平付近に来ると、ベンチがいくつもあったので、眺めのいいこ
の辺りでお昼ご飯を食べることにした。ちょっと贅沢だけど、大日
三山を目の前に出来るベンチに腰を下ろして、その前にもあるベ
ンチもテーブル代わりに使わせてもらうことにした。そのにわかテ
ーブルで、いつものようにぱきらがお湯を沸かして、カップラーメン
の用意を始めた。

今日のお昼は、昨日の山小屋で頼んだお弁当。どんなお弁当だ
ろう〜♪ってごそごそとリュックから取り出して店開き状態。実は
そのにわかテーブルの向こう側は遊歩道。いろんな人が行き交う
ところ。登山の格好をした人もいれば、単なる観光できた軽装の
人もいる。ここはそんなところ。そこを通りながら、ちらっとワタシ
達の方を見て、クスクス笑って行く人もいた。ちょっと恥ずかしか
ったけど、まっ、いいか。

お弁当の紙包みを開くと、おにぎりの他に、甘い煮豆やら漬物や
らがちょこちょこっといろいろ入っていて美味しかった。暖かくてい
いお天気で、360度どこを見ても最高の景色で、こんなところで
美味しいごはんを食べれて最高にしあわせだった。

隣のベンチには、ワタシ達の父親くらいの年齢のおじさんがひと
り腰掛けた。と、思っていたら、5本入りちくわをむしゃむしゃと
食べながらビールを飲み始めた。ちくわかぁ〜・・・ちくわもいいか
も♪これからのルートを、地図を見ながら悩んでいたぱきらが話し
かけてみた。おじさんは今朝、下から登って来たらしかった。ビー
ルとちくわを持って(笑)。父も、元気だったらそうしていたかもなぁ。

ここ天狗平から、次のバス停のある弥陀ヶ原までの旧登山道が
どうなっているのか知りたかったのだけど、すぐ近くにある天狗平
山荘で訊いた方が一番いい、とのことだった。そっちがダメだった
ら、案外バス道を歩くのもいいみたいだった。バスに乗って走って
しまうとあっという間に通り過ぎてしまうから。

素晴らしい景色を存分に堪能してから店じまいをして、とりあえず
天狗平山荘で今日初めてのトイレ休憩。ここは有料だった。旧登
山道は「たぶん」大丈夫だろうと言うことだった。

山荘の裏手に回るようにして旧登山道は始まっているみたいだった。
昨日の雨で道がぬかるんでいることは充分予想できたけど、始まり
のところに来ると「ぬかるんでいる」どころか、それは小さいけど立派
な「流れ」を作っていた。その細い流れを避けながら、ぐらぐらする割
と大きい石ころの上を用心しながら下っていった。いきなりストレス溜
まりそ〜な予感。。。そして、アスファルトのバス道路はみるみる遠ざ
かり、私たちはどんどん山の中に入っていった。

少し行くと視界が開け、ワタシの大好きな橙色のきれいなナナカマド
があった。この辺りは、大きな岩がところどころにあって、お弁当を食
べている年配の夫婦らしき人もいた。

そこを過ぎるといよいよ久しぶりの藪の中。視界はまた狭くなった。
ただ、藪って言ってもこの季節なので周りの下草は枯れてるし、木々
の葉っぱも結構落ちているので、お日様の光も針葉樹林のところを
除くと充分届いていて暑くなった。昨日のお天気とえらい違いだった。

足元は思った以上に悲惨だった。水溜りを避けて、足がかりにしたつ
もりの石や木の根っこはぬるっとしているか、そうでなかったらぐらっと
来る。その度に、しょっちゅうズルッとずっこけそうになり、必死でつか
んだその辺の枝はボキっと折れたり、頼りない笹だったり・・・。一体
何を信じたらいいのか、何を頼りにすればいいのか分らないワタシは
相当苛立っていた。もう、泣きたい気分だった。

そう、こんな時、頼りになるのは、やっぱり自分の筋力だけなのだ。
ぱきらは、そんなワタシを置いて、いつものようにサルの様にするする
と下って行くのだった。

晴天の青空の下、立ち止まっては文句を言って、また立ち止まっては
ため息をついて・・・。そうやって、またワタシのペースでのろのろ下っ
て行った。遠くのくねくねしたアスファルトの道路を小さいバスが登って
行った。

それにしてもこんな旧道を通る人はワタシ達くらいなのか、こんなシー
ズンなのにほとんど会う人もなく、別世界にいるみたいだった。出会っ
たのは、歩き初めた頃にお弁当を食べていた一組と、もう一組。やっ
ぱり年配の女の人3人組だった。昔を思い出してこの道を通っていらっ
しゃるのかな。何度も足をゲクって、今度こそくじいたような気がして、
恐る恐るびっこを引いて歩くワタシにやさしく声をかけてくださった。結
局足は大丈夫だったけど。

そして、「こんな坂どうやって下りれっちゅうねん」と言いたくなるような
(たぶん言ったと思う)急な細い下りを降りていくと、ようやくアスファル
トのバス道路に出た。自分達が通り抜けて来たところを振り返ってみ
ると、木々が覆いかぶさっていた。どこからそこに出てきたのか分らな
いくらい。もう少し視野を広げてみると、濃い緑と紅葉した赤と黄色の
コントラストがきれいだった。弥陀ヶ原のバス停までは、このアスファル
トの道を少し歩くとすぐに着いた。

バス停にはすでにたくさんの人がいた。これから上がる人、下る人、ど
っちもいる時間帯。とりあえず、どの時間のバスに乗れるかだけ確認し
てからゆっくり休憩することにした。自販機もあったけど、どうせならと、
すぐ傍にある高原ホテルに入ってみた。館内は暖房が効いていて、一
瞬え?って思ったけど、それはただ、自分が歩いてきたから暖かいだ
けで、ちっともおかしなことではない。どうせワタシのカラダもすぐに冷
えてくるはず。後になって、ワタシはトイレの便座の暖かさをしみじみ
ありがたく思うことになるのだった。

さて、ロビーに座って喫茶メニューを見たけどちょっとさみしかった。
クリームソーダーがどうしても飲みたかったんだけどなぁ。。。時間が
あるので、写真を撮りたいぱきらと外に出てうろうろ歩いてみた。何度
見ても、コントラストがほんとにきれいだった。さっきの三色の他に白
樺の細い白色と薄い茶色が柔らかい印象を与えてくれた。近くもなく、
遠くもないところの景色。

いよいよバス待ちの行列に加わってはみたけど、さっきより人は多く
感じられた。バスが何台も何台も行ったり来たりしていた。列を前後に
なった人同士でも山の話は尽きなかった。おじさんは、昔を懐かしむよ
うに目を細めて、ワタシ達に、どこまで登って来たのかを尋ねられた。
ワタシ達もやがてはそうなるのかな(笑)。

ほんとに乗れるのかどうか心配だったけど、係りの人が言った通りちゃ
んと乗れた。バスの窓から、最後になった景色を惜しみつつ美女平へ
と下っていった。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。おわり

          
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